第二十四話
感情を揺らされただけで殺される怪異があった。それに対抗したのが、あかりという魔法少女らしい。
何十と言う魔法少女を葬り、精神を崩壊させた怪異は、たった一人の少女によって終止符が打たれた。
その話を聞いた瞬間、怪異は美鳥のことだと碧依はすぐに思い浮かべる。あのどうしようもない力を、あかりが倒した。
やはり彼女はイレギュラーなのかもしれない。それと同時に、彼女こそが魔法少女を救えるのかもしれないと感じる。
碧依はクロの話を聞いて、口元を覆う。眉根を寄せ、考え込む。
「……どうした?」
「いや、考えごと……」
「何を考えてる?」
クロに問われて、息をついた。
「ドアがあったとしてその鍵が二度と手にはいらないとしたらどうする?」
この世界にはあかりがもういない。それすなわち、真実に到達するのは不可能ではないだろうか。
クロと黄菜はお互い顔を見合わせる。
「私ならドアを壊す」
「私なら別の入り口を探しますぅ」
重なった二人の言葉に息を呑む。
「そう……だよね」
鍵がないからといってあきらめていい理由にはならない。死んだからといって、次もあかりがいる保証はないのだから。
だったら、あかりがいないうちに別の方法を探すのがベストなのではないだろうか。
「……考えはまとまったか?」
問われ、碧依は天井を見上げた。諦めるように肩をすくめる。
「全然、むしろ絶望が大きくなった」
「……そうか」
しかし、冷静に考えられるようになったのも事実だ。
こんな極限状態が数年単位で続いているのだ。橙夏だって人を見捨てる判断に入るのも普通だろう。
今度顔を合わせることがあれば、謝ろうと思う。少なくとも、この時間軸の彼女にはまだ裏切られたわけではないのだから。
「黄菜、買い物行ってくれるか? 多分しばらくはここで籠城したほうがいい。橙夏は……まぁ自分で何とかするだろう」
「わかったのですぅ」
ビシッと敬礼をする黄菜と肩をすくめるクロを見て、碧依は目をパチクリさせる。
「……籠城?」
「あぁ、しばらくはできるだけ怪異と合わないほうが良いと思ってな」
「なんで?」
確かに怪異は生き物のように動いていると紫音が言っていたのを思い出す。この街で普通に歩き、エンカウントした魔法少女を襲う。
だからなのか、碧依が戦ってきた場所は公共の場が多い。家にいれば、ほとんど合わなくなると紫音も言っていた。
しかし、それだと本末転倒ではないか。怪異に合わなければ、真実に辿り着くことはできない。怯えて暮らすのは、停滞しか生まない。
「逆だよ逆。お前の話が本当なら、その停滞を怖がってるのは怪異を生み出した奴らだ」
クロはそう切り出した。
「別の時間軸ではあまりにもあっさりと怪異を始末してしまったために、あかりは殺されたんだろ?」
「そうだけど……」
「つまり、怪異と魔法少女を戦わせることによって何らかの作用をそいつらにもたらすんだよ」
つまるところ、倒すのではなく戦わない選択肢をすればどうなるか。
「ま、何人魔法少女適性のある人間がいるかはわからないけど、たった一人のイレギュラーさえ許さない奴らだ。籠城してる私たちを見て見ぬふりはしないと思うけどね」
その考え方はなかった。戦わないといけないとばかり碧依は思っていた。
冷静に考えればそうだ。敵の考えに立っているうちは敵は現れない。安全圏から高みの見物をしているだけだ。
「黄菜。私も行く」
買い物に付き添う旨のことを黄菜に伝えると、彼女は満面の笑みを見せた。
「わーい! 碧ちゃんってすっごいいい子ですよねぇ!」
純粋に喜んで抱きつかれたことに、碧依は戸惑う。
いい子と呼ばれて少し前なら悪い気はしなかった。しかし、今はどうだろうか。
考えて深みにはまりそうなのでやめることにした。
「それじゃあできるだけ買い込んできてくれ」
クロが碧依に万札を複数枚手渡してきた。
「……どこにそんなお金が?」
「私の家も色々深雑なんだよ」
罰が悪そうに唇を尖らせて、クロが視線を外す。
まぁ、中学一年生の女の子が一人で家に住み続けている時点で、ただの人間ではないことは丸わかりだ。
しかし、深く突っ込んだところで彼女は話してくれないだろう。そして、他人である碧依が深く突っ込むべきことではない。
「わかった色々買ってくる」
「碧ちゃんと一緒にお買い物ですぅ!」
クロはこちらを見つめて、満足そうに頷いた。しかしすぐに、罰が悪そうに顔をしかめる。
「といっても、仮設段階だ。何も変わらない可能性だってある」
「やってみるだけは価値があると思う」
「……そうだな」
ドアを開ける鍵がないのなら、色々な方法を模索すればいいだけの話である。




