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黄泉がえりの東條英機  作者: 広田昭和
42/81

第42夜 記者発表と意見広告

「今晩は、広田閣下、ご機嫌はいかがでしょうか。」


「頗る良い。」


「今日もお話を聞きに伺いました。」


「閣下は、この病院の東條閣下とお会いしましたか。」


「うむ。」


「そうですか。開放型病院ですからね。会っていますよね。で、どんなお話をするのですか。昔話ですか。」


「うむ。」


「ところで、広田閣下は、いつ黄泉がえりだと知ったのですか。」


「10月17日の夜だった。床に付くときだった。東條の『道連れにしてすまん』の声が聞こえた。すると、自分の黄泉がえりの声が聞こえたのだ。」


「東條さんとは現われ方が違いますね。それでは、お話をお願いします。」


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 私は、外相として、フィシャー議員たちとの会談後、議事堂のプレスルームでプレス発表に臨んだ。


「一昨日26日、ハル国務長官より、大日本帝国は、極めて重大なそして一方的な通告を手交されました。その翌日、私は、ルーズベルト大統領と会談し、質問と抗議を行いましたが、大統領は、検討するとはいいましたが、イエスの回答は1回もありませんでした。ここにその通告のコピーがありますので、お配りします。」

 記者たちは、奪うようにコピーを係員から持って行った。

 

 私は、議事堂プレスルームで記者会見を始めた。

「アメリカ合衆国市民の皆さん、記者の皆さん、大日本帝国政府は、アメリカ合衆国との戦争を回避することを決意し、現在、秘密裡に進行している日米交渉における日本側の最終交渉案をアメリカ合衆国連邦政府に提案いたします。その前に、大日本帝国は、アメリカ合衆国連邦政府のとった日本に対する在米資産凍結、石油の全面禁輸の措置は、国際法上は、戦争行為に当たる行為だと考えています。これは、事実上、日本経済の破綻と日本の軍事継続能力喪失を目的とするものです。

 それでは、新たな提案を発表いたします。」

 新たな日米交渉案(乙案)

1.日本が、南部仏印から即時撤兵を実施すると同時に、中国に展開する全ての日中軍隊の3か月間の停戦について合意する。その後、3か月後、米国が原油禁輸を解除する。

2.米英蘭は、植民地も含め、通商上の無原則の平等の原則に基づく貿易することを日本と合意した時に、北部仏印から即時撤兵する。

2.日本政府が次の基礎条件を保証したときは、アメリカ大統領は蒋介石政権に和平を勧告する。

日中和平基礎条件

(一)善隣友好、(二)主権及び領土の尊重、(三)治安維持を目的とする内蒙古・北

 支の一定地域に日本・米国陸海軍各20,000人を上限とし、3年間駐兵する、

(四)(三)の駐兵以外の軍隊は日中平和条約が成立後、直ちに撤兵する。ただし、満州国は除く。(五)中国におけるすべての治外法権の即時放棄、(六)日中平和条約が成立後、満州国を除く中国におけるすべての特別権益の放棄(七)汪兆銘政権と蒋介石政権との合流、汪兆銘政権の解消(八)非併合、(九)無賠償、(十)中国における通商上の機会均等を含む平等の原則の遵守、特に日貨を排撃する中国国内法の撤廃並びに排撃運動の自粛(十一)満州国を中国が承認し、満州国は、民族独立権に基づき政治を行う。関東軍は、軍事に専念する。具体的には、2年以内に普通選挙により選出された議会と政府を創設する。(十二)満州国における日本軍の駐兵は、(十一)を実施した後に決まる政府との条約によって決する。

3.米国が欧州戦争に対する態度は、もっぱら自国の福祉と安全とを防衛するという見地によってのみ決することを声明する場合には、日本国政府は、これをもって参戦することはないことを声明する。

4.最恵国待遇を基礎とする通商条約再締結のための交渉の開始

5.北部仏印撤兵後、アメリカによる日本資産の凍結を解除し、日本によるアメリカ資産の凍結を解除する。

6.円ドル為替レート安定に関する協定締結と通貨基金の設立

7.太平洋平和維持のため、相互に他を脅威する海空力の配備をせず。」


 翌日29日、アメリカの新聞には、大西洋会談の密約、日米秘密交渉の経過とハルノートの内容が日本の最終提案(乙案)とともに掲載され、次のような見出しが目立った。


「ルーズベルト大統領、対日強硬姿勢」

「日本、戦争回避か。」

「日本、中国・満州で画期的な提案。」

「大統領密約、英首相に参戦プレゼントか。」


 それとともに、日本政府の新聞1ページ全面の意見広告が出された。

その見出しには、「日本政府は、戦争回避するための提案をする。」の文字があり、ヨーロッパでの大戦、日中戦争の原因に、資源国・植民地保有国によるブロック経済圏と経済恐慌に対し抵抗力のない少資源国との間の植民地分割競争があるとし、民族自立権による植民地の独立を求める。

 そのために、12月31日までに英仏蘭葡のアジア植民地の全ての政治犯の釈放し、独立準備交渉することを勧告した。その意図は、ブロック経済圏の撤廃や特定の国に対する高関税率の適用廃止と自由貿易の推進することにある。そして、それを保障するため、1.自由(関税の低減、数量制限の原則禁止)、2.無差別(最恵国待遇、内国民待遇)3.多角的通商体制を目的とする国際貿易機関、通貨・為替・金融の安定を目的とする基金の提唱を行った。

 前日のプレス発表は、この広告を強烈アピールするために行ったのだった。アメリカの共和党の孤立主義者と反戦平和主義に期待したのだった。


 私は、大使館の和室で一人くつろいでいた。意識を集中するには、和室が落ち着くので、交信するには都合がよい。私は、後頭部1尺の高さに意識を集中し、東條総理を呼び出した。

『東條の先生』:(どうですか。アメリカの新聞の反応は。)

『広田の先生』:(面白いくらいにセンセーショナルな反応です。ルーズベルト大統領がチャーチルに参戦の言質を与えたのはとりわけ大きく報道されています。)

『東條の声』:(そうだろう。これで米議会でも追及が始まれば、やたら参戦できまい。ご苦労様ですが、もう少しルーズベルトと交渉を継続してください。)

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 もうじき就寝の時間ですから今日はここまでとしましょう。

 続きはまた、明日、お話します。おやすみなさい。


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