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黄泉がえりの東條英機  作者: 広田昭和
61/81

第61夜 行く先秘匿の出港

 ナースセンターに出勤した私は、落ち着きません。今日は、原田さんの病室の見回りがあるからです。


「今晩は、東條閣下。ご機嫌は、いかがでしょうか。」


「頗る良い。」


「それは、良かったですね。」


「では、黄泉がえりの話を聞いてくれ。」


「お願いします。」 


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 新納一飛曹は、基地に戻ると、早速、4日から訓練が再開した。急降下爆撃と初着艦を繰り返し、訓練して長い休みで鈍った感を取り戻した。


 1月8日であった。 飛行長から示達があった。


「明日は、全機母艦に収容する。」


 すでに、整備員やその他の各科員も母艦に戻り、基地に残っているのは、搭乗員と飛行機と若干の整備員だけだった。新納一飛曹達は、身の回り品を片付け、早々に就寝した。

 翌日、飛行長から再度示達があった。


「本日は、如何なることがあろうとも必ず全員残らずに加賀に着艦する。着艦できなかった者は置いていく。以上。」


 9日は、冬の西北風の強い日で、海は、ウサギが飛び跳ねるように白波が立っていた。空母加賀は、木の葉のようにゆらゆら揺れていた。

 飛行機収容が始まった。大野大尉の一中隊、小川大尉の二中隊と順序よく着艦していく。次は新納の三中隊である。先頭機が着艦した。新納一飛曹の前200mの高橋兵曹長の着艦の時に事故は起きた。艦尾に高橋機がさしかかった瞬間、空母の後部が大きく浮き上がり、高橋機は甲板に叩きつけられた。後部は折れて海中に落ちた。

 すぐに、新納機に「着艦やりなおし」のサインが来た。新納一飛曹は、直ちにエンジンを吹かし、機首を上げ、やり直しに移った。下をみると搭乗員の2人は無事で、飛行機の残骸が大急ぎで撤去されている。

 新納一飛曹は、着艦体制に入った。ところが、また、「やり直し」のサインである。


「ちぇッ!」

 

 新納一飛曹は、少し降下速度が速かったかと反省し、3度目の着艦に入った。今度こそと思ったが、また、「やり直し」。自信を無くしかけたが、今日だけは、着艦させねばと思った。


「和ちゃん。頑張れ。」


 偵察員の石川一飛曹が後ろから声を掛けた。

新納一飛曹は、気を取り直して、4度目の着艦は、無事上手くいった。

 今日のように海が荒れ、母艦が上下する時には、「ふわッ」と舞い降りるように着艦しなければならないことに気付いたのだ。

 全機着艦が終了すると空母加賀は、進路を反転させ、日向灘を南下した。


「総員発着甲板に集合!」

 スピーカーから命令がくだった。


「ただ今より、本艦は作戦に参加するため出ていく。行く先は言えない。これが内地の見納めとなるかもしれない。よーく見ておけ。」


 艦長は、訓示をそう締めくくった。

 高千穂峰を含む霧島連山が遠く霞んで段々見えなくなっていく。新納は、故郷の海山目に焼き付けた。

空母加賀は、ひたすら南下した。


「分隊長殿、本艦はどこへ行くのですかね。」


「俺にも分からん。」

 分隊員が主計科から防暑服をたくさん積んでいると聞いて「南方に行くのだろう。」と得意げに言っていた。だが、それ以上は分からなかった。空母加賀は駆逐艦2隻とともに依然として南下した。

 

 空母加賀が出港してから4日目、陸地が見えた。まもなく入港用意のラッパが鳴った。

しばらくして、ここが海南島の三亜港だと乗員に知らされた。そして、行く先は、シンガポールであることも。


「おい、凄いぞ。戦艦金剛・榛名がいるぞ。空母赤城・瑞鶴・翔鶴・蒼龍・飛龍もいるぞ。一体何隻になるんだ。わが海軍の総出動に近いぞ。」


 三亜港に一杯に停泊するその艦隊の規模は、帝国海軍史上、空前絶後の数であった。


 翌13日、新納たちの空母加賀は、南遣艦隊と陸軍輸送船隊が出港したあと、戦艦と駆逐艦に守られた輪形陣の艦隊を組んで出港した。そして、輸送船6隻も艦隊に組み込まれていた。 


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 もうじき就寝の時間ですから今日はここまでとしましょう。

 続きはまた、明日、お話します。おやすみなさい。


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