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第四十二話

 碧依が飛ばした命令に、近くにいた赤穂とシーラが驚く。

 下にいる紫音はこちらを睨み上げて銃口を向けた。しかし、黄菜は碧依の命令通りバールで地面を叩いて人形を生成する。


 直後に鳴る下駄の音。刀が鞘から引き抜かれる音。

 まるで空気を裂くように、碧依の息が詰まった。


 黄菜の出した人形たちの首が飛ぶ。しかし、魔法少女たちは全員無事だった。


 とりあえず初撃を防げたことにホッとして、手すりに足をかける。


「碧依お姉様? これはどういうことですの?」


 振り返ると赤穂とシーラの困惑した顔があった。なんて言おうか少し迷ってから、頭に思いついたまま喋る。


「未来のエネルギーは魔法少女たちが戦い続けることで生み出されるでしょ? だから、すぐに死んでしまったら未来のためにならないよ」


 そう言うと、二人は納得したように頷く。こちらを妄信しているようで良かったと胸をなで下ろした。


 早速彼女たちと合流しようとして身を乗り出す。一瞬眠る美鳥の方に意識が寄ったが頭を振った。

 小さな声で感謝を述べると、そのまま階下へと飛び降りる。


「……ち、何が目的だ?」


 着地と同時に紫音が睨みつけてくる。横にいるクロも同様だった。あかりは不安そうな表情でこちらを見ている。

 一方の黄菜は、碧依に見えるように親指を立てていた。


「未来肯定派としては、簡単に死なれたら困るから」

「……ち」

「お前、本当に変わったね。残念だよ」


 紫音の舌打ちと、クロの辛辣なコメントに胸を痛める。悟られないように心の中だけで苦笑を浮かべた。


「わ、わっと! 碧依お姉様お待ちくださいませ!」

「よっと、無事っすか?」


 残りの二人も遅れてやってきた。一瞬で険悪ムードになりかけるが、それを刀が擦れる音が邪魔をした。


「……っっ!?」


 慌てて碧依は二本目の細剣を生成して、なんとか斬撃を受ける。

 攻撃を止めた剣はそのまま真っ二つに折れてしまい、思わずその強さに身震いをした。


「喋ってる暇ないから!」

「……わかってるよ!」


 紫音がヤケクソ気味に返事をする。他の魔法少女たちもそれぞれ武器を構え始めた。

 まだ覚醒していないあかりを中心に添えて、彼女を守るように円形陣を組む。


「まさか共闘することになるとは思わなかったすね」

「なんなのお前、皮肉なの?」

「碧依お姉様がいなかったらシーラはあなたたちのことなんか見捨ててましたわ」

「はん? あんたらに守られるほどオレたちは弱くねぇけどな」


 それぞれ言い合う少女たちの声を耳にしながら、神経を集中させた。


 下駄の音。ゆらりと碧依の目の前に現れたのは、狐のお面の少女。

 その刀は、まだ鞘に収まっている。


「嘘だろ、橙夏か?」


 紫音の言葉に続いて、クロと黄菜が息を呑んだ。一方で美鳥の言葉を聞いていた赤穂とシーラは別段驚いた様子はない。

 碧依は彼女の姿を見て、やっぱりかと確信する。


 狐のお面と目が合う。それは背筋を凍りつかせるほど薄ら寒い視線だった。


「寂しいなぁ」


 橙夏の声が聞こえる。その言葉が依然と違っていることに少し引っかかったが、今は気にしている余裕はない。


「……それで、橙夏の怪異はなんなんだよ?」

「一撃必殺特化。一対一最強」


 紫音に聞かれて短く碧依は答える。彼女の答えに、紫音はゴクリと喉を鳴らしていた。

 碧依は気にすることなく剣を生成し直して、構える。

 

 橙夏の手が刀の柄に触れる。


 来る──そう思った時には、碧依は吹き飛ばされていた。出していたはずの剣は音もなくすべて折れている。


「碧依お姉様!」


 シーラが大声を上げながら注射器を地面に刺す。白色の波紋が広がり、碧依をつつみ込んだ。彼女の能力は回復特化だと美鳥が教えてくれていたことを思い出す。

 

「碧依さん今手を貸すっす!」


 続けて近寄ってこようとした赤穂に向けて手で制止する。


「あかりを優先して!」


 その言葉の合間にも橙夏の攻撃は続く。

 

 黄菜の人形は簡単に崩される。

 クロは腹部を斬られ吹き飛んだ。

 紫音は銃を撃ったが当たらず、逆に腹を蹴り飛ばされる。

 赤穂の釘バットはあっさりかわされて、首を斬りつけられる。

 シーラは回復に一杯一杯で戦闘には参加できていない。


 圧倒的な攻撃に対して、碧依は歯噛みする。


 ゆらりと立ち上がり、手を構える。碧依の手にはいつもの細剣が生成される。それを握りしめてから、橙夏の背中に向かって投げつける。

 しかし、碧依の剣は振り向きざまに簡単に弾き飛ばされた。逆に懐に入られて、肘で顔面を殴られる。


 鼻血を出しながら宙を舞う。数メートルほど、地面に転がった。

 揺れる視界の中であかりの姿を探す。彼女はただ、おびえて立っているだけだった。

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