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第十話

 授業終了のベルが鳴る。碧依は、机に頬を付けてボーッとしていた。


 昨日あれから家に帰ると、無断欠席したことを姉にしこたま怒られた。言い返す気力もなく、彼女はただただ受け入れた。

 一日経っていつもと変わらぬ朝、一限目をやり過ごしたところだ。


 スマホの画面を見る。映っているのは紫音の電話番号である。何かあればかけてくれってことで交換した。


「ねぇねぇ、碧依ちゃん」


 唐突に話しかけられて、背筋を伸ばす。視線を向けるとあかりがこちらを見つめていた。彼女の顔はいつもと変わらない。


「なぁに、あかり?」

「えっと、碧依ちゃん大丈夫? 昨日は休んでたし、今日も朝から元気がなかったし……」

「だ、大丈夫だよ……!」


 心配させまいとして、曖昧な答えになってしまった。返って彼女の顔が訝しんでいる。

 しまったなぁと頬を掻く。


「少し疲れてただけで、心配するようなことは何もないよ?」

「……本当? なら、良いんだけどね」

「うん、それより今日の放課後、遠くの娯楽施設行ってみない? ほら、一ヶ月前にできたやつ!」

「それ、いいね! 行こう行こう」


 クラスメイトではまだグループを作りあぐねているのか、それぞれバラバラに話しかけていた。もう少しすればいくつかグループができるだろうと、横目にながら確認する。

 碧依は別に積極的というほどではない。しかしそれでも、快適な学校生活のために、あかりの他にも何人か気の合う人を見つけるつもりでいた。


 今となっては、そんな気力はまったくないが。


 

※※※※※※※※※※



 今日の授業が終わり、体を伸ばす。ただ学校で過ごすことがこんなに心休まるなんて知らなかった。

 今日は何も起きなさそうだし、ゆっくりできそうである。


「碧依ちゃん、早速行こう?」

「あー寄り道だぁ!」

「もう、碧依ちゃんから誘ってきたんでしょ?」


 碧依のからかいに、あかりがむうと唸る。その可愛い姿を見て、ごめんごめんと言った。


「ふふふ、これであかりも悪い子仲間ですな?」


 口に手を添えるように、悪戯な笑みを見せる。今、最高に普通の女子高生をやってると、碧依の心は浮足立つ。

 こんな日が続けばいいのにと思うのは、贅沢だろうか。


 そんな彼女の気持ちを裏切るように、携帯電話が震えた。眉根を寄せて、ポケットから取り出す。着信番号は、紫音からだ。


 嫌な予感しかしない。


「あかり、先行ってて!」

「うん、分かった。校門で待ってる」


 あかりが教室から出ていくのを見送ってから、電話に出ることにした。


「はい、何?」

『めっちゃ不機嫌だな、おい』

「当たり前でしょ……紫音からかかってくるってことはそういうことだから」


 違いないと紫音が電話越しに自嘲気味に言った。しかし、その声にはどこか元気がない。

 彼女の違いを敏感に感じ取り、碧依は眉根を寄せる。


「……何があったの?」


 その言葉に紫音が少し言い淀む。向こうから電話をかけてきた。それなのに本題に中々入らないのは、思った以上に深刻な問題なのかもしれない。


『美鳥がいなくなった』

「……え?」

『あ、いや死んだとかそういうのじゃないんだ。ただ、朝から姿が見えなくて連絡もつかない』


 瞳が揺らぐ。少し目を瞑って、息を整える。


「行きそうなところ全部探したの?」

『そもそも、美鳥が生きそうな場所なんてない』

「そう……でしょうね」


 彼女は不必要なことまで知ってしまう。ならば彼女の安全地帯は見知ったところに限られる。

 いなくなるということは、美鳥に限ってありえないのではないだろうか?


「分かった。私も少し気にかけとくけど、期待しないでね?」

『あぁ、助かる……』


 通話を切って、肩を落とす。机に手をついて、俯いた。

 心の奥底で私には関係ないと呟く。しかし、やはり見捨てられはできない。


 探すか? 一瞬迷って、自分には無理だと首を振った。

 そもそも美鳥という人間をそこまでよく知らない。彼女がよく行く場所どころか家すら分からない。


 紫音もそれは分かっている。碧依に探し出せるとは思ってないだろう。

 彼女が伝えたかったのは別のこと。もしものこと。


──怪異は魔法少女の成れの果て。


 その言葉が頭の中に響く。


 もしかしたら危険がこっちに迫るかもしれない。そういう注意喚起をしたかったのだろう。


「碧依ちゃーん」

「わ! な、あ、あかり!?」


 耳元で声を出されて、思わず飛び上がった。


「そこまでびっくりするなんて何か考え事?」

「んーん、なんでもない。とりあえず行こう?」


 碧依の無理した笑顔は、きっとあかりに見抜かれている。それでも何も聞いてこないあたり、彼女らしいと思った。


 一抹どころじゃない不安を碧依は抱える。それでも日常を演じようと、あかりとともに学校を出た。

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