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黄泉がえりの東條英機  作者: 広田昭和
58/81

第58夜 マレーシア独立軍結成

「黒井君、患者さんには慣れたかね?」


 出勤し、ナースセンターにいると珍しく病棟医師の今井ドクターから声をかけられた。病棟医師は、5人の昼夜交代制で勤務している。今井ドクターは、僕の担当だ。


「はっ、ここの患者さんは大人しいので助かります。」


「大人しいからと言って油断しては駄目だよ。この間の暴走族の騒音で騒ぐこともあるからね。」


「はっ、了解しました。」


「東條閣下の影響か、言葉つきが軍隊調だね。」


「そうでありますか。自分は、気付きませんが。」


「まあ、問題ないか。ところで何か困ったことはないかね?」


「はっ、これといったことはありません。」


「夜勤ばかりで体の調子はどうかね。」


「はっ、心配して頂いて、ありがとうございます。最初は,起きるのが大変でしたが、もう慣れました。」


「それは良かった。日勤と交代制にしても良いらしいので、無理するなよ。」


「はっ、ありがとうございます。その時は、お願いします。」


「どうだい、一人で夜の病棟を巡回していると夜は怖くはないか。」

 この先生は、今日は、よく質問するな。質問攻めだ。


「はっ、夜には何か。魔物が棲んでいるような一瞬があります。逢魔が時というんですかね。」


「そうだね。そう言うときは、遠慮なく僕を話し相手にしてくれ。」


「はっ、よろしくお願いします。それでは、東條閣下の話を聞きに行きますので、失礼します。」


「今晩は、東條閣下ご機嫌はいかがでしょうか。」


「頗る良い。」


「それは、良かったですね。」


「では、黄泉がえりの話を聞いてくれ。」


「お願いします。」 


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 11月26日、海南島、三亜、第25軍司令部、ラジオ局。

ラジオからは、後に国家となる『トラン・ブーラン』が流れた。『月の明り』という意味だ。どこかハワイ民謡のようなゆったりとしたリズムの懐かしい感じの曲である。マレーシアに従軍した日本軍の兵士の間でもよく歌われたそうである。


「こちらマレーシア独立軍放送です。2480khzでお送りしています。本日は、記念すべき第1回目の放送です。私は、パーソナリティのシャク・ハジ・ムハンマドです。まず、独立軍司令官イブラヒム・ヤーコブをご紹介します。」


「マレーの皆さん、中でもシンガポールの皆さんこんにちは。マレーシア独立軍司令官イブラヒム・ヤーコブです。私は、マレーシア独立のため今同志とともにこの島に来ています。」


「司令官、こちらに来て、一番感激したことはなんですか。」


「うーむ。いろいろありますが、日本軍と同じ食事をしていることですね。我々と日本軍と一切差別待遇がないことです。といっても豚肉、ラード油は使用しておりません。」


「司令官、その軍服はどうされたのですか。」


「基本は、日本軍と同じ軍服です。ただし、鉄兜にはマレー国旗があり、マレー国旗の軍旗もあります。月と星に12州を表す赤白のストライプが特徴です。ラジオなので伝わりますかね。」


「伝わりますよ。それでは、この辺で、歌を送ります。『シンガポーラ、サニー、アイランド』です。」


『シンガポーラ、ああ、シンガポーラ、太陽が海に沈む太陽の島、

シンガポーラ、ああ、シンガポーラ、あなたと私にきれいな花が咲く』


「ああ、いつ聞いてもいい歌ですね。」


「本当にそうですね。ところで、司令官どのような訓練をなさっているのですか。」

「用兵、練兵の訓練です。」


「用兵といいますと具体的にはどのようなことでしょうか。」


「用兵は、具体的には、武器、爆発物、通信機器、戦術行動、緊急医療、築城などの戦闘技術を学ぶ予定です。また部隊レベルでは作戦行動の連携を維持するための指揮統率、後方支援です。」


「随分、幅広い分野に渡って訓練されているのですね。練兵というのは、兵隊の行進なんかをいうのですか。」


「練兵は、士官、下士官、兵卒に分かれているのです。」


「司令官の訓練はどのようなことをやっているのですか。」


「私などの士官には精神教育、戦術学教育、一般教養などが教育訓練されます。また、軍隊の中でも現場に携わる下士官は、精神教育、身体訓練、装備の取扱い、サバイバル技術など、より発展的な戦闘技術などが教育訓練されます。また士官と下士官は共に兵とは異なって部下を統率するためのリーダーシップも教育されます。兵卒はその精神教育、身体訓練、基本教練、装備の取扱い、射撃術、築城技術などの教育訓練を受けます。」


「次に、ヤーコブ司令官は、どうして政治的な活動をされないのでしょうか。」


「日本は、11月7日、大東亜諸国経済連合構想を発表しました。この中で、日本は全ての民族が民族独立権を有することを宣言しています。独立のための武装・非武装の運動を行うことは当然であると言っています。そして、日本政府は、英・仏・蘭・葡に対し、その支配する亜州植民地を3年以内独立させるよう要求し、11月30日までに政治犯を解放し、12月31日独立の準備交渉を開始しない場合には、亜州解放のため採り得るべき全ての手段を行使するとも言っています。これは、アジア州にとって画期的なことです。日本が満州、朝鮮、台湾においても民族独立権を認めるとも言っています。ですから、我々は、日本軍の支援を受けて独立を勝ち取ろうと軍隊を創設することにしたのです。」


「司令官の熱い気持ちが良くわかりました。」


「マレー、シンガポールの皆さん。この訓練が終わり、我が国の独立のためにイギリスと戦う日は近いです。それでは、また、明日、この時間、この周波数でお会いしましょう。パーソナリティーは、シャク・ハジ・ムハンマドでした。」


『トラン・ブーラン』の曲がラジオから流れた。


 12月10日、海南島、三亜、第25軍司令部、ラジオ局。


「こちらマレーシア独立軍放送です。2480khzでお送りしています。私は、パーソナリティのシャク・ハジ・ムハンマドです。今日のお客さんは、独立軍司令官イブラヒム・ヤーコブです。司令官、連日の訓練ご苦労様です。」


「独立軍司令官イブラヒム・ヤーコブです。さて、今日は、声明があります。

声明。我々マレーシア独立軍は、イギリス政府に対し、11月30日までにマレーの独立に関して独立協議に関する権限を海峡植民地総督に付与し、12月31日までに独立協議を開始することを要求する。なお、12月31日までにイギリス政府が応じない場合、マレーシア独立軍司令官の権限により、日本政府に対し、独立のための支援を要請することも併せて声明します。以上。」


「ヤーコブ司令官、今の声明は、正式にイギリスに対し、独立を要求したということでよろしいですか。」


「そうです。それとともに、独立交渉に応じない場合には、1942年1月1日以降、我々は日本軍と合同作戦を行うということです。」


「司令官。私は感激しました。マレーシア独立万歳。それでは、また、明日、この時間、この周波数でお会いしましょう。パーソナリティーは、シャク・ハジ・ムハンマドでした。」


 同日、インドネシア軍のスカルノもマレー軍同様の声明をだした。これらの声明は、世界中に、伝わった。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 もうじき就寝の時間ですから今日はここまでとしましょう。

 続きはまた、明日、お話します。おやすみなさい。


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