第八話
カタカタ、カタカタカタカタ。おもちゃの関節みたいに鳴っていた。その音の発生源が、気味の悪い人型なのだが。
立ち上がりかけた碧依に、数体飛びかかってきた。
横から紫の光線が発射され、灰燼と化す。紫音の銃から発射された。
そのことに、碧依は遅れて気づいた。
「私に顔をくださいませんかぁ?」
怪異の歪な音が、嗤っているような気がした。
「悪趣味な奴だな。自分の顔を他人の顔で誤魔化そうとしやがって」
紫音は、銃を乱射する。次々に相手は消滅していく。
「……すごい」
思わず圧倒的な力に見惚れていた。
「ボーッとすんな! 早く変身しねぇと、殺されるぞ!」
紫音の叱咤に背中を押されるように、体勢を立て直す。
どうやって変身をすればいいのかと一瞬頭をかしげる。しかし、すぐに脳裏へ浮かんだ。
右手を逆手にして前へと突き出す。碧依の手には、いつの間にか細剣が握られていた。
服装が変化していく。青いフリルドレスは、いかにも魔法少女らしい。
「お、可愛いじゃねぇか。魔法少女らしくて」
制帽を被り直しながら、紫音が笑顔を見せてくる。
「からかってる場合じゃないでしょ!」
「悪い悪い」
飛び出してくる敵を、紫音は次々と撃ち落とす。その姿を見て、一度深く碧依は呼吸した。
戸惑っている場合ではない。やらなければやられる。理不尽だとも思うが、仕方ないと割り切るしかない。
細剣を握る手が震える。落ち着かせるように、目を閉じた。
「……ち、倒しても倒してもキリがねぇな」
紫音の声に乗って、相手のカタカタという音が聞こえてくる。こちらのことをバカにしているようで実に不快だ。
目を開けて碧依は剣を横に振った。
大量の中から三人の敵の首を撥ねただけに留まる。斬られた敵は、粒子となって消えた。
「まぁなんだ。初めてにしては及第点だと思うぜ?」
紫音の慰めに、肩を震わせながら頬を膨らませる。こころなしか碧依の顔は熱かった。
その直後に紫音は極太のレーザーで敵を薙ぎ払う。
肩を落とすと、紫音の苦笑した声が漏れた。
「この技は何回も使えるものじゃないからな。やっぱりいてくれるだけ助かる」
「うん、慰めにすらなってない」
「ははは、そりゃそうだ」
にしてもと、紫音は時間の止まった商店街を見回す。
碧依も釣られて顔を向けた。
先ほどの紫音の攻撃でだいぶ減らせた。一見すると。
しかし、建物の中から路地の中からとカタカタ現れる。
「やっぱり攻略条件を満たさないと無理か……」
「勝利条件ね……」
意識するのは自分たちの後方で気絶する美鳥。
彼女が最後に言ったのは、“本物の顔を探せ”。
「本物って言ったって──」
現れるのは、顔も覚えられない曖昧なものばかりだ。右を見ても左を見ても、認識するできない。
「そんなに、私を見つめないでくださいぃ」
気色の悪い声は、心の奥底がざわめく。
探されると弱点になるとしたら、碧依ならどうする?
──私なら堂々と晒さない。
それが致命傷になるのだから。攻撃にも回らない。
つまるところ、ここにいる者たちは全員、相手からすれば倒されても問題ないということだ。
「おい……おい!」
紫音の声が、碧依の思考を戻した。見ると彼女は少し焦りながら大軍を処理している。
敵の攻撃が苛烈さを増し、一斉に群がってくる。
「ぼーっとしてると飲み込まれるぞ!」
急かされるようにして、碧依は後方に飛び退く。碧依がいた場所に、抱きつくようにして敵が重なった。 一体が電柱に抱きつき、折れた。その光景を見て青ざめる。
捕まったら骨が折れるどころじゃない。
「お前をかばいながら戦えねぇからな」
「わ、分かってるよ!」
碧依の焦りを表すかのように、空の陽が落ちかける。もうそれくらいの間戦ったのかと、息を整えた。
彼女の影が敵の方へと長く伸びる。折り重なる奴らは、奇妙な動きで体勢を整えていた。
「逃げてばっかりじゃつまらないですぅ〜。鬼ごっこですかぁ?」
「そっちこそかくれんぼのつもりか?」
紫音の挑発にも乗らずに、ただくすくす嗤っていた。
チラリと魚屋のおじさんを碧依は見る。彼はいまだに止まったままであった。
そんなときに、自分の脳裏に違和感を覚える。
「ねぇ、紫音質問していい?」
「こんな時になんだ!?」
「怪異が現れるときは、私たち以外はときが止まってるんだよね?」
「それがどうした!?」
攻撃をギリギリ躱しながら考える。時たま剣で斬りつけるが、やはり相手にはダメージが通っているように見えない。
「つまり、怪異を倒さないと私たちは時間の外に取り残されて永遠に戦い続けるハメになるのよね?」
「そうだけどなんだよ!? 要領を得ないな!」
その言葉に確信を持つ。
「だったらなんで閉じ込められた時よりも、太陽の位置が変わってるの?」




