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第三十八話

 倉庫の地下に隠されていたのは、六畳一間の無骨なスペースだ。鉄の壁や鉄の床で囲まれているからか、少し錆び臭い。

 申し訳程度に置かれているのは、ボロ机とボロソファ。天井で明滅しているのは、裸電球だ。以下にも突貫で作ったかのような秘密基地であった。


 碧依はソファに座りながら、落ち着きなく貧乏ゆすりをする。視界の先には、壁を見つめてぼーっとしている美鳥が立っていた。


 彼女の能力はプロファイリング。一目見ただけでもその人のすべてが分かってしまう。碧依が魔法少女になって以来の再会だ。

 ただでさえ美鳥の怪異は爆弾を抱えるようなものなのに、まさかこんなところで出会うとは思っても見なかった。


 赤穂が机のうえにインスタントで作った紅茶を置く。その音だけで、碧依は心臓が飛び跳ねた。驚いたことを隠すように、下を向く。


「ま、安物っすけど、あたたまってくださいっす」

「……あったまる?」


 そこで初めて、自分が厚着の服を着ていることに気がついた。頬に寒さが通り抜け、身震いする。


「今って何月?」

「二月っすよ? 寝ぼけてんすか?」

「あ、あぁ……二月ね。ど忘れしてた」


 苦笑いを浮かべて、コップを手に取る。口をつけると、身体の芯から暖まった。

 それでもリラックスしてる暇はなく、視線は何となく美鳥に吸い込まれてしまう。


 彼女は相変わらず虚空を見つめていた。頭の容量を割かないようにボーッとしているとかつての紫音が説明していたっけ。


「碧依お姉様が帰ってきたって本当ですか!?」


 唐突な大声とともに、天井にあるハッチが開かれる。顔を覗かせたのは、見知らぬ少女だった。

 少し色の抜けた黒色の髪を、カールで巻いている。瞳には色がなく灰色となっている。


 何かの本で色素が薄くなるアルビノという病気を聞いたことがある。まさしく少女はそのような印象だ。


 碧依と目が合うと、瞳を大きく輝かせていた。ハッチから中に入り、はしごをそのまま降りてくる少女。床にしっかりと着地すると、碧依に抱きついてくる。


「シーラ、とても心配しましたのよ!」

「お、おっと……!」


 思わぬことに、体勢を崩しそうになった。

 困惑するように彼女の顔を眺めていると、首を傾げられる。


「あの、そんなに見つめられると、シーラは恥ずかしいですわ」

「あ、あぁ……ごめんなさい」

「……どうしましたお姉様? いつもと様子が違いますわよ?」


 なれない呼ばれ方をされて、思わず姿勢を正す。どうやらこのシーラという少女も、この世界での碧依の仲間のようだった。


「あ、うん大丈夫」

「本当ですの? もしかしてどこか怪我しませんか!? お熱はありませんか!? あぁ、シーラが代わりにすべてを引き受けます!」

「い、いやちょっと」

「遠慮しないでほら! 服をぬぎぶっ──!?」


 ハアハアと息を荒げ目を見開いていたシーラを背後から赤穂が殴りつけた。

 殴られた彼女は頭を抑えつけて、呻いていた。


「……何するんですのギザギザ女!」

「あんたが暴走するとややこしいからやめろ」

「なんでですの!? この、シーラの愛で碧依お姉様を支えたいだけですわ!」

「それをやめろって言ってんだ」


 二人の口論を苦笑しながら碧依は視線をそらす。やはり落ち着くことができない。

 右脚を無意識のうちに揺らしていた。


 その時、美鳥と目が合った。すべてを見透かすような目で見られて、心臓が一回高くなる。

 彼女の視線が探るように微かに揺れている。


 これは彼女に何か知られたかもしれないと、目を硬くつぶる。彼女の口から羅列される碧依のプロファイリングを覚悟した。


 しかし、しばらくしても彼女の声が聞こえてくることはない。


「碧依お姉様? どうしたんですの?」


 碧依はゆっくりと目を開いた。見えたのは心配そうに見るシーラの顔だ。


「やっぱりどこか悪いんですの!? このシーラ、碧依お姉様のたぶふっ──!」

「だからやめろって言ってるだろ」


 また二人が口論を始める。その中で碧依は自分の右脚がより大きく揺れていたことに気がついた。

 大きく息をついて、右脚の貧乏ゆすりを止める。


 恐る恐る美鳥のほうを見ると、彼女はまた興味なさげに天井を眺めている。


「碧依さん、もう安全だと思うっすから、外の風に当たってくるといいっすよ」


 赤穂の提案が、碧依の思考を現実に引き戻す。震える手を抑えながら、曖昧な笑顔を浮かべた。


「こんな狭っ苦しいところじゃ息もつけないっすよ? 向こうの魔法少女に命狙われたんすから落ち着くことが一番っす」

「じゃあシーラが寄り添ってあげまふっ──!」

「ほら、こいつはうちが抑えとくっすから」


 赤穂の言葉に、曖昧な返答をする。感謝を述べてから、碧依ははしごに手をかけた。

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