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黄泉がえりの東條英機  作者: 広田昭和
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第13夜 統帥権の輔弼

「今晩は、東条閣下、ご機嫌はいかがでしょうか。」


「頗る良い。」


「閣下、相撲はお好きですか。興味がないですか。実は3月場所でアメリカ人の力士が誕生したんです。ご存じないですか。高見山といってハワイのネイティブです。」


東條英機という男は、凡そ趣味を持たない面白みのない真面目、厳格な男だったようです。趣味とは言えないが父親の英教から習った能の謡いが唯一芸事と言えるものでした。


「では、黄泉がえりの話を聞いてくれ。」


「お願いします。」


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 天皇陛下への奏上に続き、私は、今後の東條内閣の運命を左右する2つのお願いを陛下に申し上げた。


「陛下、至急、帝国国策遂行要領・対米交渉案を再検討いたします。つきましては、お願いがございます。英蘭との戦争は、大東亜諸国連合VS西欧列強の植民地主義の思想戦の側面があります。政略と戦略の一体化が必要です。『アジア解放』を旗印にした軍隊がアジア人民を圧迫すれば、蒋介石の南京大虐殺宣伝のように英米に利用されます。軍国主義国家と決め付けられます。また、戦争になれば、まず、海軍が先制し、陸軍が内陸に攻め込むこととなります。この戦争は、陸海軍一体の作戦が必要となります。陛下の陸海軍協力を一層密にせよとの訓示もあります。そこで、恐れ多いことでございますが、東條英機総理大臣に限り、陸海軍の統帥権の輔弼をお許しください。決して杉山元参謀総長、永野修身軍令部総長の職務権限を変更するものではございません。」


杉山参謀総長が、直ぐに反論してきた。これも八百長芝居。

「陛下、わが憲法上、総理大臣は、国務行為の輔弼権があるのみで、統帥権は、権限外で憲法違反の疑いがございます。」


「恐れながら、憲法上では統帥権は、陛下にあるとしか規定されておりません。慣例的に統帥の輔弼は統帥部にあったので、それを軍令で規定したに過ぎません。英国軍は、支那兵とは違って最新兵器を持った組織化された軍隊です。支那事変では大本営政府連絡会議が設置されましたが、首相も陸相も海相も統帥部の作戦には容喙できず、戦線が拡大しました。先ほど嶋田海相は、比島を攻撃しなければ、米国からの宣戦布告の可能性は低いと奏上し、永野軍令部長は南方作戦を遂行する上では比島の米軍基地は脅威であると奏上した。では、政府が対米戦を行わないとした場合、海軍軍令部は、南方作戦を遂行する際に比島を攻撃するのか。」


 永野軍令部長は、黙ったまま答えない。

「もし陸軍の上陸作戦を遂行する場合、陸上からの野砲・高射砲の反撃が予想されるが、対抗策として、海軍は、駆逐艦・巡洋艦による艦砲射撃を実施できるか。あるいは、海軍と陸軍と軍事物資・特に石油の取り合いになった場合、誰が采配するのか、政府は、南方から海上輸送に駆逐艦等の護衛を付けるように要望した場合、受け容れられるのか。例えば、帷幕上奏により泰国など中立国への陸軍派遣を内閣に相談なく行われたりした場合、政府は責任が取れなくなる。支那事変は、政府が不拡大方針を示したにも関わらず、陸軍の現地部隊は、積極的に攻撃を続けました。政府が責任をとる以上、統帥部が勝手に作戦遂行されては、面白いはずはありません。なにも陸海軍の作戦の詳細に口出そうというものではありません。仮にそういった事態になった場合、私、東條が参謀総長を兼任し、永野海相が軍令部長を兼任する場合も考えられます。」


「東條総理、参謀総長を兼任するとは聞き捨てなりませんな。」

杉山参謀総長が打ち合わせどおり形だけ怒った。


「杉山参謀長、仮定の話です。私は陸海軍の調整役と政府と統帥部の調整役となると言っているのです。なんの権限もなければ、単にご意見番の重臣たちと一緒です。」


「東條総理、分かった。そうしなさい。許す。」


「有難うございます。二つ目のお願いでございますが、米国大統領と重慶の蒋介石軍事委員長に天皇陛下から親書をお願いしとうございます。」


 木戸内大臣が間髪入れず言った。

「東條総理。前例がございません。天皇陛下が外国の元首に和平の親書を送ることは。」


「木戸内府。天皇陛下は、外国の元首に親書を送る場合は、どのような場合か。」


「勿論、元首の即位や誕生日など儀礼的なものでございます。」


「ならば、親書を送る前例は多くある訳だ。和平の親書を送っていけない理由はあるのか。」


「我が国は、立憲君主制を取っていることから、いきなり君主が外交上の意見を含む親書を送ることに疑義があります。」


「ならば、閣議で親書の内容を決定し、総理大臣の副署があれば問題なかろう。」


「はい。それならば、文句のつけようがありません。」


「陛下、そういうことで、和平の親書をお願いいたします。」


「分かった。」


 天皇陛下の判断で、私は軍令により陸海軍の統帥権を輔弼することになった。軍令であるから陸軍大臣と海軍大臣の帷幕上奏により成立する。これで史実であったように陸軍が知らないうちに海軍がガダルカナル諸島に進出し、連合軍の反攻のきっかけになったようなことはなくなるだろうと思った。東條独裁と言われそうだ。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 もうじき見回りの時間ですから今日はここまでとしましょう。続きはまた、明日、お話しすます。

 黄泉がえりの東條英機は、統帥権を手に入れた訳ですから、ヒトラーと同じように強大な権力を手に入れた訳です。違うのは、ヒトラーは総統であり、カリスマがあったのですが、東條は、首相のままで凡そカリスマとは程遠い存在でした。軍人にならなければ、能吏といったところだと思います。

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