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黄泉がえりの東條英機  作者: 広田昭和
33/81

第33夜 新たな油田,大慶油田

「今晩は、東條閣下、ご機嫌はいかがでしょうか。」


「頗る良い。」


「3日は憲法記念日でした。不磨の大典と言われた帝国憲法が全面改正されたのです。」


「全面改正とはどのような。」


「それよりお話をお聞かせください。今日は、ダメなのですか。」


「そうではない。また、102号室に行土肥原大将の話を聞け。」


「わかりました。それでは、お休みなさい。」


 私は、部屋に行って、ノックをしました。「入れ」という声が聞こえた。


「待っていた。」


「久しぶりだな。東條さんから私の話を聞くように言われただろ。」

 私は、おとなしく彼の話を聞くことにしました。


「よろしくお願いします。」


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 黒龍江省の冬は長い。11月に入ると昼間でも零度を下回る。この辺りは、大小の湖が点在する湿地帯である。太陽が地平線の彼方、大興安嶺の山影に差しかかると急激に冷え込んできた。


「う~ん、ブルッ、寒くなってきたな。内藤さん。」

 海軍機関大尉小澤重吉は、満州石油技師の内藤雄二郎に言った。


「内地の寒さと比較にならないですね。」


「今日はこのくらいで終わりにしましょう。小島大尉。」

 貨車からトラックへの荷物の積みこみが終わった。海軍機関大尉小島重吉は、軍人に珍しく、穏やかな声で答えた。


「そうしましょう。満州の夕暮れは早いです。明日から本格的に探査を始めましょう。」

 慌ただしい旅程だったので、11月10日は、ゆっくりすることになった。


 海軍第2燃料廠の小島機関大尉に土肥原賢二航空総監から電話が入ったのは、11月1日午前10時頃だった。


「陸軍の航空総監の土肥原です。実は、君に頼みがある。満州の黒竜江省に石油探査に行ってもらいたい。詳しくは会ってから話すが、急ぎです。研究者と技師は、君の方で、手配してもらいたい。これには国家の命運がかかっている。すでに上司の許可は取ってある。」


 その日の午後、第2燃料廠の会議室で小島大尉は、土肥原総監と会った。


「電話では、軍機なので詳しく話せなかったが、ここへ至急行ってくれたまへ。」

 そう言って、総監は、メモを取り出した。


「北緯46度57分80.54秒 東経124度97分35.79秒、黒龍江省のハルビンとチチハルの中間だ。そこで、油兆の話があった。」


「やけに詳しい数字ですね。このメモは。錦州の阜新でも満州石油が探査をしていますね。」


「うん、そうだ。2000メートルまでの探査を進めている。」


「去年の4月、1時間5ガロンの出油がありましたね。新聞に記事が出てました。そこへ、さらに石油探査ですか。」


「阜新は1700メートル以降、思わしくないのだ。新聞発表した手前まずいのだ。」


「でも、どうして私ですか。満州石油がやればいいでしょ。」


「米蘭に石油を止められて、石油の備蓄は、1年6か月分しかないのは、君も知ってのとおりだ。とにかく急ぐのだ。それに、満州石油には地震探鉱器がない。そこで、京都帝国大学の松山基範教授の指導で重力探査器を使って、実績のある君が探鉱調査をしてくれたまえ。高性能のロータリー掘削機は、阜新にあるものを使うよう、満州石油にドリルパイプ2000メートル分と合わせて連絡しておく。」


 こうして、小島大尉は、松山基範京都帝国大学教授と日本石油の内山雄二郎課長と技師6名を連れ立って、11月9日、早朝、新京に着いた。

 

 一行は、満鉄が用意した貨車に重力探査器とロータリー掘削機を積み込むと、03:22新京発、8:35ハルピン着の寝台急行に乗った。ハルピンで8:45発の濱洲線に乗りかえると満州里行きの汽車に乗り換え、12:54、8番目の駅、薩爾圖さると駅に着いた。薩爾圖駅では、貨車を引き込み線に切り離し、積荷をスタッフが丁寧に降ろし、土肥原大将が手配した関東軍のトラックに積み込んだ。トラックは、10分程走ると目的地に着いた。

 一行は、トラックから備品をおろし、宿営地を設営した。そこで、さっきの会話になったわけだ。宿営地は、関東軍の4人が見張りに着くことになった。

 翌日、11月11日、満州石油のドリルパイプ、ケーシングパイプ、軽油、ダイナマイトを積載したトラック5台が到着した。

 

 土肥原航空総監からおかしな指示が出ていた。

「重力式探査と掘削は同時並行でやってもらいたい。」


「えっ、どういうことですか。」


「日米開戦が近い。時間がないので、博打に出る。」

 普通は、重力探査器で、地下埋蔵物の当たりをつけ、石油の埋蔵を確認した後、掘削機で出油を試みることになる。

 小島大尉は、トラックから満州石油のスタッフが降りると挨拶もそこそこに指示した。


「ここを掘削してくれ。水は川から汲めばいいだろ。」

測量器で北緯41度09分09.91秒,東経121度80.91秒の地点を割り出してあった。


「油兆ですね。ここの根源岩は何ですか。」

 マークの側の水溜りに、油膜がにじんでいた。


「根源岩は分かっていない。まだ、地震探査をやっていないからな。」


「どういうことですか。」


「いいから言われたことをやってくれ。」

 そこへ松山教授と満州石油の6人が集まってきた。


「小島大尉、説明して下さい。」


「僕にも分かりません。とにかく、戦局にかかわる問題だ。そう思って急いで、探査と掘削を進めてくれ。」

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 もうじき就寝の時間ですから今日はここまでとしましょう。

 続きはまた、明日、お話します。おやすみなさい。


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