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第三十六話

「……はぁっ!?」


 碧依はまた自分の部屋で目を覚ました。首に手を当てて、問題ないことを確認する。

 荒くなった呼吸を落ち着けて、頭を抱えた。


「また……」


 自分は死に、時間軸を移動した。その事実が頭の中で巡る。


「は、あかりは!?」


 ここではどうなっているのか、布団から起き上がり携帯を取り出した。あかりの電話番号にかける。

 何コールしてもでない。やはりここでも死んでしまっているのかと焦る。


 諦めかけた時、電話は繋がった。


『……はい』


 聞こえてきた声はあかりだ。そのことに安堵した。

 少なくとも、この時間軸ではあかりは生存しているらしい。


「よかった」


 膝から崩れ落ちるように床に座ると、震えるあかりの声が帰ってくる。


『……何がよかったなの?』


 声色がいつもと違い、碧依は目を丸くした。


「え? どうしたの?」

『……どうしたもこうしたも、なんで電話かけてきたの?』

「なんでってあかりの無事を確かめたくて」

『碧依、もう電話かけてこないで!』


 一方的に切られて、何が何だかわからなかった。再び電話をかけようとするが、出てくれない。

 機械音声の案内を耳にして、呆然とした。


「やぁ、碧依」


 聞き覚えのある声が聞こえて、碧依は振り返った。ベッドの上には、当然のようにポコン助が座っている。


「ポコン助、これはどういうこと?」

「“僕たちにとっては”まずい時間軸に飛んでしまったようだね」

「……まずい時間軸?」


 どういうことか聞こうとして詰め寄る。ポコン助を持ち上げて目を合わせた。


 しかし──


「申し訳ないけど、この時間軸では君とはあまりお話できないようだよ」

「それってどういう……」

「じゃあね」


 碧依の言葉を聞く前にポコン助は動かなくなった。揺らしたりしたが、まったく持って反応がない。

 ただただ唖然とするしかなかった。


 そんな時、轟音が響き渡る。自分の部屋が吹き飛ばされ、碧依は宙に投げ出される。


「紫音さん、攻撃するときは結界を貼ってくださいですぅ」


 聞き馴染みのある声。体の痛みを我慢しながら地面の方を向くと、紫音と黄菜がそこに立っていた。

 紫音の手には武器が握られている


「悪い悪い。つい、裏切り者がのこのこと帰ってきたと知って、オレとしたことが我慢できなかった」

「もう、一般人に迷惑かけるのはダメですぅ!」


 数メートル吹き飛ばされて、体を打ちつけた。地面に投げ出された四肢は悲鳴を上げている。


「けほっ」


 喉の奥に詰まったものを吐き出すようにして、ゆっくりと起き上がった。その碧依の額に、銃口が突きつけられる。


「あかりから聞いたぜ? のこのこと電話かけてきたってな」

「……一体どういうこと? なんで私を……?」

「は? どうもこうも、先にオレらを裏切ってあいつらについたのは碧依だろ?」

「裏切り? あいつら? 何を言ってるの?」


 揺れる瞳で見上げると、紫音が訝しむように眉根を寄せた。


 紫音は確認するように黄菜のほうを向いた。彼女は首を横に振る。


「嘘をついてないってか? は、ははは!」


 紫音は制帽を被りなおして、笑い飛ばす。その目には怒りが滾っていた。


「オレたち魔法少女を使い潰しておいて、よく忘れられるな!」


 彼女の手が震えている。そのことからも、感情的なのが伝わってきた。


 この世界は何かがおかしい。碧依にとってまずい何かが起こっている。ポコン助が何も言わなかったのもそれに起因するのだろう。

 だったら手は一つだ。殺されてやり直す。その選択を心に決めて、碧依はゆっくりと座り込んだ。


 両手を上げて、抵抗の意志はないことを示す。


「潔良いな。罪悪感に苛まれたか?」

「罪悪感も何も……わけがわからないの」

「……ちっ! 調子の良いこと言いやがって!」


 紫音の震える人差し指が、引き金にかかった。


「どりゃっしゃあ!」


 その動作を、聞き覚えのない声が邪魔をする。その場にいるもの全員、声のしたほうを向いた。


 そこには赤い特攻服をはためかせる少女がいた。長い髪は風のあおりを受けている。手には釘バットを握っており、そのまま紫音に向かって振り下ろした。


「ち、赤穂!」

「あ、あかほ?」


 目まぐるしく動く状況についていけない。


 赤穂と呼ばれた少女が振り下ろした釘バットは、紫音を捕らえることはなかった。そのまま地面を殴りつけて、石礫を周囲にまき散らす。


「たくよぉ碧依さん。いなくなったらうちらが困るんですわ」


 赤穂は釘バットを自身の肩に当てると、笑顔をこちらに見せた。

 赤い大きな瞳はギラついていて、ギザ歯は噛み合わせよく笑顔を見せている。


「うちらは、碧依さんの未来思想に着いていくことにしたんですから」


 その言葉に、さらに碧依は首を傾げるのだった。

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