第24夜 日本軍軍属、谷豊
「今晩は、東條閣下、ご機嫌はいかがでしょうか。」
「頗る良い。」
「閣下、ハリマオの時代は、日本人は、マレーや蘭印、仏印、南洋にたくさん渡航していましたが、なぜでしょうか?」
「そうだな。民法で長男が全てを相続する制度があって、農家や商人の2男・3男は、自分で農地を開拓するか、商店を開くしか自分を生かせなかったのだ。そうでなければ、一生結婚できず、農家や商家の厄介者として一生を送るしかなかったのだ。」
「それで、一旗揚げようとあんなに渡航者や開拓者が居たのですね。」
「満蒙開拓団などは、各県で開拓者を募集するとすぐに多くの応募があったのだ。」
「それではお話をお聞かせ下さい。」
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神本は、その後も、イスラム教のことをハリマオから聞いた。出獄後、2週間ほどたった11月10日。
「大東亜諸国経済連合という日本の政策がある。」
「そりゃあ、なんだ。」
「君は、マレーが自分の故郷だと言ったが、その故郷は、イギリスが支配し、華僑がそれを支える政治体制になっている。違うかい。」
「そうだ。すず鉱山は、華僑が支配し、ゴム園は、イギリス人に雇われたインド人が安い賃金で働いているよ。」
「マレー人は、それで生活に満足しているのかね。」
「満足している訳がない。仕方がないのさ。イギリスが移民を連れて来たからね。」
イギリス領マレーでは、イギリスの移民政策により、人口の3割を中国人、1割をインド人が占めており、中国人は苦力として安い労働力として酷使されるとともに、華僑は、その資金力により、優遇措置が採られていた。
「マレーも含めた東亜の民族が、欧米列強の支配から独立し、自分たちの国を造り、それらの国々が対等の立場で経済的に連携し、発展して行く。それが大東亜諸国経済連合なのだよ。」
「どうせ、日本軍が中国でやったことを印度支那でも繰り返すだけだろう。そんなことには、協力できない。」
「参ったな。そんな風に言われては。」
大多数の日本人は、自分たちは天皇という現人神の統べる国の臣民であり、中国人や朝鮮人を三等国と見下していた。まして、自分達の国を持たない印度支那の民族はそれ以下と考えていると言っていいだろう。そんな国民の軍隊がこの地域を占領した時に起きることは、満州で起きたことと同じ可能性があった。
「実際、日本軍が来たら君の言うとおりになってしまうかもしれないけど、今まで、大東亜共栄圏とは、世界を一つの家として、各国家が兄弟のように平和な世界を造ろうというものだ。」
「難しいことを言われても・・・。」
「言い方を変えよう。君は、ムスリムだ。」
「そうだ。」
「もし、マレーに今居住している人たちがイギリスから独立したと仮定する。一番人口が多いのは、マレー人でほとんどがムスリムだ。その次に、多いのが中国人で、仏教・儒教・道教の教徒が多いと思う。次に印度人で、ヒンズー教徒・ムスリム・仏教徒、最後にイギリス人でキリスト教徒だ。この人たちが一緒に暮らすとしたらどうするか。もし、人口の多いマレー人が一番大勢いるのだから、他の人種の人たちは、自分たちに合わせろと言ったらどうなる?」
「マレー人と他の民族の人たちの間で喧嘩が起きて、妹のように死人が出るかも知れない。」
「そうだ。マレーがもし独立しても厄介な問題が残る。少数民族は、対等・平等に取り扱われないと自分たちが軽視されていると思い、多数民族は、対等・平等では、自分たちが損をしていると不満に感じる筈だ。イギリスのように議会制民主主義で国家を運営するにしても選挙で選ばれる代議士は、マレー人が多くなる筈だ。マレー語、中文、ヒンズー語、英語どれを国語とし、教育するとしても問題になる。これをどう解決するか。」
「うーん。代議士の数は、マレー人の数を少なくし、それを他の民族に分配する。国は、どんな宗教を信じても良い。国語は、マレー語とし、他の言語も教育する・・・かな。」
「その問題が、大東亜でも起こる。中国や印度は人口・国土とも大国だ。一方、日本の国土は狭く人口もそれほど多くはないが黄色人種で唯一産業革命に成功し、今や列強国です。そして、マレー・タイなど小国が沢山あります。どうやったら、これらの国々が上手く付き合えると思いますか。」
「やはり、小国に配慮した方法で、対等・平等でなければならないでしょう。」
「そうです。兄弟が協力して共同して一つの家、大東亜諸国経済連合を造るのです。」
「それで、マレーシアにはどのような利益があるのか。」
「すず・ゴムを欲しい国に自由に輸出でき、儲けがあれば、税金をかけて国の整備に使える。国内に綿織物を輸入する場合には、世界の安い国から輸入すればいい。」
「うーん。あなたの話を聞いていると良いことづくめのようだな。」
「そうだ。イギリスに富を持って行かれることはない。」
「神本さん。あなたを信用する。日本軍に協力しよう。」
「そうか。やってくれるか。」
11月10日、ハリマオこと谷豊は、日本軍の軍属として協力することになった。そして、この後、マレー独立軍を率いて、イギリス軍を攪乱することになる。
11月17日、ハリマオの仲間550人は、神本利男に旅費と「F」のバッジをもらい、4人1組でバンコク港に時間差をもって到着した。そこには、F機関の中井栄一陸軍大尉が待機していた。港には、日本の貨物船いろは丸が係留されていた。いろは丸は、横浜の海運会社の所有だったのを陸軍が徴用したものだった。
「坂本船長、海南島につくまで、彼らを絶対に甲板に上げないように頼みます。」
「マレー人をどうするのか関知しませんが、我々は、バンコクから横浜までゴムを運ぶだけです。」
11月22日、ハリマオの仲間550人は、海南島の陸軍の基地でこれから軍事訓練に付くのだ。
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「もうじき見回りの時間ですから今日はここまでとしましょう。続きはまた、明日、お話しください。」




