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第二十七話

 碧依が悲鳴を上げる。その声を聞きつけて、2階から二人の足音が響き渡ってくる。

 台所の電気がつけられて、クロと黄菜は周囲を警戒する。


「なんだ!? 怪異か!?」

「いや、時間は動いてるですぅ!」


 尻もちをつく碧依は、ゆっくりと二人に顔を合わせた。

 クロがどうしたと尋ねるので、机の上にあるポコン助を指さす。ぬいぐるみはその場で胡座をかいていた。


「ぬいぐるみ? これがどうした?」

「しゃ、喋ったの」

「はぁ? バカも休み休みに──」

「他の魔法少女も来ちゃったか。用があったのは、“僕たちの魔法少女”だけだったんだけど」


 クロの声を遮るようにポコン助が喋る。クロは驚いた声を挙げて、黄菜は目を輝かせた。


 いち早く動いたのは黄菜だ。うれしそうな顔をしたまま、ポコン助を捕獲しようとする。しかし、その腕を擦り抜けて、碧依の近くに着地した。


「ぼ、僕たちの魔法少女って何?」

「そのまんま、“僕たちが力を与えた魔法少女”だよ」


 碧依の質問に、動くぬいぐるみは素直に答える。その言葉を聞いて、クロの表情が険しくなった。


「……待て、つまりお前が私たちを地獄に導いた元凶か?」

「それは違う。僕たちが力を与えたのは碧依だけ」

「ど、どういうこと?」


 碧依の言葉に、くるりとぬいぐるみはこちらを向いた。細い目は何を考えているか分からない。


「質問には答えてあげる。でも、過干渉すると“あいつら”に気づかれるからね。助けることはできないよ」


 そう言うと、ぬいぐるみから指を鳴らすような音が聞こえた。どこから鳴らしているのかは、もはや聞く気が起きない。

 響いていた時計の音が止まる。少し圧迫感のある空気。この空間に覚えがあった。


「怪異!?」


 クロが武器を出現させた。それは片手で一本ずつの小刀である。警戒するように、彼女は距離を取った。服装はいつの間にか魔法少女と忍者を合わせたような姿になっている。


「警戒しなくても、君たちを傷つけたりしないよ」

「そんな嘘に騙されるか」


 斬りかかろうとしたクロの動きを、黄菜が止めた。


「この子嘘を言っていないですぅ」


 その一言でクロが喉を鳴らした。


「で、碧依。僕の話を聞く気はあるかい?」


 ぬいぐるみに見つめられて、碧依は静かにうなずくしかできなかった。



※※※※※※※※※※



「君たちは未来の地球がどうなっているか分かるかい?」


 クロの自室に場所を移し、ポコン助が一段高いところから話を始める。

 納得していない顔のクロが、ため息混じりに答えた。


「資源の奪い合い。人口の過密化。温暖化や地球環境の悪化。……答えようと思ったらいくらでも答えられるけど、良い方向に転がってるとは思えないね」

「君賢いね。よく、先生に褒められない?」

「うっさい。むしろ、問題児扱いされてる」


 クロの答えに興味がないように、ぬいぐるみは続ける。その瞳は、碧依を見つめるばかりだ。


「全部正解。地球はあるエネルギーに頼らないと生命を維持できないほどに疲弊してる」

「あるエネルギー?」


 碧依の質問に対して、さらに前のめりになってくる。


「魔法少女たちの生命エネルギー。若い女の子が秘めた感情という名の力。これを未来で資源として使ってる」


 三人の息が一瞬止まったようだった。クロが拳を握りしめポコン助の胸ぐらをつかむ。


「つまり、お前たちの尻拭いを私たちにさせてるってことかよ!」


 その怒鳴り声に彼は逃げることなく答えた。


「そうだよ。未来でそれをよしとしている。何故なら、人類が存続するための最小の犠牲で済むからね」

「そんな勝手なこと許されるか!?」

「もちろん、僕たちは許されないと思ってるよ」


 そんな勝手なとポコン助を投げつけようとした手を、黄菜が止めた。


「ずっと嘘を言ってないのですぅ」


 その言葉を聞いて諦めたように座り込み、ゆっくりと手を離す。


「僕たちも止めようと思ったさ。でも、相手は過去に過干渉できるほど──いわば世界そのものなんだよ? だったら、僕たちができることは僕たちが作った能力を与えることだけ」

「……それが、私?」


 震える声で言うと、ポコン助は頷いた。


 拳を握りしめて俯く。少ししてから、睨みつけるように顔を上げた。碧依の目には涙が溜まっている。


「なんで私なの!?」


 その言葉に少し困ったような間があった。しかし、ゆっくりと口が開かれる。


「君が唯一、特異点を左右できる存在だったからさ」

「……特異点?」

「あかりだよ。彼女だけは、システムの根幹を揺るがす可能性を持っている魔法少女さ」


 その言葉を聞いて、あかりがなぜ殺されたのか腑に落ちた気がした。


「君は選ばれたんじゃない。たまたま近くにいたそれだけなんだ」


 ポコン助の言葉は、碧依の身体に染み込んでいく。

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