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第二十八話

 窓から外を見る。明るくなり始めた空は、新たな一日を告げている。

 縁に手をかけながら、碧依は息を深く吐いた。


「飲み込んでくれたかい?」


 すぐ近くに立つポコン助が、こちらを見つめている。


「すぐに飲み込めるわけないでしょ!」


 思わず声を荒げてしまい、慌てて口を抑える。

 ポコン助は窓の淵にそのまま座って短い足をブラブラさせる。


「ま、そうだよね」


 抑揚のない声は感情がこもっていないようで、どこか悲しげであった。


「……ねぇ、あかりの能力もその未来人が与えたんだよね? だったらなんであかりが危険になることを把握してないの?」

「あいつらは局所的な時間管理しかしてないからさ」

「局所的?」


 碧依の問いに、彼は続けるように答える。


「あいつらは世界中を見てる。でも、僕たちは一人一人を観察して見つけた」

「……そんなのいくら時間があっても足りないでしょ?」

「そうだね。だから、絶対にアイツラがやらない過干渉を超える時間能力を僕たちは身につけたんだ」


 その能力とは何か。碧依は静かに口にした。


「私のループ能力……」

「そう。それこそ何千何万と繰り返して、観測をし続けた」


 その言葉には途方もなさを感じた。たった三回目でも壊れかけている自分には、想像もつかないことである。

 

「もちろん、僕たちの中に犠牲者は出たけどね」


 しかし、そのおかげで可能性を見つけることができた。ポコン助はそう続ける。


「でも、残念ながらこの世界ではあかりは生きてないよ?」

「……そうだね未来人が過去を喰い荒らした結果、時間軸ごとで齟齬が出るようになった。だから、ループした先であかりが必ず生きているわけではないよ」

「つまり、この時間軸はもう魔法少女たちは助からない?」

「残念ながら」


 彼の言葉が心の奥に黒く落ちる。涙が溢れそうになるのを、上を向いてなんとか止めた。


「僕たちとしては、早く次の時間軸に移動してほしいんだけどね」


 その言葉に考える。確かにこの世界にはあかりはいない。救えないかもしれない。


 だけど──


「ここの人たちを見捨てていい理由にはならないから」


 クロにも黄菜にももちろん橙夏にも感情がある。生活がある。この時間軸で確かに生きている。

 それを見捨ててあかりだけを助けに行ったら、碧依は彼女に顔向けできない。


「そして何より、今の私があかりを助けようとしたら、彼女を変身させてしまうから」

「僕たちは変身させたいんだけどね」

「変身させたら、その未来の干渉とやらに抹殺されるでしょ? そしたらまたその世界を捨てないといけなくなる」

「世界は何回でもやり直せるんだよ?」


 その問いに、碧依は静かに告げる。


「人は普通一度死んだらやり直せないんだよ」


 ポコン助は黙る。その沈黙はとても長く感じた。

 少ししてから彼はボソリと言う。


「それが君なんだね」


 碧依は静かに頷く。ポコン助からはどこか諦めたようなそれでいて覚悟を決めたような息遣いが聞こえてくる。


「わかった。たった数十、数百と増えるだけ。僕たちからしたらそんな時間は小さな差違だよ」

「……君、味方なのか敵なのか分からないね」

「味方のつもりではあるよ。ただ、あまりにも力を使いすぎると勘付かれる。だから、過干渉もできないだけ」

「……接触が遅れたのもそれが原因?」


 碧依がはじめから選ばれていたとわかっていたら、まだ立ち回りようがあったかもしれない。

 少し責めるような目でポコン助を見やると、彼は首を横に振った。


「それもあるけど、それだけじゃない」

「……どういうこと?」

「最初の頃の君に言ってたら、もっと混乱してただろ?」


 確かにそうだと、納得する。


「配慮してくれてたんだ」

「配慮というより君が壊れたら元も子もない」 

 

 その言葉にムッとしてから苦笑した。素直にしたと答えればよかったのに、変なところで正直者だ。


「整理は済んだか?」


 クロが黄菜と一緒に部屋へ入ってくる。振り返ると、碧依は頷いた。


「正直、私はこいつのことは信用できないけど……」


 クロは冷めた口調で言うと、ポコン助を睨みつける。


「信用してもらうつもりはないよ」

「はぁ、そういうところだぞ」


 クロのため息にポコン助は分からないとでもいうように首を傾げていた。

 そんな時、黄菜は笑顔でポコン助に抱きつこうとする。しかし、彼は華麗な一回転をしてその動きを躱した。


「むぅ! 私にも抱っこさせるのですぅ!」

「僕はぬいぐるみじゃないからね」

「むむむむ!」


 その光景を見て、平和だなと碧依は笑ってしまう。


 直後のことだ。ポコン助の耳が、ピンと立った。それから窓の縁に飛び乗る。


「……今、魔法少女が一人死んだ」

「何?」


 クロが窓に近づいて、ポコン助の見てる方向を見やる。


「この町の魔法少女。確か名前は橙夏と言ったっけ? 」


 その聞き覚えのある名前に、三人は息を呑む。

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