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第三十二話

 笛の音が鳴り響く。碧依はその音に耳を傾けた。


「確かに爆撃は来ないけど、これはこれでしんどいぞ」


 短刀を二本構えたクロは、肩で息をしながら増えていく兵士を見据える。


「行くのですぅ! ゴーレムポコン助!」


 一方の黄菜は、瓦礫の山から作り出したポコン助型の人形で敵を蹴散らしていた。大きく笑う姿は、児戯を楽しんでいるように見える。


 碧依は剣を握りながら、クロや黄菜の殲滅力がない自身を恨む。思わず剣の柄を握る手に力がこもってしまう。


 短い笛の音が鳴った。今までの長さの四分の一しかない。

 同時に数十人の兵士たちが整列を組み始める。


 再び短い笛が鳴った。

 整列を組んだ兵士たちが一斉に銃を構え始める。銃口はすべて黄菜に向けられている。

 彼女は敵を蹴散らすのに夢中で気づいていない。


「黄菜! 逃げて!」

「……え?」

「早く! 撃たれるよ!」

「わ、分かったのですぅ!?」


 黄菜が慌ててゴーレムポコン助なるものから飛び降りた。同時に短い笛の音が二回連続して鳴った。


 兵士たちの一斉射。機銃などの強力なな兵器などがないときに行われる攻撃行動。それは一瞬で線を制圧する火力を保持する。

 日本で一番最初にやり始めたのは戦国時代の火縄銃だろうか。


 骸骨兵士たちの一斉射は、ゴーレムポコン助を打ち砕き、バラバラに解体した。


「戦術? 怪異が戦術?」


 クロの思考がフリーズしているのを受けた。彼女の反応からして、怪異が統率取れているのは珍しいのだろう。

 しかし、碧依はそうは思わない。


 黄菜の怪異。学校での怪異。病院での怪異。精度の差はあれ、一定の意思や行動パターンがあった。

 今回の怪異は、行動パターンが戦争として組み込まれているのだ。


 また短い笛が鳴る。銃口がこちらを向き始めているのを確認して、碧依はクロと顔を見合わせる。お互い息を呑んでから、慌てて別々の場所へと逃げる。

 遅れて飛んでくる一斉射は、瓦礫の山を消し飛ばした。あの攻撃に巻き込まれれば、人間なら一溜まりもないだろう。


「……っ、通りで橙夏が勝てなかったわけだ」


 クロの聞こえた声に同意する。


 彼女の仲間を囮にする戦法も、チームがあってこそのものだ。たった一人では戦争そのものには勝ちきれない。

 いくら超常の力を有していたとしても、個では限界がある。


「いっけー! ゴーレムポコン助二号!」


 黄菜は懲りずに巨大なポコン助を作り上げて、突撃させる。


「やれやれ、街のマスコットを雑に扱うね」


 瓦礫の陰に隠れていた碧依の横には、いつの間にかポコン助がいた。ぬいぐるみは瓦礫から顔を出して、戦場の様子を見つめる。


「自分の姿が戦ってるのは複雑?」

「いいや。これは借りてる肉体だから」

「そうだよね」


 ポコン助の言葉に苦笑する。

 危機的な状態で冷静にいられるのも、真に命の危険がないからだろう。やはりポコン助自身も高みの見物をしている人間に変わりないのだ。

 まだ、碧依と会話を試みようとしてくれるだけましといったところだろうか。


 また短い笛が鳴る。


「また一斉射ですぅ!」


 黄菜が逃げ込んでくる。ゴーレムポコン助二号は、意図もあっさり倒されてしまった。


 こうしてる間も兵士たちは銃を撃ちながら進軍してくる。次々追加される様子は、まるで終わりが見えない。


「……勝利条件はなんなんだよ!」


 クロが爪を噛みながら苦渋に顔を歪める。

 彼女の焦りを碧依は心の底で理解した。


 今までの怪異は、力でゴリ押しできた。こちらが押されるということはあまり記憶にない。

 美鳥のような理不尽な怪異もあるが、あれとはわけが違う。どうにかできそうという希望があるからこそ、押されている現状に焦りが湧いてくるのだ。


 旧日本軍も最後はこんな気持ちだったのだろうか。そんな感慨さえ、彼女の中に出てくる。


 また聞こえた笛の音で、碧依の頭は一瞬にして晴れる。瓦礫の山から顔を出して、迫ってくる骸骨兵士たちを見つめる。


「攻撃しないなら顔を出すな!」


 クロが再び攻撃している姿を目にしながらも、碧依は骸骨たちを見つめ続ける。

 

 多くの骸骨兵士たちはボロボロの軍服を着ていた。しかしその中で何人か小綺麗な服のものがいる。被っている帽子も、士官とかが着用している制帽だ。

 ここで紫音の魔法少女姿を思い出す。彼女も制帽を深く被っていた。


「何か分かったのですかぁ?」


 黄菜の言葉に、多分と答える。


 短めの笛が再び鳴る。それに合わせて骸骨兵士たちは整列を始めた。

 ヤバいと危機を感じたクロが退いてくる。その姿を横目に、碧依は整列する兵士たちの横に立つ士官帽子の骸骨を目にする。


 その骸骨は口元に手を寄せて、笛を吹く動作をしていた。


「……わかった」


 小さく呟いて、碧依は瓦礫の山から姿をさらす。

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