第26夜 財務省上級顧問ハリー・ホワイト
「今晩は、東條閣下、ご機嫌はいかがでしょうか。」
「頗る良い。」
「昨日のバラライカというレストランは、神田神保町にも同じ名前のレストランがありますが。」
「それをヒントにしたのだ。」
「やはりね。それではお話をお聞かせ下さい。」
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1941年6月2日、ソ連のスパイ・アフメロフは、財務省上級顧問ハリー・ホワイトと友人関係になったところで、本国ソ連から帰国命令が来た。アメロフは、帰国前にホワイトに会わねばならなくなった。
「もしもし、ホワイトさんですか。ビル・スノーです。今度、香港支店に転勤になりましたので、その前に一度お会いできませんか。」
「それは、せっかく知り合いになったのに残念です。お会いしましょう。」
アメロフは、これで用件を済ませるとほっとした。
場所は、何時ものバラライカ。
「せっかく知り合いになったのに香港に行くことになり、残念です。」
「香港にはどの位行かれるのですか?」
「さあ、何年になりますか。中国では戦火が拡大していますから。どうなりますか。」
「日本は、一体どうするつもりでしょう。中国は、広大です。日本は、国民政府を倒すことができると思っているのでしょうか?」
「そのことです。このまま戦火が拡大すると私どもの商売も難しい。私の希望ですが、日本に対する対策を考えました。是非、検討していただきたいのです。」
アメロフは、メモ書きをホワイトに手渡した。
ホワイトは快くそれを受け取り、読み始めた。アメロフはそれを興味深く観察していた。
「私は、今、米中貿易の問題で苦労しています。 アジアにおける日本の侵略に強い危機感を持っています。香港も危ない・・・」
ホワイトは、そう言うアメロフの言葉を途中で遮って、頷きながらメモを読み終えた。
彼が読み終わったメモをポケットに入れようとしたので、アメロフは、「すみません、ちょっと」と言ってメモを返してもらった。ホワイトはこの行動を「怪しい」と感じなかった。証拠を残さないことは諜報員としての鉄則である。
「了解しました。あなたと私の考えは奇妙なほど一致しています。その方向で努力しましょう。約束します。」
アフメロフのメモの最初の項目は、日本が遼東半島を除く大陸から自国の軍隊を引き揚げる問題について述べていた。二番目は、日本がそういう撤兵の決定をした場合は、アメリカは日本に対して経済的援助をする用意があること。その意味するところは、日本が原料その他の経済的条件で困窮していることに理解を示し、一方で、日本は日本でアメリカにその軍事力、軍事的生産物で埋め合わせをする。具体的には拡大化した日本の軍事生産の一部をアメリカに売却すること。
以上が受入れられない場合、アメリカは日本との国交を断絶する。
ホワイトは、早速、メモの項目に沿って、私案を作成し始めた。私案の下書きができると仲間に相談した。
「ラフィー、実は、日米戦争を回避するために日米協定案を考えたんだ。この覚書について君の意見を聞きたいんだ。」
ラフィーこと、ラフリン・カリーは、財務省特別補佐官のジェイコブ・ヴァイナーの「ブレイン」だったが、その後、FRB(連邦準備理事会)の総裁マリーナー・エクルズの私的な助手として採用された。 もう1人の「ブレイン」ホワイトとカリーは財務省とFRBで、緊密に連携していた。
カリーは、今年1月に、重慶で共産主義者の代表である周恩来と蒋介石軍事委員会委員長との会議のために中国へ派遣され、3月に帰国して、ルーズベルト大統領にレンド・リース・プログラムに中国を追加することを勧めた。
「ハリー、僕は、今、中国義勇空軍、フライング・タイガーの創設を準備しているんだ。つまり、日本を空爆するためにさ。日米戦争は、回避できるぎりぎりの瀬戸際にあると思うよ。君と意見が違ってもよければ、見させてもらうよ。」
「そうか空爆ね。中国から日本は近いからな。」
「君は、レーニンの帝国主義論をどう思う。」
「綿密な資料に基づいた分析には学ぶべき点があることは、確かだ。だからといって、帝国主義戦争が不可避だとは思ってない。独占資本主義間の対立は、金融政策、財政政策、自由貿易体制、それを発展させるためドルを世界の基軸通貨として、金=ドルの交換比率を一定とする固定相場制により、国家間戦争によらず平和的に解決できるさ。」
日本やドイツ・イタリアのような新興の独占資本主義国は、地球上の植民地が分割し尽されたので、国内の過剰な資本を輸出できず、また石油を初めとする資源の産出地が国内に少なく、経済恐慌ともなれば、ブロック経済化により工業製品の輸出もできないことになる。1932年、日本が満州事変を起し、満州国を成立させた事情には、そのブロック経済化が背景にあったと考えていた。
「君が考えているドルを世界の基軸通貨とする固定相場制、国際通貨金というのは、興味あるね。」
「なるほど。アメリカはもはや世界一の経済大国だからね。それでは、この覚書を預からせてくれ。それから、ラティモアにも見せてもいいかい。」
オーウェン・ラティモアは、中国学者で、特にモンゴルに詳しく、関係する学者の集団、太平洋問題調査会の会長でもあった。また、この時期、米国政府顧問をしていたのだ。
「ああ。頼むよ。」
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もうじき就寝の時間ですから今日はここまでとしましょう。
続きはまた、明日、お話します。おやすみなさい。




