第二十三話
火花が散る。細剣と刀の擦れる音が響き渡る。
「あんた何のつもり!?」
「お前こそまた裏切るつもりでしょ!?」
「はぁ、何言ってんの!?」
碧依は体重をかけて押し込んだ。マウントを取られた橙夏の体は、徐々にベッドへ沈み込んでいく。
椅子に座っている黄菜はとても面白そうに騒いでいた。一方のクロは何が起こったのか分からず戸惑っている。
「橙夏、お前だけは許さない」
歯の奥を鳴らす。目は大きく見開かれ、碧依の本気を物語っていた。
「わぁ、橙ちゃんを本気で殺しに行ってますぅ」
「バカなこと言うな」
クロが呆れながら後方から碧依の頭を殴った。その手には警棒のようなものが握られている。
脳を揺さぶられ、平衡感覚を失う。そのまま床に倒れるようにして崩れ落ちた。
少しして頭の痛さに顔を歪めながら目を開けた。知らない天井だったため、少し体を強張らせる。
「起きたか?」
クロの声が聞こえて、探るように顔を動かした。床のカーペットの上に胡座をかいている。その後ろで黄菜が何も言わずに椅子でくるくる回っていた。
「橙夏は?」
「あいつは帰らしたぞ。すっげぇ、怒ってたけどな」
その言葉にホッとしたようなざわつくような感覚を受ける。
「お前、何をがあったか言ってみろ。橙夏に聞いてみたけど、お前のこと知らないって言ってたぞ」
「うん、知らないよね」
分かってはいたことだが、その言葉に酷く落ち込む。
「勘違いしているようだがな、これは質問じゃなくて尋問だ。魔法少女である以上、仲間割れは許さないからな」
「私が仲間割れ? は、笑えるね」
「……嘘は?」
クロが黄菜の顔を見る。彼女は笑ったまま首を横に振っていた。
「じゃあ逆に聞くけど、橙夏が生き残る可能性のために仲間を見捨てることはありえる?」
「ありえるな」
即答だった。その言葉に驚き、顔を見る。クロは何言ってるんだって顔で肩をすくめた。
「チームだとしても、まずは自分が生き残るのが最優先だ。足手まといを抱えるくらいなら、見捨てたほうが早い」
「そっか……そっか」
その言葉に悲しくなり、拳をギュッと握りしめる。布団にしわができ、その上に涙が伝い落ちた。
「しかし一つ勘違いしてるけどな、それは時間がなかったり極限状態のときだ。自分が少しでも行動が遅れれば取り返しのつかないと分かったときだ。特に橙夏は、そういうのをいっぱい見てきてるんだろうよ」
「はいはーい! 私は碧ちゃんのことを見捨てないって今決めたのですぅ」
「……理由は?」
クロの問いかけに、目を輝かせるように黄菜は続ける。
「碧ちゃんの言葉にまったくの嘘が見えないからですぅ。ちなみにクロちゃんは嘘だらけ」
「うるさい! 私は必要最低限の規律を」
「はいはい、紫音さんの真似をしようとして失敗してるのですぅ。中一が背伸びするものじゃないのですぅ」
黄菜の言葉に完全に心を乱されたクロは、顔を真っ赤にしてフードを深くかぶった。
黄菜の言葉に碧依は少し引っかかった。まるで紫音がいないような口ぶりだ。
「あの、紫音はどうなったの?」
「知っているんですかぁ?」
「知ってるも何も、私の知ってる魔法少女たちは紫音を中心に回ってた」
その言葉に二人は顔を見合わせていた。クロの瞳が黄菜に嘘をついているかと尋ねているようだ。
黄菜はゆっくりと首を横に振る。
小さく息を吐いて、クロが続きを言う。
「紫音は常梨赤穂とともに姿をくらました」
その言葉を意味するところは、碧依には詳しく測れない。
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紫音は率先して皆をまとめる少女だった。この世界でもそれは変わらなかったらしい。しかし、クロの説明曰く忽然と姿を消してしまったのだ。
そのことに碧依は既視感がある。美鳥が怪異となる前に、紫音から彼女が忽然と姿を消したことを伝えられた。
もしかしたら、この世界では紫音は怪異になってしまっているのではないか。そんな予感を胸中が渦巻く。
「驚いたのですぅ。まさか、碧ちゃんがループしてるなんて。私の怪異を見たんですかぁ?」
この問いかけに既視感を覚えて、碧依は愛想笑いをした。
「と言っても、時間軸も人間も違うってのは気になるな。……何より、その次元っていうのはなんなんだ?」
「私にも分からない」
「そっか……だよな」
クロが残念そうに顔をしかめる。彼女からしたら何か解決する糸口にでもなると思ったのだろう。しかし、碧依だって分からないことだらけなのだから仕方ない。
ふと、この世界であかりがいないことを思い出して碧依は口を開く。
「あかりって魔法少女に会ったことある?」
その言葉にクロは静かに言った。
「聞いたことだけある」
……と。




