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第二十ニ話

 蝉の声が聞こえる。公園でベンチに座り、碧依は空を見上げていた。


 中学三年生の夏休み。何をしていたか思い出そうとして思い出せない。ただ、あかりと一緒に遊んでいたことだけは覚えている。


 あかりは二年前に亡くなっていた。姉曰く、唐突に焼死したらしい。理由は未だに解明されていない。

 しかし、今の碧依なら原因はハッキリしている。


 魔法少女。その言葉が心の奥にのしかかる。


 つまりこの世界は、あかりはすでに魔法少女として戦って、散っていった世界となっている。


「どうして……」


 呟いて頭を抱えた。

 ループはやり直せるチャンス。そう思っていたが、違ったようだ。取り返しのつかない世界にも戻ってしまうらしい。

 死ぬことを考え、やめた。きっとそれはあかりが望んでいないから。


「お前が……新しい魔法少女?」


 見知らぬ声が聞こえた。顔を上げると、黒パーカーにデニムのホットパンツを履いた少女が立っている。背丈は碧依より少し高いくらいだ。

 黒い瞳はやる気なさそうな色が宿り、黒い髪は少しボサボサだ。


「……知らない顔」

「当たり前、私とお前は初対面」

「そう、そういうあなたは魔法少女?」


 碧依の問いに、黒い少女は首を縦に振った。


「私は麻布クロ。中学一年生……お前は?」

「私は尾上碧依……多分、中学三年生」

「多分?」

「うん、多分」


 曖昧な笑顔に、クロは首を傾げている。


「で、魔法少女の集まりに誘いに来たの?」


 その碧依の一言に、彼女は少し驚いた様子だった。


「知ってるのか?」

「なんとなくは、誰がいて誰がいないかまでは分からないけど」

「お前、変わってるな」

「自分でもそう思う」


 自嘲気味に笑いながら立ち上がる。クロを見つめて、それでと切り替えす。


「誰がいるの?」


 その言葉に、彼女は来たほうが早いと言っていた。



※※※※※※※※※※



「クロちゃん、おかえりですぅ!」


 案内されたのはクロの家。住宅街の一角にあるなんてことはない普通の場所だった。その玄関を開けると同時に、耳に飛び込んでくるのは聞いたことのある声だった。


 クロに飛びついて抱きしめるのは、黄菜である。


「暑苦しい、やめろ」

「あ、本気で嫌がられましたぁ。でも、やめません」


 ぎゅっと抱きしめる彼女の腕から逃げるようにクロは身じろぐ。


 暴れているクロを捕まえている黄菜は碧依の顔を見た。


「新しい女の子ですかぁ?」

「あ、うん……そう」

「……あなた、少し嘘ついてますねぇ?」


 言われ、ドキリとした。


「私のこと知ってますぅ?」


 考え、言葉を詰まらせ、諦めたように肩を落とした。


「うん、知ってる」

「それは本当ですねぇ。おかしいですぅ、私はあなたのこと知らないですのにぃ」


 曖昧に笑っていると、抱きつかれたままのクロが暴れて脱出した。


「たく、お前高校一年生だろ? 中一の私に抱きつくな」

「あーん、クロちゃんのツンケンしたところ私大好きですぅ」

「やめろ黄菜……。で、橙夏も来てるのか?」


 その言葉に、碧依の心がざわめき立つ。


 このループでも奴はいるのか。下唇を噛んで、拳を握った。裏切られたことが脳裏によぎるが、できるだけ表に出さないように努める。


「もちろん、面倒くさそうにしてたけど新しい女の子を迎えるためならってきてくれましたぁ」


 わざわざ来て欲しくなかった。碧依の中で彼女の顔が一番見たくなかった。


 なんでこの世界にはあかりはいないのに、橙夏はいるのだろうか。呼吸が浅くなる。


「それじゃあお前は先に戻って橙夏に伝えといてくれ」

「お前じゃなくて黄菜ですぅ」

「早く戻れ」


 クロに指示を出されて、渋々戻っていった。

 相変わらず黄菜は歳上感のない女の子である。


「遠慮せずに上がっていいから」

「えっと……家族は?」

「いない。別に心配されるようなことじゃないから安心していい」


 そう言われたところで、中学一年生の女の子が独り暮らしなのは色々と勘繰ってしまう。

 しかし、尋ねたところでどうしようもできないことだから心の奥に秘めることにした。

 

 彼女の指示通り、靴を脱いで家へ上がる。そのまま階段上がって、クロのあとに続いて部屋に入った。

 そこは女の子にしてはやけに整理された部屋であった。勉強机とベッドくらいしかものはない。


 勉強机前の椅子に座りくるくる回っているのが、黄菜である。そしてベッドの縁に腰掛けてやる気なさそうなため息をついていたのが、橙夏であった。

 彼女の顔を見て、思わず睨んでしまう。


「……何?」


 その静かな声を聞いて、感情は沸騰した。思わず細剣を出して、碧依は斬り掛かっていたのだ。

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