第十三話
「ねぇねぇねぇねぇ碧ちゃん碧ちゃん」
黄菜が話しかけてくる。碧依は返事もせずに爪を噛んだ。静かな廃ビル内に、碧依が貧乏揺すりする音が響く。
とりあえず今起きてることを整理する。
何かの間違いか碧依は別の時間軸に来てしまったらしい。そこでは死んだ生きたが異なる。さらに碧依が魔法少女になった時期もズレているようだ。
「ねぇってば碧ちゃん?」
幸いなのはあかりがまだ魔法少女になっていないこと。彼女がなる時期もバラバラなのだろうか?
「なんでですかぁ? 私が話しかけているんですよぉ?」
黄菜から黒い気配を感じて、思わず彼女の方を向く。光の消えていた光彩が、視線が合うことでもとに戻った。
「な、何かな黄菜……さん?」
「黄菜でいいですよぉ」
彼女はぱっと笑顔を咲かせる。指同士を顔の前で合わせる様子は、女の子そのものだ。
「……で、何かな?」
「私の怪異ってどんなのかなって思いましてぇ……。怖かったですかぁ?」
「……怖かったというより気持ち悪かったかな」
「なにそれひどいですぅ!」
ショックを受けたようなリアクションをしているが、すぐに笑顔に戻る。どうやらあんまり気にしていないようだ。
彼女の感情のブレ幅が分からない。基本的には温和そうに見えるが……。
「酷いって言いながら、嬉しそうだね」
「だって本当のこと言ってくれましたからぁ」
「本当のこと?」
「はい! 私、嘘が見抜けるんですよぉ。ちょっとした特技ですぅ」
その言葉を聞いて、彼女の不安定さに納得した。
黄菜もまた、必要以上に人を見てしまうのではないだろうか。そして、抱え込んでしまうのではないだろうか。
人を見下しているのではなく、俯瞰して見ているのだ。そして自分の最適な位置に投げ込もうとして、摩擦が起こる。
例えば無視されると想定もしてないのに無視されればパニックを起こしかけてしまう。
「厄介な……」
頭を抱えて、大きく息を吐いた。
視線を端で話している紫音と橙夏に向ける。彼女たちの怪異は一体何なのだろうか。
きっと手に負えないものになるのは目に見えている。今のうちに殺しておくほうが自分のため、あかりのためになるのではないか。
そんな考えを頭によぎったとき、黄菜が小首を傾げた。
「大丈夫ですかぁ?」
その質問になんて答えようと思い少し迷う。諦めて正直に答えることにした。
「大丈夫ではないね」
「あはは、正直ですね」
「嘘ついて誤魔化したら……どうなるかわかるから」
目線をそらす。黄菜は驚いたような表情を浮かべた。
「もう、大丈夫ですよぉ」
静かに告げる。
「今ので分かりましたぁ。私は大丈夫ですぅ」
その言葉の意味は分からない。
「取り敢えず、しばらくは二人ずつで過ごそうか」
その会話を遮るように、紫音が口を挟んだ。
「まぁ単純に中学生組と高校生組に分かれようか。お互い近くに入れるしな」
その言葉に、黄菜が元気よく返事した。
「うげ!? 黄菜の面倒私が見なきゃなの!?」
「何々橙ちゃん? そんなに私といるのが楽しいですかぁ」
「楽しい訳あるか! 引っ付くな!」
黄菜が橙夏にわざとらしくベタベタする。その姿を見て碧依は少し表情を歪める。
前回ではすでに怪異となっていた黄菜。しかし、今回出会ってみると案外普通の少女である。
「それで碧依。そのあかりって子に会わせてくれるか?」
紫音の提案に、首を傾げた。
「……会ったことないの?」
「なんていうか、昨日までのお前は友達を巻き込みたがらなかったからな。でも、そいつも魔法少女にな可能性があるなら話は別だ」
確かに、どこか分からないところで怪異に一人で殺されるよりはマシだ。
「言うて気をつけようがないけどな……」
碧依の心を読むように、紫音が言い放つ。
「怪異って出現の法則性はないの?」
「今のところは……。歩いてたら出会うって感じだ」
向こうもまるで日常を過ごしているみたいに。ふと、顔を合わせる。そんな感じである。
「まぁ、ある意味自分の家に籠ってればあまり会わない可能性もあるがな」
「……現実的じゃないね。変な噂を立てられそう」
「そういうことだ」
辛いところは、一般人が魔法少女を認知できないこと。
例えば碧依が部屋に籠ってしまえば、姉は心配するだろう。学校の教師からも連絡が来るだろうし、もしかすれば役所の人も来てしまうかもしれない。
本人が家に籠もらざるを得ない状況を作り出さなければ、停滞は世界が違和感を持ってしまう。
あかりをそんなふうに考えさせることができるか。少し思考を巡らせてから、頭を振った。
彼女は社交的で何にでも首を突っ込みたがるたちだ。まずこのような事態になれば、まっさきに仲間を救おうとする。
詰んでいる。碧依は静かに息を漏らした。




