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第六話

 入学式の次の日から学校をサボることになるとは思わなかった。

 気分が悪いフリをして、学校を休むことにする。姉が仕事に出かけたのを見計らって、廊下に出る。


 玄関を開けて、戸締まりをする。一応、近所の人に見られていないか確認する。青いパーカーのフードを深くかぶった。


 電話の主が指定してきたのは、この街にある公園だった。少し歩くことになったが、遅刻はしていないだろう。

 敷地内に入ると、フードを脱いで辺りを見回す。


「よぉ」


 声をかけられて、心臓が口から飛び出るかと思った。そこには少女が二人いた。

 一人は滑り台に座っている。ポニーテールが太陽に反射していた。角度によっては紫色に見える不思議な色だ。快活そうなつり目は、紫色の光を帯びていた。

 もう一人はぼーっと空を見上げている少女。こちらは薄緑の癖のあるショートヘアだ。眠たげな瞳は、濁った緑色をしている。


 二人は近くの中学校の制服を着ている。それでも自分より背が高くて、碧依は本当に身体が小さいと思い知らされた。


「新しい仲間ができたと思ったのに、思った以上に頼りなさそうだな」


 その言葉に、思わずムッとする。


「馬鹿にするために呼び出したの?」

「ごめんごめん。そんな気はなかった」


 ポニーテールの少女は苦笑した。自分の胸に手を当てて、静かに名乗る。


「オレは花宮はなみや紫音しおん。で、そっちのぼーっとしてるのは末染まつぞめ美鳥みどり


 簡潔に名乗られて、ため息をついた。とりあえず話を聞くからには自己紹介から始めないとと思い口を開ける。


「私は──」

「尾上碧依。昨日入学した高校一年生。好きなものはチョコレート。恋人はいないけど作ってみたいと考えている。

 友達のあかりを大切にしており、無二の親友と思っている。自身のことは普通の女の子と思っているが、小さいことだけがコンプレックス。入学試験は平均点を少し上回るくらい。

 授業は真面目に受けるタイプだが、朝は弱い。よく夜更かしするのは姉に影響されてゲームを──」

「ちょ、ちょっと待って……! なんでそこまで知ってるの?」


 美鳥が語った内容に驚き、気味が悪くなり、一歩引いた。警戒するように彼女を見やると、興味なさげに視線をそらされる。

 その様子を見ていた紫音が、苦笑した。


「すまないな。美鳥はこういった奴なんだ」

「じょ、情報漏洩ってレベルじゃなかったけど?」

「見た人のことはなんでも分かってしまうのがこいつの能力でな……。だから普段は脳を働かせないようにボーッとしてる」

「なにそれ……?」


 昨日から続く非日常に、碧依は思わず肩を抱いた。


「ま、別に逃げてくれてもいいけどさ。昨日も言った通り、一人で戦ったら死ぬぜ?」

「……戦わないもん」

「それ襲ってくる奴にも言えるのか?」


 考えて、昨日の顔のない少女のことを思い出す。言い返せなくなって、視線を落とした。

 

「ま、幸い……怪物たちは一般人には危害を加えないらしいけどな。ただ、魔法少女になったのなら戦わないといけねぇ」

「なんでそんな?」

「先に進めないからだ」


 その言葉の意味が分からず、首を傾げる。代わりに美鳥がぼそっと言う。


「時間……止まる……」

「時間止まる?」

「そう、覚えがねぇか? 怪物が出た時お前以外の人間は全て動かなかったはずだ」


 言われて昨日のあかりのことを思い出す。怪物が活動している間、彼女は止まっていた。


「奴らはオレたち魔法少女を狙ってくる。目的は不明。倒すまでオレたちは時間の流れから隔離される」


 つまり戦うしかない。そう紫音は肩をすくめる。


「なんで」


 その言葉を否定するかのように、碧依は拳を握った。右手を胸に当てて、一歩前に踏み出す。


「なんで私なの!?」


 その言葉に、紫音が苛ついたように舌打ちをする。


「だから知らねぇって。オレだって選ばれて迷惑してんだ」

「……私も」


 二人の返答に、体が震える。


「あんな想いをして、二人は平気なの? あんな気味の悪い怪物と対峙して」

「平気なわけねぇだろ」


 紫音の一言が、碧依の口を止める。


「オレたちだって泣きてぇよ。やめてぇよ。でも、相手は待ってくれない」

「もう……慣れた」

「だったら、一緒に戦える仲間を作ったほうが良いだろ? 魔法少女の力を持つものなら、同じ空間で動けるみたいだからな」


 その考えには一理ある。理不尽が襲ってくるのなら、こちらは戦力を整えるしかないのだ。

 いつの間にか拳は強く握りすぎて手のひらに爪の跡が残っていた。


「……納得したわけじゃない。けど、またあんな理不尽な目に遭うなら」


 ──手を組むしかない。続けなかったのは、口に出してしまえば戻れない気がしてならなかったからだ。


「ま、そう簡単に割り切れるもんじゃねぇよな」


 大きくため息をつくと、紫音は続ける。


「でも、あんたに選択肢はないんだぜ?」


 その言葉が、碧依の胸にのしかかる。

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