第三話 友達ゲット、かな?
翌日、さっそくルーメン英雄学術院の学院長という、とんでもなくヨボヨボのおじいちゃんがやってきて、にこやかに学術院について説明してくれた。
学院長の話を要約すると、この世界では誰もが日常レベルの生活魔法を使えるらしい。
魔法陣を組み込んだ魔道具もあり、基本的な生活は日本と変わらないようだ。
すごい……。マジで異世界転生じゃん。
だが、魔王討伐に使うような本格的な戦闘魔術は、専門の教育機関で学ばないと使えない。
その最高峰が、ここ『ルーメン英雄学術院』。十六歳から十八歳の若者たちが集まる全寮制の学校だ。
未来の国家エリートを育てる場所で、卒業後は家門を継いだり、文官や騎士など、それぞれ活躍の場へ羽ばたいていく。
オレとキョウスケは、勇者が集う『ブレイブクラス』の一年生に編入することになった。
「ブレイブクラスって、俺とこいつの二人だけってことか?」
キョウスケが不満そうに口を曲げる。
「いや、ブレイブクラスの一年生には、『痣の勇者』が十人ほどおるぞ。」
またしてもゲームにはなかった設定だ。
何でも、ルーメン王国に生まれる男児には、『勇者の痣』を発現する子どもがいるらしい。
痣を持つ子はもとから魔力や体力が高く、さらにアサヒたちと同じように十七歳になるとギフトを与えられ、強大な能力を持てる。
国は、強大な力による混乱を招かぬよう、痣を発現した男児を保護し、痣の勇者として大切に教育しているのだそうだ。
ついでに言うと、召喚された勇者はさらに魔力もギフトも強いらしい。
昨日のアサヒたちの召喚劇は、チート救世主の登場としてすでにニュースになり、国中大騒ぎだそうだ。
「ただ、クラスといってもあくまで所属の話で、授業は貴族の子息令嬢が所属するノーブルクラスも含めた選択制ですのでな。
真の勇者を目指し研鑽を積むなかで、きっと心から信頼できる友を得られることじゃろう」
明日から学術院でお待ちしておりますよ。
フォッフォッフォッと、マンガみたいに顔中をしわくちゃにしながら学院長は笑った。
*
そして迎えた初登校日の朝、
「つまりよー、まあ細かいことはわからねぇけど、学校行って強くなって、魔王を倒しゃいいってことか?」
白を基調とし、肩や襟元、袖口にルーメン王国の紋章が金色の刺繍であしらわれた騎士風のボレロジャケットに袖を通しながら、キョウスケが言った。
パリっとした高めの詰襟カッターシャツが苦しそうだが、深いネイビーのスラックスとあわせると、キョウスケも良いところのご子息に見える。
昨晩、キョウスケにはここがゲームの世界で、学校など違いはあるが、大まかな流れは同じであることを説明してあった。
虚無ゲーだと言ったときの不機嫌っぷりにはビビったが、話を聞くと「まぁわかんねぇけど今日はいいや」とすぐに眠ってしまった。さすが一軍。
「うん。ゲームのことは二人だけの秘密にして、こっそり『ユウト』を探してみよう。とにかく今は、やってみるしかないね」
同じ制服を着たアサヒも、すこしはモブから進化しているのだろうか。
ちらりと鏡を見る。
……!!
なんとそこには高級な服を着たモブが、ぼんやり突っ立っていた。悲しい。
学術院は城から馬車で三十分ほど走った王都のはずれにあった。
門を入ると、とにかく広大な庭、城と同じくらい立派で大きい建物が目に飛び込んでくる。
「でか…!!!」
アサヒは思わず呟く。
ちらりと対面に座るキョウスケを見ると、すでに窓枠に手をかけ、身を乗りださんばかりに外の景色に釘付けになっていた。
馬車のスピードが落ち、視界が一気に開ける。白亜の巨大な校舎、雲を突き刺しそうなほど高い時計塔、庭に咲き誇る見たこともない極彩色の花々。
「おいアサヒ!やべぇぞこれ……!!本物の魔法学校じゃん……!」
窓から吹き込む風にキラキラと茶髪をなびかせながら、キョウスケは声を震わせる。
その横顔は、これから始まる勇者生活への期待感で輝いていた。
*
異世界転生勇者として、輝かしい未来が始まる……!!
キョウスケほどではないが、アサヒだって少しは期待していた。
期待していたのだが……。
入学してたったの数時間。すでにアサヒは疲れていた。
まず、ブレイブクラスのクラスメートたちからは笑顔で迎えてもらえた。
「召喚勇者様と学びを共にできるなんて、感無量です!」
「共に魔王を討ち滅ぼしましょう!」
なんて声をかけられ、
いやー、僕、ただのモブですよー、困ったなーテヘヘ……。
なーんて思っていたのだ。
でも、いざもっと話をしようとすると、
「いえ、私たちがアサヒ様とお話するなど恐れ多いです」
一様に顔を背けて、そそくさ離れてしまうのだ。
クラスメートの態度はキョウスケにも同じようだった。
……いや、負けないぞ。
アサヒは諦めず、五人目の挑戦で、まっすぐな薄茶色の髪を耳下で切りそろえた青年に話しかける。
「はじめまして!タチバナ・アサヒです!この世界のことが全然分からないから、色々と教えてよ!」
どこか生気が抜けた目をアサヒに向け、青年は応える。
「アサヒ様とお話できて光栄です。ここはルーメン英雄学術院。国中のエリートが集まっております。どうぞ私ではなく、有望な御子息達と交流を図ってください」
……またこれだ。
会話が通じてるんだか分からない!
こいつらはおなじことしか言わないNPCか!
ん?NPC?
何かに気づきかけた瞬間、冷え渡る氷のような声がアサヒに刺さった。
「召喚勇者殿。我々は魔王討伐のために昼夜鍛錬している。むやみに話しかけ、集中を削ぐのはやめてもらいたい」
あんまりな物言いに、勢いよく声の主を振り返る。
はあ?仲良くしたいだけだろう!
口からでかかった文句は、その人物を目にした途端にぽっかりと消えた。
正統派、超弩級イケメン!!
人形のように彫りが深く整った顔に、サラサラの青みがかった銀髪が揺れる。
特注だろうか、銀色の刺繍がされた制服に身を包んだ美青年が、頭一人分高いところから冷ややかにアサヒを見ていた。
イケメンの冷たい目、怖ーーーーい!!!
アサヒは内心の恐怖で泣きそうになりながらも、モブとしてのプライドだけでその美青年を睨み返した。
すると、美青年の肩の後ろから、ひょっこりと栗色の頭が突き出された。
「まあまあアルベルト。召喚勇者様はまだ赤ちゃんの状態なんだよー?」
踊るように滑らかに、癖のある栗色の髪の青年が二人の間に割り込む。
「驚かせてごめんね勇者様。オレはテオ・バルトフェルト。一応男爵家でノーブルクラスなんだけど、戦闘系の授業も受けてるから、一緒になることも多いと思うよ。これから仲良くしてほしいな!」
テオはバチンとウインクして、ぐいぐいと美青年の背中をアサヒの前へと押し出す。
「そして彼はアルベルト・ヴァルハイト。代々武官を輩出する名門伯爵家のご子息で、さらに勇者の痣が出現したハイパーエリート様だよ!」
アルベルトはうるさそうにテオを振り払うと、フンと鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
「天才のくせに、毎日血がにじむような特訓をしてる努力家さんなんだよねー。だから、召喚勇者様の登場が、悔しくてピリピリしちゃってんの」
「テオ! 余計なことを言うな!」
耳まで真っ赤にして怒るアルベルトをなだめながら、テオはアサヒにごめんね、とおどけて手を合わせる。
「違う!私はただ学術院のルールを教えようとしただけだ」
フイと横を向いたまま、いかにも不機嫌そうに反論するアルベルト。
「あーはいはい、わからないことは自分に聞けって言いたかったのね」
大人と子供の喧嘩のようなやり取りを見て、アサヒは思わず吹き出した。
「そうだったんだ。うるさくしてゴメンね。でも、オレ、頑張るからさ。いつか認めてもらえるとうれしいな」
まっすぐに見つめると、水色のガラス玉のようなアルベルトの瞳が揺れた。
テオが右手を差し出す。
「僕のことはテオって呼んで!こっちはアルベルト。この世界は貴族社会だけど、学術院は公平な場所なんだぜ!」
「ありがとう。オレのことはアサでいいよ!」
アサヒはテオと握手を交わす。
「召喚者が与えられるものに、負けるつもりはない。だが、努力をするなら助けてやる。」
口をへの字に曲げつつ、アルベルトも右手を差し出してきた。
なんだそれ。ツンデレか。異世界イケメンテンプレか。
モブのオレがこんなキラキラした人たちと握手をするなんて。
異世界生活、とりあえず、友達ゲット…かな?




