第三十三話
「碧依危ないだろ!」
クロの制止が聞こえる。しかし、そんな事を気にせずに突っ込む。
整列した骸骨の兵士たちの人差し指が、命令はまだかと微かに動いている。
彼らの横にいる制帽骸骨が、再び口元に指を添える。笛の音が鳴り始めて、碧依は細剣を投げた。
制帽骸骨の胸を貫く。彼は膝をつき、そのまま中に消えていく。整列した骸骨たちは慌てて消えた指揮官の方を向いていた。
鳴り響くはずだった笛の音は聞こえない。命令系統を失った一部の骸骨たちはそのまま消えていった。
「やっぱり……」
小さく呟く碧依の耳に、別方向から笛の音が聞こえる。やばいと思った時には、銃声が鳴り響いたあとだった。
クロが横から碧依にタックルし、なんとかギリギリ躱すことができた。仰向けで寝転びながら、早鐘を打つ心臓を落ち着ける。浅い呼吸を取り戻そうと、深く呼吸をする。
「お前死にたいのか!?」
クロの怒声に、思わず謝った。
再びの笛が聞こえてくると、碧依は体を起こしてクロとともにその場を離れる。陰に身を隠しながら、二人して息を整えた。
「で、何か分かったのか……?」
「あの骸骨たち一体一体に意思を持ってるように見えるけど、実際の意思は数人しか持ってない」
「……どういうこと?」
「やけに小綺麗な服の骸骨。奴を中心に一個体が形成されてる」
つまり、そこらにいる骸骨たちは手足だ。倒しても頭が残ってるから動き続ける。
しかし、制帽骸骨は動かすための心臓となっている。奴を倒せば指揮を担当していた兵士たちも消える。
だからといって、これといった決定打ではない。勝利条件もまだ分からない。
「それでも一歩前進だ。ありがとう碧依」
お礼を言われて、頬を掻く。少しは役に立てたかなと自信が出てくる。
息をついてから、再び手元に細剣を出現させた。
「……お前、剣を自在に出せるのか?」
クロの驚いたような声に首をかしげる。視界の端では、ちょうど黄菜が再びゴーレムポコン助を出して暴れているところだ。
「え? だってみんなも普通に出してるよね?」
「そりゃ消すことはできるけど、直接手で触れてないとできないよ。それにほら、あそこ」
クロが指差した先には、まだ碧依の細剣が地面に突き刺さっていた。つまるところ、碧依は新しく武器を生み出したということになる。
「それがお前の魔法少女としての本当の能力かもしれないね」
「……私の本当の能力?」
「ループ能力は、あのポコン助たちが後付けで付与した能力なのかもってこと」
その言葉を受けて、手が震える。震えを止めるように拳を握りしめた。
素直に喜べないのは、ポコン助が付与した能力じゃないってことだ。つまりこの武器を新たに生成できる能力は、この事態を作った元凶から与えられたもの。それを使うというのは、碧依の心の中に抵抗を作り出す。
それでも、この力を利用しないと生き残れない。そのことが碧依の悔しさをさらに増長させていた。
鳴り響く笛の音。それが碧依の思考を現実に引き戻した。ゴーレムポコン助を三度壊された黄菜が、叫びながら退避していた。
「とにかく、指揮官を倒せばいいんだな?」
「……それでいいと思う」
「どこか曖昧な返事だな?」
クロに言われて少し苦々しい顔をする。
「一時的な対処にはなるかもだけど、完全攻略となったら」
否定するしかない。
指揮官は歩兵への対処であって、怪異全体の対処ではないからだ。
前線に出ている指揮官を倒すだけで済むほどの怪異なら、絨毯爆撃のような広域攻撃をしてこない。
まだ、碧依の気がついていない何かがあるはずである。
「それでも、対処できるだけマシだよ」
クロが碧依の頭を撫でてから、飛び出していく。黄菜と並んで、指揮官を優先に狙い始める。
頭の撫でられた感触を思い出して、顔を真っ赤に頬を膨らませた。
「私、一応年上なんだけど」
それでもどこか嬉しそうに、碧依は剣を握って飛び出す。
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クロが最後の指揮官にとどめを刺す。あれだけ列をなしていた骸骨たちは消えていた。
残されたのは、瓦礫と化した街。止まっている人々は爆撃により致命的な傷を負っている。それでも、怪異を倒すことができたら、何事もなかったように直るのだろう。
碧依はその孤独感を隠すように、胸の前で手に拳を作る。
「疲れたですぅ」
黄菜が呼吸を荒くして大の字で寝る。その横でクロが腰掛けて頭をうつむかせた。
「やっぱりまだ終わらないな……」
クロの諦観にも似た言葉に、碧依は小さく頷く。それでも少し休憩するくらいの間はできただろうか。
碧依もその場に座ろうとした直後、鳴り響く空襲警報。地平の奥から、爆撃機の群れが現れた。




