第45夜 阜新炭鉱
「今晩は、東條閣下、ご機嫌はいかがでしょうか。」
「頗る良い。」
中国共産党は、日本は、阜新・撫順炭鉱で、強制労働をやって、多数の中国人を殺したと最近になって言い始めている。炭鉱労働は、危険が多いのでそのように宣伝戦に使われているようだ。
「では、お話をお願いします。」
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長旅と飲酒のせいで、金次郎は、翌朝まで熟睡した。丹羽は、7時に金次郎を起しにきた。
「金次郎さん。起きてください。事務所の始業時間に間に合わなくなります。」
「はい。課長。少し飲みすぎました。」
「鯉川君、急いで朝食を食べましょう。」
女将の家庭料理で朝食を済ませると二人は炭鉱の事務所まで歩いていった。
炭鉱と言っても阜新炭鉱は露天掘りであった。
すり鉢のように掘られた炭鉱のはるか地底に、2台のパワーショベルが石炭を掘り、豆粒のような労働者が蟻のように群がってトロッコにシャベルで石炭を放り込んでいるのが見えた。
阜新炭鉱(孫家湾)は20層にも及ぶ炭層がボタをはさんで重なり、これらの合計が100メートルの厚さとなっている。日本鉱山は、この炭層を小型のパワーショベルを使って、掘り下げていた。厚みのある炭層の撫順よりはるかに掘りにくいが、人海戦術でトロッコに石炭を積んでいた。
「すごい人数ですね。何人ぐらいいるのですか。」
「常時20,000人はいるでしょう。阜新では掘り下げていけば、深い炭層は質がよくなります。だから今、人数を増やして、掘り下げています。」
丹羽課長によれば、この街の都市計画が出来た当時、阜新の人口は8000人程度だったらしい。
都市計画では、15万人という人口を30年がかりで受け入れる予定だそうだ。それだけ長い間石炭産業を続けたいという期待が、この街の都市計画に現われているらしい。ちなみに現在、7万人を超える人口を抱えているとのことであった。
「日本の炭鉱みたいに穴を掘らないので、事故が少なく、能率的ですね。」
「日本の鉱山の炭層が2m程なのを考えれば能率的です。しかし、事故は起きます。剥土と言って、新しい炭層が出たら発破を掛けます。これで事故が起きることがあります。段々に道路になっていますよね。もともと石炭なので硬くはありませんので、雨が降れば崩れやすくなりますので、排水設備は大事です。夏の炎天下には発火する恐れもあり、粉塵による爆発もあります。」
「そうですか。事故が少ないなんて素人の浅知恵ですね。」
「炭鉱の労工は、重労働です。そんなことで、災害や不注意による死亡事故、ケガで毎月のように労工が死ぬのですな。彼らの命はこの中国大陸では軽いです。なにしろ日照りや洪水が起きると万単位で人が死ぬ国ですから。」
「労工の飯場に連れて行ってください。」
「いいですよ。見ても何にも面白いことはありませんよ。寝床ですから。」
飯場は、線路の方に戻ったところにあった。屋根に煙突のあるレンガ造りの大小の社宅がたくさん建っていた。
「800棟あります。大きい社宅は単身者用です。1棟ごとに賄い婦が4人付いて、50人の食事や洗濯、掃除、暖房の面倒を見ています。彼女たちの社宅も別にあります。小さい方は、家族用の長屋です。」
「へえ、結構立派ですね。」
金次郎は、外観を見て感想を言った。
「満州の冬は内地と比べられませんよ。オンドルといって、カマドに石炭をくべて、その熱と煙が床下に入って暖房し、煙突からでるようになっています。これがないと部屋に寝ても凍死してしまいます。」
「なるほどね。レンガ造りもそういうことですか。」
「そうです。板では薄くて断熱が効きません。土壁か石造り、レンガ造りです。」
「ヤア、丁サンオ早ウ。中ニ入イルヨ。」
「課長サン、オハヨウゴザイマス。」
「丁サン、コノ人、コイカワサンダ。」
「コイカワサンネ。ヨロシクネ。」
「どうですか。関東軍の兵舎と一緒の作りになっています。」
確かに中は2段ベッドが所狭しと並んでいたが、食堂も便所、シャワー室もあった。
「衛生的で簡素でいいですね。」
「食事は満足とは言えないかもしれませんが、栄養は足りていると思います。作業員の体力が落ちれば非効率になるだけです。シャワーは石炭があるのでお湯も出ます。」
二人は管理部がある事務所に戻った。そこで、丹羽課長から、満人は、雇用形態ごとに傭員、常傭方、採炭夫、其他に分かれ、常傭方以外は、1等、2等、3等と日当が分かれていると聞かされた。そして、50人が組となって、組頭が採炭夫の管理をしているのだ。通いで来ている採炭夫もいて、先ほどの宿舎の食堂で昼飯を食べているとのことだった。昨日聞いたように、満人・支那人は、弁当は食べないらしい。
「炭鉱には日本人従業員は、何人ぐらいいますか。」
「540人ほどです。明日、朝一番で経理課の皆に紹介しましょう。」
「僕は4月からここの管理部に来るように父から言われていますので大体の仕事は知っておきたいのです。」
「分かりました。満州の石炭の代表は、なんといっても撫順です。その撫順の4倍の埋蔵量があると推測される炭鉱が、阜新炭鉱です。お父上がこの炭鉱を開発するまでは、阜薪の石炭は人気が悪かったようです。もえつきがわるく火力が弱いため、やたらと煙が出る割に熱が出ず、灰ばかりが溜まってしまいます。阜新炭は撫順の石炭と半々づつ使用されていました。その後、お父上が炭鉱経営すると阜新炭は良質な石炭を算出するようになりました。生産量が安定し、量も確保できて質の悪い石炭を選別でき、質の良い炭層まで掘り進んだ結果です。
今では、最高7000カロリー、高カロリーで知られる撫順龍鳳炭の7000カロリーと同等までになっています。良質といえば撫順にくらべ粘着力があります。工業用はもちろん、汽車、汽船用として評判がよい。家庭に用いても灰分がすくなく油煙がたまらず煙突掃除は撫順炭をつかったときほどやらなくてよい。冬の間、安心して使えると好評を得てます。」
金次郎は、事務所の側にある社宅をあてがわれた。1月いっぱい掛かって、財務会計、採炭計画、選炭計画、採炭実績、選炭実績、作業工程、従業員・採炭夫・組頭の配置計画、休業・病気の穴埋め、新規雇用、職場安全などについて丹羽経理課長や井上総務課長、小林業務課長に教えてもらう予定だった。
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もうじき就寝の時間ですから今日はここまでとしましょう。
続きはまた、明日、お話します。おやすみなさい。




