表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黄泉がえりの東條英機  作者: 広田昭和
12/81

第12夜 天皇陛下への奏上

今晩は、大分暖かい夜です。陽気が良くなって来ると何故かこの病院の患者さん達も気分が良いのか、変な行動をする人が増えて来ます。さて、東條閣下のご機嫌はどうかな。


「今晩は、東条閣下、ご機嫌はいかがでしょうか。」


「頗る良い。」


「それは、結構です。」


「では、黄泉がえりの話を聞いてくれ。」


「お願いします。」


 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 昭和16年10月20日、私は広田外相、杉山元陸軍参謀総長、嶋田海相、永野修身軍令部長を首相官邸に呼び、入念な打ち合わせをした後、一緒に天皇陛下に奏上するため参内した。


「陛下、本日は、米英国に関し重要なご報告とお願い事を二つ申し上げに参りました。まず、広田外相から御報告を奏上いたします。」


「過ぎる8月9日から12日に、英国首相と米国大統領の会談がカナダのニューファンドランド島は戦艦プリンスオブ・ウェールズ上で行われました。会談内容は、欧州大戦の戦後体制について共同宣言として発表されましたが、駐英大使館の武官の調査によりますとそのほかに日本との戦争の問題が議論され、チャーチル英首相は、日本がフィリピンはもちろん英・蘭領を攻撃すれば、米国は、極東での戦争に加わる見込みだとの言質を、ルーズベルト大統領から得た模様です。日本に先制攻撃をさせ欧州大戦に参戦するための口実を作る作戦です。」


「その報告は、まことか。」


 私が、思うに米国のフランクリン・デラノア・ルーズベルト(FDR)大統領の世界戦略は、ヨーロッパではドイツを屈服させ、アジアでは日本を屈服させ、疲弊した世界で唯一国土が戦火に侵されるリスクの少ない米国が覇権国家になることだ。戦後世界がそうなっている。誤算は、中国とソ連だ。

一方、英国は米国の援助物資だけでは独伊に勝利することはできない。チャーチル首相は、是が非でも米国に参戦させなければならなかった。もちろん戦後、英国の国力が低下することは明らかだが、両者の利害は完全に一致していた。


「はい、英国外務省内部の協力者からの情報です。」


「東條総理の考えを聞きたい。」

『先生』:(打ち合わせのとおり俺が答える。お前は聞いていろ。)


「今年の8月に首相官邸で開催された『第一回総力戦机上演習総合研究会』の対米戦の机上演習の結果は、『日本必敗』で御座いました。米国は、フィリピン・ハワイ占領ぐらいでは講和に応じるとは、思われません。米国本土は11、000kmの彼方です。海軍にその力があればですが。米国本土西海岸の一部でも攻撃・占領しなければ、米国を講和の席につかせることは、不可能とおもわれます。可能性としては、フィリピンを占領し、奪還に来た米軍を徹底的に叩き、派兵予想数35万人のうち20万人も殺せば講和に応じるかもしれません。まあ、それはいくら日本軍が優秀でも長期戦になれば無理でしょう。国力の差が出ます。」


「朕は、対米戦の開戦には賛成できない。だが、万が一開戦となった場合、米国を講和させる具体的な手立てはあるのか。」


「考え得るに、日露戦争の日本海海戦のように、日本本土を攻撃にくる米艦隊を邀撃し、全滅させるしか手がありません。しかしながら、アメリカの鉄鋼生産は、少なく見積もって日本の9倍です。欧州に戦力を配備しても米国は、日本を3度攻撃する能力があります。」


「それでは、講和させることは無理ではないか。どうするのか?」 


「米国とは、国力の差がある以上、こちらから開戦は致しません。」


「米国の要求を呑んで、汪兆銘南京政府を見殺し、仏印・中国から撤兵し、三国同盟を破棄するのか。」


「そっくり要求を呑むつもりはありません。米国は、民主主義国家です。ここに問題の解決の糸口があります。ルーズベルト大統領の再選公約は、欧州戦争に参戦しないことです。米国では、先の大戦で、11万人の戦死者を出し、国内には厭戦気分があります。昭和15年9月米議会では1年期限の徴兵法の延長法案はわずか1票差で成立しています。でありますから、フィリピンを攻撃しなければ、南方作戦に米国世論が大きく動くこともなく、米国が日本を攻撃する可能性は低いと考えます。」


「それで、南方作戦は、どうしても遂行するのか?」


「日本の弱点は、資源がないこと、特に、石油がないことです。米国の通商破棄、鉄、石油の輸出禁止が続けば、陸海軍は、無力化するばかりでなく、日本経済は、破綻します。仮に、米国との関係が友誼的なものに復しても、米国は、日本が自分の意に沿わないと感じれば、日本に匕首を突き付けて、脅すことはいつでもできます。」


「厳しいの。」


「私は、南方作戦は、楽観的に考えております。ドイツの攻勢にあって今の英国、蘭国にはアジアに構っている余裕はありません。米国以外に援軍がない以上、アジア英蘭だけを相手に日本が負ける訳がありません。そこで、この戦争目的は、その場しのぎの資源確保でなく、アジア諸国の西欧列強からの解放、独立にあります。最終的な目的は、国家間の主権尊重に基づく自由貿易圏、大東亜諸国経済連合をつくるということにあります。」

『先生』:(米国と戦うなんて正気じゃない。元々、資源がない日本は、世界を相手に戦争ができる国ではないことは、ちょっと経済を知っている人なら分かるはずだ。日露戦争の戦費調達の国債も償還できてないし。)


「東條総理。広田外相は、先ほど英・蘭領を攻撃すれば、米国は、極東での戦争に加わる見込みだとの言質を英国に与えたと言ったではないか。そちは、フィリピンを攻撃しなければ、米国が日本を攻撃する可能性が低いと言った。どちらが正しい。」


 広田外相が口を開いた。

「どちらも正しいのです。ルーズベルト大統領は、チャーチルに参戦を約束したとしても、議会の承認を得なければ、日本に宣戦布告はできません。しかし、大統領に軍事行動の指揮権はあるのですが、まあ、日本からの攻撃がない限り大規模な戦争はできないでしょう。できることと言えば、シンガポールに援助物資・義勇軍を送ることぐらいでしょう。」


「そうか。そうであって欲しいの。」


広田外相は、言葉をつないだ。

「何度も言うようですが、日本は、無資源国です。世界から孤立しては成り立たたない国です。今後、アジア諸国、米国からも原材料を輸入し、世界中に工業製品を売る経済体制を構築する必要があります。英蘭が植民地の独立を認めれば、マレー・蘭領インドからの英蘭への輸出もわが国への輸出も平等に行う。行く行くは、外交も全方向善隣外交に転換し、相互に繁栄を享受する。これが帝国の基本的な国策となります。」


「海軍の意見はどうか。」


「恐れながら、日米の工業力の比較、戦力差を考えれば、一時的な攻勢ができたとしても米国相手に最終的な勝利は望めません。しかし、南方作戦を遂行する以上、比島の米軍は大いなる脅威です。比島の占領を回避していては、南方作戦の成算は持てません。比島の米軍は、いつでも英蘭領と日本本土との海上交通路を襲うことができるからです。

我が国の石油備蓄量は、戦となれば1年半です。したがって、日米開戦となれば、奇襲で米艦隊を一気に叩きつぶし、初戦の勝利で優位を保つ作戦が有力です。もし、フィリピンの米側からの開戦を待つというのであれば、対応策は今後、研究いたします。」


『先生』:(打ち合わせとは言え、永野にすれば、はっきり戦えないとは言えないだろうね。永野は、首相官邸で広田外相から外務省の報告を聞かされたばかりだしね。)


「嶋田海相重ねて聞く。フィリピンを除く南方進出、特にシンガポールを攻略しても米国の参戦はないか。」


嶋田海相は、米国留学・駐在経験によりワシントン会議全権随員となり、海軍兵学校にダルトン式教育を採り入れたほどの米国通だ。


「東條総理の仰るように米国は、民主主義国家です。ルーズベルト大統領は、欧州大戦不参加を公約に大統領に当選しています。当然、民主党支持者の多くがこの公約は守られるものと考えています。だから、ヨーロッパに戦争が起きると直接参戦はできないので、レンドリース法を成立させ、イギリス・中国に武器・軍需物資の輸出をしています。ですが、この行為は、相手のドイツにすれば、中立国の義務を破る行為となり、攻撃の理由となります。

そこで、我が国が民族独立権に基づきアジア諸国独立支援を旗印に、作戦を遂行し、そして、フィリピンの米軍基地、太平洋上の米国艦船を攻撃しなければ、米国内の厭戦気分からしても米国からの宣戦布告の可能性は低いと考えます。」


「アジア諸国独立支援を旗印にするというが、中国、満州、朝鮮はどうするのか。」


『先生』:(おー、さすがでございます。陛下。痛いところを突かれるな。)

「中国とは、無併合、無賠償で講和します。満州の関東軍は、軍事に専念し、政治は、総選挙の後、満州国の国民に任せます。朝鮮は、陸海軍部、国内世論の状況を見て、住民投票により、独立の可否を決定するのが、望ましいと考えます。」


「それは、大胆な国策の変更であるな。」


「はい。そのため慎重に準備をしなければなりません。講和条約に、全面的な門戸開放策、日本製品に対するボイコット禁止を盛り込む代わりに中国に対する治外法権、居留民保護の駐兵を除き、租界地などの権益は全て放棄します。そして、列強諸国に対しても同様の処置を求め、聞き入れない場合は、租界地、香港、マカオなどは、我が国が攻めます。」


「東條総理、なぜ、そこまで考えを変えた。果たして国民が受入れられるかな。」


「米国が意図的にわが国を世界戦争に巻き込もうとしているからです。そして、今度の世界戦争は、最終戦争です。今度の戦争は、飛行機と大量破壊兵器により戦争の模様が根本的に変えられるだけではなく、恐らく核分裂を利用した最終兵器が作られます。敵方に使用したら壊滅的な損害を与える核兵器です。私も物理学者に開発を急ぐよう命じました。陛下、現在、我が国は、4年間で支那に100万人を派兵し、18万人の戦死者をだしております。既に、戦費は、268億円に達します。」


「そんなになるのか。うん、そうであろうな。」


「昨年の一般歳出予算が61億円ですから実に4年分以上に当たります。中国との戦争でそれだけの国富が消えたのです。しかも、未だに戦争は、終わりを見ることができません。英米との戦争は更に厳しい世界最終戦争です。」


「先程から世界最終戦争と何度も言っているが、それはその方が、嫌いな石原莞爾退役中将の主張ではないか。」


「陛下御存じでしたか。今度の戦争は、飛行機や決勝兵器により、決勝戦になるという論文内容です。実際、ドイツの電撃戦は、当初、そのようになりました。」


「瞬く間に、欧州を攻略し、今やソ連を攻撃している。」


「しかし、多額の戦費つまり国富と当方もない人命の喪失は、負けた方ばかりでなく勝った方にも与えるはずです。支那との戦争は、まだ、旧来の戦争です。」


「仮に、米英に日本本土が攻撃されることになれば、民間人も犠牲になります。戦争も5分5分ならギャンブルでしょうが、勝算1分でも敢えて開戦なら逆上です。武士なら切腹で済みますが、国民を道連れには出来ません。」


「そうだ。国民あっての国家であり、天皇家である。」


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

もうじき見回りの時間ですから今日はここまでとしましょう。続きはまた、明日、お話しすます。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ