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第三十一話

 笛の音が聞こえた。碧依は反射的に顔を上げる。

 骸骨の集団がこちらにライフルを向けている。どうやら先ほどの音は、敵が仲間を呼ぶ音のようだった。

 怪異のくせに、やけに動きは人間じみている。向けられる銃口を見つめながらぼんやりと思う。


 今回はどうやらここまでか。短く息をつきながら、次の世界ではあかりがいるといいなと思う。


「やらせないのですぅ!」


 黄菜の声が聞こえた。碧依の目の前の瓦礫を、彼女がバールで叩く。叩かれた瓦礫は起き上がり、遮蔽物となった。


 銃声が重なる。銃弾が瓦礫にめり込む気配がある。空薬莢が地面に落ち、甲高い金属音が響き渡る。


 うつぶせで寝ていた碧依の襟首を掴まれて、後ろから引っ張られる。見上げると、魔法少女姿になったクロが引っ張っていた。


「黄菜! お前の人形は保つか!?」

「銃弾くらいなら避けれるですぅ」

「よし、それなら碧依を運ぶ時間を稼いでくれ」

「わかったのですぅ!」


 なんで、自分は見捨てられたとしても大丈夫なのに守られているのか。

 呼吸が乱れ、運ぶクロの顔を見上げる。彼女は必死な顔で碧依のことを運んいる。


「私のことは見捨ててくれても──」

「バカ言うな。ポコン助の話を聞いてなかったのか!?」

「でも私は……」

「お前は良くても私たちが困るだろ!」


 その言葉に引きずられながらハッとする。そうだ自分が死んでも、クロたちはこの世界で生き続けるのだ。

 見捨てるのは彼女たちではなく、自分となるのだ。


 考えていると、運ぶクロの手が止まる。息を切らしながらも、碧依を見つめる。


「わかったなら、早く変身してくれないかな?」

「で、でも脚が」

「変身すればある程度は治るから……さ」


 最後の力を入れて、クロは碧依の体を引っ張り上げる。倒れるようにして、息を切らしていた。

 

「ま、魔法少女の姿は普通の人間とは違うから」


 クロの言葉を裏付けるように、ポコン助がヒョコリと現れて付け加える。ぬいぐるみの耳の先っぽは少し焦げていた。


「でも……」


 自分の脚に視線を落とす。変な方向に折れ曲がったそれは、素人目にも複雑に骨折していることが分かった。とてもじゃないが、治るものだとは思えない。


 ここまで来ると、人間の身体は痛みを感じなくなるものなんだなと、冷静に考えている自分が恐ろしい。


「良いからは、や、く!」


 クロが言うと同時に、鳴り響く銃声。着弾し、そこいらの瓦礫を割り砕く。


「うわ! うわわ! 流石に多すぎてもうダメですぅ」


 遅れて黄菜が逃げ込んできた。

 時間がないことを知り、覚悟を決めるように碧依は喉を鳴らす。


「分かった……」


 小さく告げて目を瞑り、心に従うように変身する。

 どうなったのかと瞑った目を恐る恐る開けると、脚は治っていた。やはり魔法少女は自分の想像も及ばない力が働いている。


「よし、やっと変身したな……。黄菜! 逃げるぞ!」

「分かったのですぅ!」


 返事した黄菜は、襲ってきている骸骨をバールで殴っていた。しかし、一体倒したくらいで、収まる骸骨たちではない。


 響く笛の音は、次々に骸骨たちを集めてくる。


 二人が逃げようとするところを、碧依は立ち止まった。細剣を出して、銃剣を突きつけようとする骸骨の首を落とす。


「何してんだよ! まさか、自分は犠牲になるとかそう言うんじゃないだろうな!?」

「違うよ!」


 クロの言葉をあえて否定する。


「多分、逃げないほうが良い」

「は? 数の差を見てみろよ」

「そうだけど、逃げたほうがもっとヤバいことになる」


 クロは困惑するように頭を傾げる。黄菜は興味深そうにこちらを見つめていた。

 碧依は新たに近寄った骸骨兵士を、また薙ぎ倒す。


「気づいてる? 兵士たちが攻撃して来てる間は一回も空襲警報が鳴ってない」

「……確かに」

「兵士たちが戦ってる中で味方ごと消し飛ばす軍隊はいないよね?」


 負け濃厚のヤケクソ爆撃ならまだしも、現実ならば兵士たちが上陸してから絨毯爆撃することはあまりない。軍隊はコストで動くからだ。

 だったらなぜ先ほど二回も絨毯爆撃があったのか。それは、隠れている敵を見つけ出すための面制圧のためである。


 碧依がしている戦争もののゲームでも、爆撃支援を要請するときは安全を確保してから行う。


「てぇいあ!」


 黄菜が掛け声を上げながら、地面をたたく。盛り上がり、何百という兵士を空へと打ち上げた。

 クロが続いて空中を睨む。そのまま浮いた兵士たちを確実に仕留めていく。


 一気に敵を減らしたと思ったところで、笛の音につられてまだまだ瓦礫の山の中から現れてきた。


「……地獄絵図だな」


 クロが呆れるように呟く。


「でもまぁ、もう一度爆撃を喰らうよりはマシか」


 その言葉に碧依は頷いた。

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