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第十六話

「もういい〜よ!」


 幼少期のあかりは、遊具の中に隠れていた。口元を抑えてニヤける。

 今度こそ自分が最後まで残ってみんなを驚かせるんだとワクワクしている。


「もういい〜よ!」


 しかし、一時間経っても二時間経っても見つけてくれない。心の中は不安で掻き立てられる。

 本当に見つけてくれるよねと、幼いながらに焦り始める。


「もういい〜よ……」


 気がつけば、陽は落ちかけていた。誰も来てくれないことに、膝を抱える。顔を埋めて鼻をすする。

 もう声を出すこともやめた。寂しさが心の中を支配して、動くことができない。


 あかりは置いていかれたのだ。その事実を幼いながらに否定した。きっと誰かが探しに来てくれるはず。そう思い、その場で座り続ける。

 

 地面を歩く蟻の行列を眺め、鼻をすする。


「蟻さん……仲間たちいっぱいだね」


 その言葉は虚空に消えていく。誰にも受け取られなかった。


 そんな時、あかりの座っているところに、一つの影が差し込んだ。それは膝に絆創膏を貼ったボーイッシュな女の子のものだ。

 確か、同じ歳の碧依という名前だったはず。


 彼女は満面の笑顔を見せて、あかりに言い放つ。



※※※※※※※※※※



 碧依が気絶したあかりの肩を揺すり続ける。頬を伝った涙は、彼女の頬に落ちる。

 あかりはゆっくりと目を開けた。朧気な瞳は、次第に焦点が合っていく。


「良かった、あかり!」


 感極待って抱きついた。


「碧依ちゃん……」


 か細く言ったあかりは、碧依を抱きしめた。


「もう、心配させないで!」

「……ごめんね碧依ちゃん」

「感動の場面で申し訳ないが、ちょっと緊張感を持ってくれねぇか?」


 紫音の言葉にハッとしてら涙を拭った。あかりを座らせて、紫音の方に向き直る。


「結局、この怪異ってなんなの? 全然攻撃はしてこないよね?」

「……そうだな。今までにないやつだな」

「もしかして、何かを伝えようとしてるとか?」

「……そんなわけねぇだろ。怪異は敵味方の区別がついてない」


 紫音の言葉に、そうだよねと零す。


「取り敢えず、学校内を探索するしかねぇな」


 彼女の言葉に肯定した直後、また不気味なチャイムが鳴り始めた。


『零時二十分になりました。逃げ出した生徒を──』

「もういいよ」


 放送を遮るように、あかりが立ち上がる。彼女は小さく息を吐き、天井を見つめる。

 

「あかり、どうしたの?」


 碧依の言葉に、彼女は笑顔を見せた。


「碧依ちゃん小さい時私がかくれんぼで仲間外れにされた時、見つけてくれたよね?」

「……え? あぁ、うん」


 幼少期のころ、あかりとは所属していたグループが別だった。

 彼女は女の子とよく遊んでいた。対して碧依は男の子とサッカーをしたりしていた。


 ある日、町中ですれ違った女の子から話が聞こえたのだ。

 あの子は調子に乗ってるから、置いてきたと。


 あとから聞けば、すぐに帰ると思っていたらしい。しかし結果はあかりは何時間でも待ち続けていた。


 碧依はそんなあかりを探し出して、笑顔でこういったのだ。


「みーつけた」


 碧依の思い出を代弁するかのように、あかりが言い放つ。放送にノイズが走り、市松人形はすべて割れていく。

 外の景色は暗闇が消えて明るくなる。


 あまりにも呆気なかった。


「怪異が去ったの?」


 その呆気なさに、思わず目を丸くしてしまう。


「いや、まだだ。時間が動いてねぇ」

「……まだ」


 しかし、確実に何かが変わったのだけはわかる。


 廊下の先に現れたのは、赤い髪をした少女だった。ここの中学校の制服を着ている。

 赤い瞳は快活そうに輝き、八重歯が主張している。


 サイドテールに結った髪は、彼女の動きに合わせて揺れていた。


「ざんねん、見つかっちゃたね」


 笑う彼女は、どこか苦笑していた。


「……本体だな」


 紫音の言葉に、碧依は喉を鳴らす。


 あかりは今回の怪異にゆっくり近づいて行く。そんな彼女に声をかけようとしたが、喉奥に言葉がつっかえた。


「ふふ、ふふふ。遊んでくれてありがとう……お礼に──」


 少女の顔は醜く巨大に変形した。口だけが肥大化し、大きく開ける。それは人間一人を丸のみする大きさだった。


『救ってあげるね!』


 口はあかりを飲み込もうとする。数秒遅れて、碧依はあかりに声をかけた。

 しかし、彼女は止まらない。


 口は、閉じられなかった。


 ピンク色のドレスを着たあかりは、大剣を本体に突き刺す。

 そのまま引き抜くと、血が周囲に吹き出した。


「救済を他人に押し付けるやつ。私、大嫌いだから」


 発したあかりの声は、彼女のものとは思えないほど低く淡々としていた。

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