第二話 アジトにて
遠くから微かに響く、残党たちの剣戟の音。王政の利権を貪っていたシュバルツ家との戦いも、これでいよいよ最後になるだろう。
革命の本拠地となった王都で、なんとか焼け残った『ごはん処 はと』のなかで、カナコはシュン、ヤマトとともに、静かに次の支度を進めていた。
「王政派も意外としぶとくて、参っちゃうね」
シュンの声に疲れがにじむ。
「こんなことなら魔王さんに全部ぶちのめしてもらえばよかった。あの人、王様たちをビビらせるだけビビらせたら、飽きたなんて言ってさっさと戻っちゃうんだもんなー」
「兄さん。そんな事したら、神の代わりにあの人が神になるだけだよ」
ひえーとんでもねえな。と、肩を寄せふざけ合う二人を見て、思わず謝罪がカナコの口をついた。
「ごめんね。あんた達をここまで巻き込むつもりはなかったのに。全員日本に帰してあげるべきだった……」
「なーに、言ってんだよカナコさん。ボクたちもう十五年も家族なんだよ? 母親を異世界に置いて帰れないよ」
シュンはヤレヤレと首を横に振り、大袈裟に肩をすくめて不敵に笑った。ヤマトも当然だというように頷く。
「そうだよ。それにカナコさん、オレたちだけで帰っちゃったらそれこそ心配だよ。知ってた? 今の日本って、ポケモン千匹以上いるんだってさ。オレ、金銀の二百匹までしか知らないのに……。あと、スマホ?とか絶対使いこなせない!! オレたちだけじゃ絶対に馴染めないよ」
ヤマトがわざとらしく頭を抱えて大袈裟に嘆くと、カナコは思わず吹き出し、店内の張り詰めた空気がフッと温かく解きほぐされた。
「カナコさん、感傷に浸るのはあと。革命の後は、新政府の立ち上げやらなにやら大変だよ? まだまだやることは山積みだよ!」
「あーあ、忙しいねー」
三人で顔を見合わせ、それぞれの支度に取り掛かる。
アオイたちは無事に日本に帰れただろうか。
扉が閉まったあと、魔王に全魔力をぶつけてもらったが、神の扉は壊れなかった。
ーー大丈夫。ユウトやキョウスケ、アサヒ君も一緒だ。何かあっても助け合ってくれる。
大きく息をつき、立ち上がろうとしたその時、
カナコの左手、銀色に鈍く指輪をはめた薬指が、何かにカツンと当たった。
粗いドットのブロックで組み立てられたような、カクカクとした立方体。
この世界の木でも石でもない、まるで低画質なCGがそのまま具現化したかのような異質の箱。
「なに……? この、箱?」
カナコはゴクリと唾を呑み、そっとそのフタを押し上げた。
箱の底に収まっていたのは、一枚の四角い紙きれ。
そこには、ゲームの画面をそのまま印刷したかのような、カクカクとした粗いフォントの文字が書かれていた。
【 ママヘ パパト ドウブツエン イッタヨ 】
「……アオイ」
カナコの目から、大粒の涙がポロポロと溢れ出して止まらない。
彼女はその涙をボロ布のような袖でガシガシと乱暴に拭い去り、ニヤリと不敵に口元を歪めた。
「あの子たち、無事に帰れたのね……!」
三人は互いの肩を壊れそうなほど強く抱き合い、今度こそ、涙を吹き飛ばすような心からの大笑いをした。




