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黄泉がえりの東條英機  作者: 広田昭和
72/81

第72夜 シンガポールは燃えている (2)

 今日は、原田さんの夢を見ました。彼女とキッスをする夢です。もう少しで、唇が重なるところへ、東條閣下が咳ばらいをして、部屋に入ってくるところで、目が覚めました。 

 凄く残念な気がして、二度寝したが、彼女の顔は、浮かばなかった。仕方がないので、顔を洗って、歯を磨くと、気分転換になった。


 服薬を終わると東條閣下の病室に行った。


「今晩は。東條閣下。ご機嫌はいかがでありますか。」


「頗る良い。」


「それは良かったであります。では、お話をお願いします。」


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


昭和17年1月15日、南雲忠一司令長官の第一航空艦隊はインドシナ半島沖から100キロのE地点を23:00に通過した後、針路180度、毎時27ノット(50km)でひたすら南下し、北緯4度82分、東経105度84分のマレー半島とインドシナ半、の中間点、H地点まであと1海里に到達した。シンガポールまであと約450km。


第一航空戦隊(南雲忠一司令長官直率):空母赤城・加賀、第五航空戦隊:司令官:原忠一少将)空母瑞鶴・翔鶴、第3駆逐隊:汐風・帆風、第三戦隊:戦艦金剛・榛名・比叡・霧島、第16戦隊:足柄・長良・球磨、第17戦隊:厳島・八重山・辰宮丸 第5水雷戦隊:名取 第5駆逐隊:朝風・春風・松風・旗風 第22駆逐隊:皐月・水無月・文月・長月、第1潜水隊:伊15・伊16・伊17 合計28隻


 16日04:30頃


「艦長、1海里でH地点です。」


「H地点まで1海里。」


 長谷川喜一艦長が復唱し、航海士に確認する。

「航海士、風向、風速は。」


「風向東北東、風速秒速5m。」


「風向東北東、風速5m。」


「源田参謀、発艦準備は完了したかね。」


 南雲忠一司令長官が確認した。


「はっ。完了いたしました。」


「艦長、反転、全速。」


「操舵手、針路45度、面舵一杯、全速。」


「針路45度、面舵一杯、全速。」


 旗艦空母赤城は、反転を始めた。巡洋艦、駆逐艦に護衛された空母加賀、蒼龍・飛龍が続く。


「針路45度、全速。」


 操舵手が報告する。

 空母からの発艦には、風上に船を走らせることにより、向かい風と進行することによる風との合成風力を利用する。それにより、短い距離で発艦することが可能となる。

南雲が命令する。


「第1波攻撃隊発進。」


 赤城から零戦9機が発艦し、続いて九九式艦上爆撃機18機、九七式艦上攻撃機15機が発艦した。

 加賀から零戦9機、艦爆9機、艦攻12機、瑞鶴から零戦9機、艦爆12機、艦攻15機、翔鶴から零戦9機、艦爆15機、艦攻12機が発艦し、淵田美津雄中佐の隊長機の九七式艦攻、135機が攻撃隊の先頭に立った。


05:00頃。第1次第1波攻撃隊、零戦機36機、九九艦爆45機、九六艦攻54機(800キロ徹甲弾半数、魚雷半数)計144機。発艦した各機は、空母艦隊の上空で旋回しながら、それぞれ決められた高度で編隊を組み、目標に向かった。目指すシンガポールは、450kmの彼方にあった。

 

巡航速度263km/h、高度3000mで、1時間程飛行すると夜が明けてきたが、雲海の上を飛んでいるため海が見えないので、推測航法はできない。そこで、総指揮官淵田中佐は、シンガポールのラジオ放送局にダイヤルを合わせた。クラシック音楽が聞こえたので、ラジオ方位探知機を使って針路を修正した。

 

雲が途切れ、晴れ間が見えてきた。発艦から1時間20分後、先頭を行くパイロットは、その視界にマレー半島の先端を捕えた。


 零式水上偵察機は、セレター軍港に空母1、巡洋艦6、駆逐艦9の大艦隊が停泊しているのを視認した。さらに、偵察機は、戦艦1、巡洋艦1、駆逐艦4が水道入口のウビン島を航行中なのを発見した。偵察機は、航行中の戦艦を追跡するとの電信があった。


「予定どおり、我々第1波攻撃隊は、セレター軍港と飛行場を攻撃する。」

この判断は、後で間違っていなかったことが証明された。


06:15、一方のシンガポールのマレー司令部。すでに軍服に着替えていたパーシバル司令官は、当直の通信兵から報告を受けた。


「司令官、コタバル陣地から入電であります。05:50、日本軍がコタバルに上陸作戦を開始した。日本海軍からの砲撃を受けている。救援を頼む。以上。」


マレー司令部では、前日、偵察機から日本軍の大艦隊がシャム湾奥に向かって航行中との情報を得ていたので、陸海空軍に警戒態勢を指示していた。


パーシバル司令官は、直ちに行動を起こすよう命令した。


「海軍に、直ちに現地師団への救援要請をだせ。」


「空軍には偵察機全部を上げるよう命令をだせ。」


パーシバル司令官は、「すわー開戦!」とならず最低限の対応はしていた。

東洋艦隊は、前日から蒸気タービンを動かせるよう対応をしていた。しかし、直近の日中融和ムードで日本軍の侵攻はないと兵隊たちは考えていた。


「支那軍に勝てないような日本軍であるから、戦力、練度は低い。」


「日本人は夜間の飛行はできない。」


英軍は人種的な偏見にもとらわれていた。

標高581mのブキテマ高地には、高射砲陣地があり、そこには射撃管制用のレーダーサイトがあった。しかし、このレーダーサイトの運用時間は、07:00から19:00であった。要塞部隊や空軍基地では警戒態勢といっても通常より、早朝の勤務を厚めに対応していただけであった。レーダーの操作員は、レーダーの電源を入れた持ち場には未だついていなかった。

 06:30頃。セレター飛行場の司令部は、マレー司令部からの日本軍上陸の連絡を受け、偵察機を6機上げた。

 赤城の第1制空隊の板谷飛行隊長隷下の零戦が、第1波攻撃隊の先頭を飛行していた。


「隊長、敵機です。」

]

 1番機の海野飛曹長が手信号で合図した。日の光を受け複座の飛行機がこちらに向かってきた。板谷隊長は、手信号でトツレを指示し、零戦を自ら突っ込んでいった。

 偵察機は、零戦の編隊に驚いてすぐに引き返したが、追いつかれ、撃墜された。他の偵察機も零戦の敵ではなかった。しかし、東と西側に回りこんでいた2機の偵察機は難を逃れた。

 

06:45、日の出前の光を斜め右に受けて攻撃隊はジョホーバル市の丘からシンガポール島に突入した。


「セレター軍港が見えます。」


「どうれ!いるわ!いるわ!沢山いるわ。」


淵田中佐は、改めて、セレター軍港の1000m岸壁から空母が離岸し、今まさに出港するところを確認し、巡洋艦6、駆逐艦9が停泊しているのを確認した。

この時、艦爆隊が視認したのは、空母インドミタブル、重巡洋艦エクセター、軽巡洋艦モーリシャス、ダナイー級軽巡洋艦ダーバン、ダナイー、ドラゴン、駆逐艦ジュピター、エンカウンター、ストロングホールド、スコット、サニット、オランダ海軍のジャワ級軽巡洋艦ジャワ、アメリカ海軍の駆逐艦ホイップル、ジョン・D・エドワーズ、エドソール、オールデンであった。

そして、戦艦プリンス・オブ・ウェールズ、巡洋戦艦レパルス、駆逐艦エレクトラ、エクスプレス、ヴァンパイア、テネドスは、シャム湾の日本の輸送船を攻撃するためウビン島を航行中であった。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

もうじき就寝の時間ですから今日はここまでとしましょう。

 続きはまた、明日、お話します。おやすみなさい。


節子さんの部屋の見回りをした。入口のところで言葉を交わして、見回りを終えるつもりだったが、彼女は、入口で私の来るのを待ち構えていたようだ。

私は、部屋に入ったところで、手をつかまれて、引き込まれた。そして、力いっぱいベッドに突き飛ばされたのだ。


「今日は、すぐに返さないから。」


「何をするのですか。危ない。」


「怒った顔も素敵ね。」


「からかわないでください。」


「そうね。でも、真剣だわ。好きな顔立ち。この薄い唇が素敵。」


そう言うと私の唇に顔をかぶせてきた。私は痺れたように動けなかった。彼女は、私の口を吸うと微笑んだ。


「お願い。話しかけないで。動かないで。私のされるままでいて。」


 私は、頷いた。

彼女は、再度、私の唇を吸った。

その夜の出来事は、現実のような気がしなかった。身体の芯が痺れる様だった。



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