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黄泉がえりの東條英機  作者: 広田昭和
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第34夜 第77回臨時議会

「今晩は、東條閣下、ご機嫌はいかがでしょうか。」


「頗る良い。」


「昨日は、ビックリしました。土肥原賢二大将という方にお会いし、大慶油田の話を聞きました。」


「そうだろう。かれも黄泉がえりだ。」 


「それは聞いています。本当だと思いませんでしたが。閣下は、今日はどんな話ですか。議会の話ですか。」


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

私は、総理大臣として、11月13日に第77回臨時議会を5日間召集した。増税案と臨時軍事費予算案を可決成立させ、国民に対しては、新内閣が新たな国策遂行に関する決意を披瀝して国民の理解と協力を求めるための議会だと報道された。


11月13日、この日は、朝からNHKの職員が議場にライトやカメラ・マイクを持ち込み作業していた。初めて、国会のラジオ中継を放送し、記録映画も撮った。


私は、貴・衆両院で対米交渉を念頭におきながら施政方針演説を行った。

「米国は、貿易停止、禁油という強硬手段で帝国との交渉に臨んでおり、帝国は実に悠久二千六百年の歴史の上に於きまして、かつて見ざりし国家隆替の岐路に立って居るのであります。」


私は、強い危機感を表明した。


その上で、「大東亜諸国経済連合構想」の意義を強調した。

「明治大帝、元勲は、西洋列強の植民地化に抗し、江戸幕府を転覆、明治維新を断行したのであります。その結果、今や大日本帝国は世界の列強の地位を占めるまでになったのであります。我が大日本帝国は、往時の欧米列強から独立を守るという維新の精神を大東亜に広め、植民地を解放し、侵略によらず植民地支配によらない自由貿易体制の構築することが、大日本帝国の活路であり、大国を維持するための必須条件なのであります。」


これに続き広田外相は日米交渉の全権大使として渡米することに触れた。

「現在の交渉内容は、明らかに出来ませんが、米国にも弱点はあり、交渉の妥結も決して不可能ではないと考える次第であります」と広田外相は、述べた。

 

しかし議会は、ゾルゲ事件の報道と政府発表の影響により、対米強硬論が影を潜め、対ソ強硬論が競い会うような空気に包まれていたのだ。11月14日の衆議院本会議には、「対支那講和、ソ連国交断絶」に関する決議案が上程され、多数決で可決された。   


賛成討論に立った島田俊雄の演説は、私の目論み通りの内容だった。

「支那事変の原因は、ソ連およびコミンテルンに指導された中国共産党の謀略と近衛内閣のブレーンに巣食っていたゾルゲ諜報団の暗躍にほかなりません。(「近衛反省しろ」と叫ぶ者あり)盧溝橋事件勃発時に近衛内閣が不拡大方針を打ち出したにも関わらず中国国民軍に紛れた共産党軍が皇軍に銃口を向けたのは明確であります。政府は、近衛内閣の『国民政府を対手とせず』の声明を撤回し、直ちに支那に講和を提案することを求めます。一方、共産主義者を日本、支那、満州から一掃し、ソ連と直ちに国交を断絶することを求めます。」(「撃てソ連」と叫ぶ者あり拍手)

 

この決議は、政府を後押してくれたものなので、私の政府答弁は、楽だった。

「支那との戦争は、すでに4年を経過しておりますが、当初、政府は不拡大の方針を打ち出しておりました。それに対し、現地も停戦協議を開始していたところ中国共産党が日本軍に攻撃を仕掛け、それに応戦する形で戦線が拡大してきたものであります。中国共産党の謀略と知らない蒋介石軍事委員長は、日本との徹底抗戦を主張したものであります。

 従いまして、政府としては、旧来の行き掛かりを排し、近衛内閣の『国民政府を対手とせず』の声明を撤回するものであります。そして、南京政府との交渉を経て、重慶政権との和平交渉を図って参ります。

 また、日蘇中立条約につきましては、条約は国と国との約束でありますので、破棄することについては、考えておりません。蘇聯への対応につきましては、隣国であり、慎重に対処して参ります。」


この議会では、臨時軍事費38億円、一般会計5億1593万円などの補正予算案のほか、昭和17年4月に延期された衆議院総選挙に合わせ、朝鮮・台湾地域における普通選挙を実施するための選挙法改正法案(のちに独立の可否の住民投票のもとになる選挙人名簿作成のため)、朝鮮・台湾地域における徴兵を実施するための兵役法改正法案(すでに朝鮮で昭和12年に志願制が導入されていた。)、酒税等増徴法案、産業設備営団法案(民間では困難な産業設備の建設・維持、遊休設備の買収活用など)、防空法改正法案(防空業務に「偽装、防火、防弾、応急復旧」などを加え、防空のための建築制限・除去などを認める)など7法案が可決された。


しかし、ソ連・コミンテルンの謀略に騙された政府・軍部批判の動きが姿を現し、衆議院の議員相互の間では、近衛が進めた体制翼賛会とは別に新たな会派が形成され、その間の対立も表面化した。私は、政府に対する批判勢力があった方が違う方向に舵を切る場合、便利であると考え、そのままにしておいた。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 もうじき就寝の時間ですから今日はここまでとしましょう。

 続きはまた、明日、お話します。おやすみなさい。



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