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第二話 魔王は、ワンパン

ひげの男性は、アルベリヒ・ルーメンと名乗った。

「この国の王であらせられる」


隣の、痩せ型でキツネのような目をした男が続ける。この男も王様と同じくらいの年齢だろうか。


何でもオレたちは、このルーメン王国の外れに潜み、世界の滅亡を目論む魔王から、世界を救うため、神によって召喚された勇者らしい。


……うん。知ってる。


だって昨日プレイしたし。


朝陽は頭のなかで返事をしながら、キツネ目の男(宰相のバルタザールさんと言うらしい)を見つめる。


隣では、変わらず目をキラキラさせた響介が話に聞き入っている。


「召喚勇者は神から素晴らしい能力を授けられ、この世界の誰よりも強くなれるといわれています」


「まじかよ!?チートってやつだよなぁ!オイすげぇな!!」


響介は朝陽の肩を揺さぶりながら話しかけてくる。


「そうかも知れないね……すごいね……」


曖昧に笑い返しながら心の中でそっと付け足した。


そうだよ。

魔王なんてワンパンだよ。


「ほかにやばいやつらは襲ってくんのか?」


「はい。魔王は魔族と共に五十年、国の外れの禁足地に潜み、世界の滅亡を狙い続けています。今は膠着状態が続いていますが、魔王がどんな手を打ってくるかは、我々にも予想できないのです」


こえーーーっ!!


はしゃぎつづける響介に頭をガクガク揺さぶられながら朝陽は思う。


大丈夫だよ。魔族なんて一匹も出てこないから。



朝陽が昨晩プレイしたゲームは、人気クソゲー実況配信者が紹介して話題になったフリーゲームだ。


家庭用ゲーム機で、初めてでもゲームが作れる!がウリのソフトで制作された、チープなドット絵のRPG。


タイトルは『ユウトを助けて』


主人公は召喚勇者として、魔王を倒すために神の扉を通ってルーメン王国に招かれる。


レベル上げの要素はない。ただただ城を歩いていると、勝手にレベルが上がっていく。


たまに村に出向くイベントがあるが、建物と人がいるだけで何もない。NPCは「ここは、〇〇の村です」ばかり。


全ての訪問イベントを終えると、城内に魔王が登場。そこでコマンドで戦うを選択すると、一発で魔王を倒すことができる。


すると突然ユウトと、シュンとヤマトという謎の人物がいきなり現れて、一緒に扉をくぐってハッピーエンド!というとんでもなくお粗末なものだった。


いや、ユウトそこにいるんかーい!


てか、あとの人たちだれー!


配信は大いに盛り上がっていた。


制作年は数年前だったが、制作者の『ミサキ』さんは子どもで、設定作ったら疲れちゃったのではないかと、配信者は結論づける。


ミサキさーん!もし配信見てたら当時のこと教えてねー!なんて手を振って配信は終わった。



そんなわけない。


アサヒは思った。

きっと踏み込んだストーリーが、隠し要素が、どこかに必ずあるはずだ。


はやる気持ちを抑えゲームをダウンロードして、くまなく捜索すること二時間。


本当に、全く、完全に、なーんにも出てこなかった。


ごめん響介君……。


たぶん期待する展開には、ならないと思う。


朝陽は心の中でそっと手を合わせた。





一通り説明を聞いたあと、バルタザール宰相に名前を聞かれた。


「ヤノ・キョウスケッス」

「タチバナ・アサヒです」


それぞれ名前を名乗ると、大人たちは小さく息を呑んだ。


「お前、アサヒって名前だったんだな」


こっそり耳打ちするキョウスケに、アサヒは乾いた笑いで応える。


「それで、お二人の今の年齢は何歳ですかな?」


バルタザール宰相のキツネ目がニィと細められ、目尻に深いしわが刻まれる。


このセリフも昨日のゲームで見た(もっとも、ゲームでは『あなたは』だったが)。


「十六歳です」

「十六ッス」


同時に答えると、今度は満足そうに口元をつり上げた。


「なるほど、ではお誕生日はいつですかな?」


「はぁ?誕生日?九月一日だけど」


キョウスケの眉が訝しげにひそめられる。アサヒは慌てて答えた。


「オレは八月二十日です」


満点の回答を聞いた教師のように、大きくバルタザール宰相が頷いたところで、ずいと割り入ってきた人物がいた。


「皆様、今日のところはここまでで。二人とも、突然招かれて戸惑っていることだろう。今日は身の回りのことを確認したらゆっくり休んでくれ。部屋を用意してある。この後のことは、私が案内しながらお話ししよう」


ギルバート・シュバルツと名乗る壮年の男性が進み出る。年は四十歳ほどだろうか。


シルバーグレーの髪をなでつけ、右頬に斜めに走る大きな傷が印象的だ。



そのままギルバート卿に連れられ、城内の客室へ向かう。


部屋を出る際、アサヒはそっと振り返った。


何もない白い部屋の中央に置かれた乳白色の重厚な扉。


ピタリと閉められ、表面に施された繊細な彫刻が天井から注ぐ光を反射し、キラキラと光っている。


「オレたち……帰れるんですよね?」


アサヒはこの世界に来て、初めて質問をした。


ギルバート卿の鷹のように鋭い目が、ギョロリとアサヒを捕らえる。


「扉を開けられるのは祝福の神アウローラ様のみだ。貴殿らには申し訳ないが、今はなんとも言えぬ。しかし、魔王を倒すよう招かれた貴殿らなら、使命を果たせばきっと扉は開かれるであろう」


ギルバート卿は不器用な微笑みを浮かべた。




石造りの冷たい廊下をひたすら歩く。


廊下にはアサヒたちの足音と、ギルバート卿が腰につけた大きな剣の、ガチャガチャという音だけが響いている。


城は広く、初めて来た人はきっと迷子になるだろう。


しかし、アサヒは完璧に歩ける自信がある。

昨晩この城をゲームでくまなく動き回ったからだ。


『ユウトを助けて』が虚無ゲーと言われる理由の一つが、やたらと細かい城内構造にある。


いや何個作るんだよ!

そこまで細かくはプレイヤーも求めてないよ!


ってほど、先ほどの神の扉の部屋から、大広間、客室、庭に至るまで、とても丁寧に描写されていた。


これは絶対に秘密がある!


アサヒは確信し、城内を調べまくった。


ちょっとした隠し部屋を見つけた時なんかは、そりゃあもう興奮したが、部屋があるだけで何もなく……。


結局徒労に終わり、無事虚無を味わったが、まさかこんなところで役に立つとは。


やっぱりここはゲームの世界か……。


廊下の静寂を破り、ギルバート卿がおもむろに口を開いた。


「先ほど、貴殿らの誕生日を確認したのは……十七歳の儀式の準備のためだ」


十七歳の儀式とは、勇者が十七歳になる日の深夜零時に神に願うと、願いに沿ったギフト(特殊能力)が与えられるというものだ。


ゲームも同じ設定だった。


もっとも最初に説明があっただけで、何のイベントもなかったが。


ミサキ!設定を決めたらちゃんと作れよ!


イベントなしってなんだよ!!


昨日の虚無を思い出し、心のなかで制作者ミサキに猛烈に毒づいていると、前を行くギルバート卿の声が響いた。


「だが、ギフトだけで倒せるほど、魔王は甘くない。そこで、貴殿らの身の安全を確保しつつ、この世界の戦い方を学んでもらうため、ルーメン英雄学術院に入学し、真の勇者となるべく研鑽に励んでもらいたいのだ。


なに、心配することはない。召喚勇者は神のご加護で成長も早いと聞く。


さぁ、部屋についた。詳しい話は明日にして、今日はゆっくり休んでくれ」


ギルバート卿は、腰の剣をガチャガチャと鳴らしながら去っていった。


その後ろ姿を呆然と見送りながら、アサヒは混乱する。


ゲームでは学校なんて要素は全く出てこなかった。


どうやらゲームとそのままそっくり一緒ではないらしい。


「どういうこと…?」


大きな疑問を残し、召喚一日目は過ぎていった。

たくさんの作品の中から、本作をお読みくださりありがとうございます。本作は毎日18:00に、最新話を1話ずつ更新してまいります 。

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