学校にて3
嵯峨さんの問いに、誰も答えなかった。
今この教室にいる五人に共通しているのは、向こうで死ななかったという一点だけだったから。
「沢田石が向こうで死んで、それでこっちでも……嵯峨さんが言いたいのは、そういうことだよね」
僕の言葉に、嵯峨さんは静かにうなずいた。
「……あり得るね。急な病死とか、あの黒い存在の仕業よりは、よっぽど筋が通る」
無月が低く呟く。
「でも、でもそんな……そんなことって……!」
「可能性の話だよ、八重。あの世界に行った時点で、常識の範疇はとうに越えてた。死が現実に反映されたって何もおかしくない。……逆に、されない方が都合が良すぎる」
無月の冷静な言葉に、誰も反論できなかった。
「向こうで死んでたら、こっちでも死んでたかもしれねぇのか……チッ、あの国の連中、ますます許せねぇな……」
御法川は机の縁を強く掴み、舌打ちした。
「……兵士やモンスターが死ぬのは、戦争みたいなものだって受け入れてたけどさ。どこかで、ゲームの世界みたいに思ってたんだよね。自分たちは死なない、みたいな」
四方田さんが自嘲するように口元を歪める。
誰も次の言葉を口にしなかった。
嵯峨さんの呼吸だけが、次第に浅くなっていく。
膝の上で握られた指先から、血の気が引いていた。
無月がその様子へ目を向ける。
「真偽は、今ここでは確かめようがない。一度、別の確認をしよう」
全員の視線が無月へ集まった。
「皆、帰還する時に選んだ特典は何にした? 現実へ持ち帰れるものを、二つまで選べるっていう話だ」
「あっ、えっと、私はエゴと魔法!」
四方田さんの声が、わずかに明るくなる。
「……私も。エゴと、魔法」
嵯峨さんも呼吸を整えながら、小さく答えた。
「だよね。エゴ以外で持って帰りたいものって、意外と迷うよね」
エゴも魔法も、本当にこちらで使えるのかは分からない。
それでも、先ほどまで俯いていた顔が少しずつ上がっていく。
「依代は?」
無月に尋ねられ、右手を軽く持ち上げた。
「エゴと、この指輪だよ」
「えっ……わざわざその気色悪いの選んだの」
嵯峨さんが露骨に引いた。
「しかもお前のエゴ? あの役に立ちそうもねぇの選んだのかよ」
御法川がニヤつく。
「うん。御法川とハサミは使いようってね」
「なんだそれ?」
御法川が眉をひそめる。
その顔を見ながら、僕は無月へ視線を移した。
「そういえば……魔王が倒された時、アナウンスが流れたよね?」
「ん、ああ。流れてたな。……それがどうかしたか?」
御法川が首を傾げる。
「いや、別に大したことじゃないんだけど」
「深谷無月って、誰?」




