第20夜 御前会議
「今晩は東條閣下。ご機嫌はいかがでしょうか。」
「頗る良い。」
「それは何よりです。総理大臣という職責は大変だったと思いますが、お身体はどうでしたか。」
「最初は、1人3役だったからな。体重が減ったよ。」
「そうですか、細い身体が余計細くなりましたか。それは、大変でしたね。では、お話をお聞かせください。」
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私は、大本営政府連絡会議を10月19日から再開し、帝国国策要領の再検討を行い、30日までに個別の問題の検討を終わった。
一番の問題は、支那問題だった。日支事変(日中戦争をこう呼んでいた。日中両国とも戦争と呼ばず、米国中立法に抵触しないで貿易できるため。)では、すでに18万人もの戦死者と268億円の戦費を費やしていた。この成果である支那の占領地からの撤兵、権益を放棄することに対し、陸軍参謀本部内の佐官級から猛反対があった。
そこで、私はゾルゲ事件の事前情報を洩らした。その上で、ソ連の術中に嵌まった事変拡大派は、左遷されるという風聞を流した。さらに、近衛とゾルゲに付き合いがあった田中新一を近衛師団長に左遷した。もちろんこれは八百長。すると参謀本部内に本当の敵はソ連であるという認識が広まったのだ。
参謀本部には、支那事変の解決を早急に図り、対米戦争を回避すべし。その上で、東亜に日支を中心とした世界に開かれた大東亜経済圏を構築しければならないとの認識を持つに至った。
11月2日に御前会議が開催され、新しい帝国国策要領が決定された。その内容は、もちろん百鬼会の意向を反映させるものとなりました。
昭和16年11月2日御前会議決定
帝国は現下の危局を打開して自存自衛を完了し、民族独立権に基づく大東亜諸国経済連合を建設する為、植民地独立闘争を支援し、英蘭との戦争を決意し、左記処置を採る。
1.米国の攻撃がない限り、フィリピンの占領及び対米戦は行わない。
2.対米交渉がまとまらない場合、対英蘭に対する武力発動の時期を昭和17年1月下旬と定め、各民族の独立運動に連動し、陸海軍は作戦準備を完整す。なお、宣戦布告は行わず、武力行使の通告を各国独立軍の戦闘開始と伴に行う。香港の占領は日華講和条約締結後までは行わない。仏蘭西、葡萄牙とは英蘭戦後、独立交渉が決裂した時にのみ開戦する。
3.対米交渉は別途、最終協定案に依り之を行う。
4.独伊との提携強化は、ドイツ軍の冬季作戦の推移を見た上で、判断す。
5.武力発動の直前泰国との間に軍事的緊密関係を樹立す。
日米交渉案 甲案(親書と伴に提案 外電で大使館に送る)
1 日本は、米国が参戦しても日独伊三国同盟を欧州戦争に適用しない。
2 南部仏印からの即時に撤兵を完了し、中国問題については和平の基本条件(善隣友好、無併合、無賠償、無差別待遇の原則による経済協力、日中締結後の中国からの速やかな日本軍の撤兵、但し、北支及び内蒙防共駐兵は、交渉課題とする。)を日本政府が闡明し、米大統領が蒋介石政権に日本と交渉するよう仲介する。なお、汪兆銘政権の存否ついては、上記日中の交渉に任せる。
3 満州国に関し、原則として、交渉項目としないことを求めるが、米国が、満州国円通貨とドル通貨の決済を承認する場合には、日本は、門戸開放(自由貿易)に同意する。
4 新通商条約において必要物資の相互供給を保障する。ただし自国の安全と自衛のためには制限が認められる。
日米交渉最終提案 乙案(公開する案 外電で送らないで広田外務大臣が公開する)
1.日本が、南部仏印から即時撤兵を実施すると同時に、中国に展開する全ての日中軍隊の3か月間の停戦について合意する。その後、3か月後、米国が原油禁輸を解除する。
2.米英蘭は、植民地も含め、通商上の無原則・平等の原則に基づく貿易することを日本と合意した時に、北部仏印から即時撤兵する。
3.日本政府が次の基礎条件を保証したときは、アメリカ大統領は蒋介石政権に和平を勧告する。
日中和平基礎条件
(一)善隣友好、(二)主権及び領土の尊重、(三)治安維持を目的とする内蒙古・北
支の一定地域に日本・米国軍各2万人を上限とし、3年を限度とし、駐兵する。期限の更新は、日中米の協議による。
(四)(三)の駐兵以外の軍隊は日中平和条約が成立後、直ちに撤兵する。ただし、満州国は除く。(五)中国におけるすべての治外法権の即時放棄、(六)日中平和条約が成立後、満州国を除く中国におけるすべての特別権益の放棄(七)汪兆銘政権と蒋介石政権との合流、汪兆銘政権の解消(八)非併合、(九)無賠償、(十)中国における通商上の機会均等を含む平等の原則の遵守、特に日貨を排撃する中国国内法の撤廃並びに排撃運動の自粛(十一)満州国を中国が承認し、満州国は、民族独立権に基づき政治を行う。関東軍は、軍事に専念する。具体的には、2年以内に普通選挙により選出された議会と政府を創設する。(十二)満州国における日本軍の駐兵は、(十一)を実施した後に決まる政府との条約によって決する。
3.米国が欧州戦争に対する態度は、もっぱら自国の福祉と安全とを防衛するという見地によってのみ決することを声明する場合には、日本国政府は、欧州戦争に三国同盟を適用しないことを声明する。
4.最恵国待遇を基礎とする通商条約再締結のための交渉の開始
5.北部仏印撤兵後、アメリカによる日本資産の凍結を解除し、日本によるアメリカ資産の凍結を解除する。
6.円ドル為替レート安定に関する協定締結と通貨基金の設立
7.太平洋平和維持のため、相互に他を脅威する海空力の配備をせず。
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もうじき就寝の時間ですから今日はここまでとしましょう。
続きはまた、明日、お話します。おやすみなさい。




