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第四十話

 萩谷はぎたにシーラ。彼女は魔法少女になる前はずっと病気で一人寂しく過ごしていたという。しかし、魔法少女になった途端に、体の調子が良くなり動き回れるまで回復した。

 そのせいか、未来人に感謝をしている。未来人を肯定する碧依の考えに強く共感し、彼女は碧依を妄信している。


 昨日の美鳥が教えてくれた彼女の情報を、碧依は頭の中で反芻させる。


 現在彼女は、ショッピングモールの渡り廊下にあるベンチに腰掛けていた。そのすぐ横でシーラが腕に抱きついてくる。


「碧依お姉様との買い物楽しみですわ!」


 顔を恍惚に染めて、首を肩に擦り付けてくる様子はまるで猫のようだ。碧依が曖昧な笑みを浮かべていると、シーラの後ろ首が赤穂によって引っ張られた。

 彼女の口からカエルを潰したような声が漏れる。


「いつもいつもなんで邪魔するんですのギザギザ女!」

「時と場合と人の気持ちを考えな」

「考えてますわ! 考えたうえで行動してるんですのよ!」

「救えないな……」


 一方、シーラを抑えているのは常梨赤穂。学校で馴染めずに擦れていた女の子。劣等感が激しく、魔法少女になる前は不良娘として腫れ物みたいに扱われていた。

 こちらもまた魔法少女になったことで転機が訪れた。自分でも誰かの役に立てるという気持ちが先行して、未来人の思想に乗っかることにしたようだ。


 この時間軸の碧依は、そういった未来人に利用されかねない魔法少女二人を守るために動いたらしい。その結果、派閥が生まれた。しかし、美鳥いわく、それも碧依の想定内だったようだ。

 この世界は未来人が接触を測ってきた時間軸。碧依は思想を肯定することによって彼らに取り入って弱点を見つけ出そうとしたらしい。

 

 味方を騙してまで皆を救おうとする。自分ならやりそうだなと、少し苦笑いをした。


 一通り話してくれた美鳥は、今は天井を見つめてボーッと立っている。

 昨日の様子はどこへやら。美鳥は何もしゃべることはない。


「それで碧依さん。ここに何しに来たんすか?」


 シーラを抑える赤穂がこちらに視線を向ける。訝しげな彼女に向けて、スマホの画面を見せた。


「向こうの魔法少女たちにここにいることだけ伝えた」

「……なんでそんなことを?」

「美鳥が観測したところ、ここらへんに新たな怪異が発生するらしいから」

「ははーん? さてはあいつらを戦わせて未来のエネルギーに変換しようって魂胆っすね?」


 嬉しそうに笑顔を見せる赤穂に、困ったような笑みを向ける。

 本当はそういったつもりではない。ここに来る怪異がとんでもないものだから、碧依はかなりの戦力を投入したかったのだ。怪異を打ち倒すために


「ふふーん! 碧依お姉様に逆らう人は皆未来の人たちの燃料になってしまえばいいのだわ!」


 小さな胸を張りながら、恐ろしいことを口走るシーラ。その言葉にできるだけ反応しないように碧依は努めた。

 きっと碧依の考えが二人にバレれば、いい顔をしないだろうから。


 二人のやかましい声を聞きながら、再び携帯に視線を落とした。

 メッセには紫音からの罵詈雑言の履歴が残っている。彼女とのやりとりは途中で既読がついたまま、しばらく返ってこなくなった。

 人に敵意を向けられるのがこんなにも心に来るとは。震える指を抑えながら、スクロールしていく。


 果たして、彼女たちは本当に来るだろうか。そう思っていると新着のメッセージが届く。送り主は黄菜だった。


『今ついたのですぅ』


 そう言う彼女の文章の後ろには、可愛い絵文字が添えられている。


『ありがとう』


 そう打ち込むと、すぐにどういたしましてですぅという返事が来る。


『これが終わったら全部本当のことを聞かせてほしいですぅ』

『どういうこと?』

『裏切ってから碧ちゃんは嘘ばっかりついてたのですぅ』


 その言葉に心臓が掴まれるような想いになる。嘘を見抜ける人間がこんなに心強いとは思わなかった。


『皆を連れてくる協力をしてくれたのも?』

『当然、私は碧ちゃんを信じてるからですぅ』


 ありがとうと再び打つと、またどういたしましてですぅと返ってくる。


 携帯から顔を上げて、周囲を見回す。

 休日昼のショッピングモールは、一般人で溢れかえっていた。すべての人が買い物やウィンドウショッピング、会話などを楽しんでいるように見える。

 

 羨ましい。碧依は素直にそう思った。

 普通の女の子だった記憶はそんなに昔ではない。それでも自分からすればだいぶ薄れてきてしまっている。何より、そのことに恐怖すら抱かなくなっていってる。

 完全に摩耗する前に、解決する。碧依は携帯を強く握りしめる。


 この世界ではあかりもいる。未来人との接続もある。

 最初は裏切り者扱いされて絶望したが、今ではチャンスだと思っていた。こんな好条件の時間軸などもう二度と引けないかもしれないのだから。

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