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黄泉がえりの東條英機  作者: 広田昭和
57/81

第57夜 インドネシア独立軍結成

「今晩は、東條閣下。ご機嫌は、いかがでしょうか。」


「頗る良い。」


「東條閣下のお子さんたちは、閣下がこのような老人施設に入っていることをどう思っているでしょうか?」


「そうだな。親思いの息子だが、自分でこの施設に希望したのだよ。面倒をかけるのが嫌だったからな。」


「そうなんですか。」


 ちょっと待てよ。そう言えば、この精神病院には若い患者は皆無だ。どうしてだろう。いや、そんなことを今は考えないことだ。


「では、黄泉がえりの話を聞いてくれ。」


「お願いします。」 


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 11月14日、スカルノほか52名を乗せ、いろは丸が三亜港に着いた。彼らは、休む暇もなく軍事訓練を受けることになる。


中井栄一大尉は、上陸すると司令部に出頭した。

「報告。F機関中井栄一大尉、スカルノほか52名の印度シナ人を連れて参りました。

軍事訓練のほどよろしくお願いいたします。」


「そうか、第1陣が着いたか。どこから来たのか。」


 参謀副長の馬奈木敬信少将がそう聞いてきた。中井大尉は、少将相手に臆することなく答えた。

「インドネシアの政治犯53名を連れております。なお、スカルノ、ハッタ、シャフリルは、独立運動のリーダーです。全員イスラム教徒ですのでよろしくお願いいたします。」


「イスラム教徒か。1日5回のお祈りだな。」


「はい。そうであります。」

 

 11月20日、海南島、三亜、第25軍司令部、ラジオ局。

ラジオからは、後に国家となる『インドネシア・ラヤ』が流れた。ラヤとは大いなるという意味だ。ゆったりとしたリズムで勇壮な曲である。

『インドネシア,我が祖国

 我等の生まれし故郷

 我等は立ち上がる

 この母国を守るために』


「こちらインドネシア独立軍放送です。2470khzでお送りしています。本日は、記念すべき第1回目の放送です。私は、パーソナリティのスタン・シャフリルです。まず、独立軍司令官スカルノをご紹介します。」


「インドネシアの皆さん、中でもスマトラの皆さんこんにちは。インドネシア独立軍司令官スカルノです。私は、インドネシア独立のため今同志とともにある島に来ています。我々は、今日から、軍事訓練に励んでおります。」


「スカルノ司令官、今後の独立への道をどのように考えておりますか。」


「今、オランダはドイツに敗れ、イギリスに臨時政府を作っている。これは、オランダから独立する絶好の機会と言える。先日、日本が大東亜諸国経済連合構想の発表をし、世界中に独立のための協議を提案したので、我々は、オランダ臨時勢力並びに植民地政府にインドネシア独立のための協議を呼び掛けたい。近く、正式に文書で通知するつもりである。しかし、我々の力は、まだ弱い。インドネシアの全ての同胞よ。立ち上がる時が近い。」


「そうですね。今、我々が戦いを始めてもオランダ本国からは応援部隊はおろか、武器弾薬も入ってこないでしょう。チャンスですね。」


「そう又とないチャンスです。そこで、1942年1月1日以降は、武力闘争を日本軍の支援の元、開始し、一気にオランダを駆逐したい。そのための軍事訓練だ。」


「それでは、ここで故郷の唄、ゲサン・ハルジュハルトノの『ブンガワン・ソロ』をお送りします。」

 インドネシアの唄われている流行歌が流れた。どこか懐かしい感じの曲である。


「良い曲ですね。僕の故郷には、この歌の中のソロ川が流れているので、懐かしいですね。ところで、司令官、こちらに来て、一番感激したことはなんですか。」


「うーむ。いろいろあるが、日本軍と同じ食事をしていることですね。我々と日本軍と一切待遇上の差別がないことです。といっても豚肉、ラード油は使用しておりません。」


「司令官、その軍服はどうされたのですか。」


「基本は、日本軍と同じ軍服です。ただし、鉄兜にはインドネシア国旗がデザインされ、インドネシア国旗の軍旗もあります。横に赤と白半分づつが特徴です。インドネシア国民党の国旗を受け継いでいます。ラジオなので伝わりますかね。」


「充分、伝わっていますよ。司令官。」


「司令官の熱い気持ちが良くわかりました。」


「インドネシアの皆さん。この訓練が終わり、我が国の独立のためにオランダと戦う日は近いです。それでは、また、明日、この時間、この周波数でお会いしましょう。パーソナリティーは、スタン・シャフリルでした。」


ラジオからは、『インドネシア・ラヤ』が流れた。

『偉大なるインドネシア、独立、自由!我が地、我らの愛する国

 偉大なるインドネシア、独立、自由!偉大なるインドネシア万歳!』


 11月22日、いろは丸がバンコクから三亜港に入港した。

F機関長藤本岩市大佐は、司令部に行った。


「報告。F機関長藤本、マレー人500人を連れてきました。独立軍となるべく教練をお願いいたします。」


「おお、着いたか。元が盗賊だったそうじゃないか。果たして、教練に耐えられるか。」

 参謀副長の馬奈木敬信少将が心配した。


「彼らは、将来のマレー陸軍の将兵です。ビシ、バシ鍛えてください。日本式の竹刀、ビンタは止めるようお願いします。彼らは、侮辱されたと思いますので。それから彼らはイスラム教徒ですから、1日5回のお祈りには配慮してください。」


「やれ、やれ。しかし、軍隊用語は日本語でやらせてもらう。戦闘の指揮命令が伝わらなければ、こちらの命が危ないからな。」


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 もうじき就寝の時間ですから今日はここまでとしましょう。

 続きはまた、明日、お話します。おやすみなさい。


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