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第三十四話

 さらなる爆撃が加わって、焼け野原が加速する。建物という建物が崩れ、そこかしこから黒煙が上がる。

 碧依たちは何とか逃げ延びたが、息も絶え絶えである。


「……くっそ」


 肩で息をするクロが、苦々しい表情でつぶやいた。黄菜さえも流石に笑う余裕がなくなってきたようだ。


 街から湧き上がってくるのは骸骨兵士の群れ。指揮官が吹く笛の音が重なっている。

 兵士たちが整列して歩く姿は、終わらない戦争に見えた。


「兵士を全滅させれば爆撃。でも兵士を倒さないと追い詰められる。……どうしろってんだよ」


 クロも力が出ないのか、その場で座り込む。遠くから響いてくる軍靴は、死を運んでくるようだ。


 絶望の軍隊を眺めながら、碧依は手に力を込めた。下唇を噛み、震えを止めようと努める。


「勝利条件がわからないのですぅ……」


 元気のない黄菜が、ほぼうわ言のように呟く。


「戦争が終われば勝利」


 碧依が呟くように言った。息を整えたクロが、皮肉げに笑う。


「そりゃそうだ。勝利条件を満たせれば終われるからな」

「……ねぇ、戦争に勝つにはどうすればいいと思う?」

「は? そんなの、敵を殲滅しかないだろ?」


 それはそうなのだが、その敵の数が減らないのだ。突破口が見えない中、クロが待てよと言葉を発する。


「戦意喪失させても勝てるな。兵士たちに戦いさせたくなくすとか」

「そんなのどうしろっていうのですかぁ……。相手は怪異なのですぅ」

「例えば、一番上の指揮官を暗殺するとか」


 簡単に言うが、そんな余裕などない。それが勝利条件なら、ほぼ詰んでいる。


「それにトップを倒したところで、命令権がすぐ下に移るだけだよ。軍隊って頭が潰されたくらいで崩れるような構造はしてない」


 例えば前線での指揮官が倒せば一時的に凌ぐことができるだろう。体を張っている兵士にとって、命令が下されなくなることは生命線が絶たれるようなものだ。

 そんな浮き足立つ戦場の姿が、指揮官を倒せば部下たちは消えるという構造でこの怪異は表している。


 しかし、後方の指揮官となればまた別だ。本物の戦時中ならばいつでも暗殺のリスクが孕んでいるため、命令系統は複数に持たせている。この怪異が戦争を再現しているのなら、そこも忠実にしているに違いない。


「……だったら、どうするんだよ?」


 クロの問いに、碧依は顎に指を添えて考える。


「1945年8月15日。日本は何をもって戦争に負けた? 軍隊を解散させることにした?」

「……歴史の勉強かよ」


 クロはため息混じりに言って答えた。


「そりゃ圧倒的な火力の兵器だろ?」


 確かに日本はある爆弾を落とされて負けを認めた。しかし、まだ数多くの国民には戦う意思が残っていたはずだ。

 それでも、負けを認めた要因がある。


 足元に転がっていたラジオに目を向ける。爆撃にやられたからか、かなり破損していた。いつの日か、魚屋のおじさんが競馬放送を聞いていた代物である。


「……玉音放送」


 ふと、碧依は言葉を出した。


「終戦宣告だよ」

「……は?」

「ラジオから響いた声が、すべてを止めた」


 つまるところ、怪異に終戦宣告を聞かせることが勝利条件になるのではないのか。そして奇しくも、紫音自身も、魔法少女として戦い続けることを辞めたいのではないのか。


 怪異が魔法少女の性質を継いでいるというのなら、紫音にとっての終わりは他人から戦闘の終わりを宣告されること。


 碧依は顔を巡らせて周囲を見る。電波塔があることを確認して、この街にラジオ局があることを確かめる。


「放送流してみよう」

「は? 現実のものが使えるわけないだろ?」

「言ってみないとわからないじゃん。他になにかいい方法があるの?」


 碧依の問いに、クロは黙りこくる。代わりにゆっくりと立ち上がった。


「私はやってみるのが良いと思うのですぅ」

「……分かった。だけど、放送できなかったら即刻退避するからね?」


 クロの提案に、碧依は頷いた。


「それじゃあ……」


 黄菜はぴょんと飛び跳ねる。彼女の顔には笑顔が戻っていた。

 バールを振り上げると、地面を強くたたく。笛の音につられて走ってきた兵士たちを吹き飛ばした。


 動かした瓦礫を、そのまま複数体の人形に変える。軍隊に突っ込ませ、戦いを始めた。


「殿は私に任せるのですぅ!」

「ありがとう! でも……」

「わかってるのですぅ! 私たちを見失わせない程度に離すのですぅ!」


 黄菜の言葉に、碧依は無言で頷く。


 目指す場所はラジオ局に決まった。

 魔法少女たちは、戦争を終わらせる声を届けるために走り始める。

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