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反撃会議

~あらすじ~

明かされた“原初”の目的。“鉄処女の魔獣”を起爆剤とした“ホール”の暴走。

意気消沈とする一同だが、戦うという覚悟は皆共有していた。揃い始める戦力、高まる士気。

最後の戦いが始まろうとしていた。

 ――――導火線に灯す火。


 その言葉で点と点が繋がった。“原初”の目的を理解したと、“大罪の魔王”全員が口を揃える。

 俺は流血した拳骨を抑え、その内容に耳を傾けた。


「“ホール”は爆(・)弾(・)、

 周囲の“濃密な魔力”が導(・)火(・)線(・)、

 そして“鉄処女の魔獣”が炎(・)。

 この三位一体で“ホール”の魔力を暴発させて、“全生物の魔獣化”という目的を果たす、って算段ね」


 淡々とアイーダが述べた事実を咀嚼し、その意味を正しく理解する。理解すればするほど沸き立つ怒りに震える膝を拳で強く叩き、ようやく沈めることができた。

 零も同じように膝を叩いて音を鳴らすが、俺とは違う理由からその動作をしたとすぐに察した。平手で叩いた音は快音を鳴らし、日が傾いた茜の地平へ心地よく響く。


「つまるところ、後は時間との勝負ってわけだ。

 先に導火線に火を付けられれば人類(俺達)の敗け。

 それを阻止することが人類(俺達)の勝利条件。


 単純だな」

「そうと決まれば『善は急げ』ですわね」

「でも、どうやって“ホール”に近付くか、が問題よね……」


 “ホール”の周辺は超濃密な魔力が漂っている。例え魔王とあれど不用意に近付けば、魔力に充てられ命を落としてしまう。最悪魔獣化する恐れがあり、今まで誰も“ホール”の最深部には到達できていない。

 ベロニカ姉妹が頭を抱えていると、遠慮ぎみにクロエが挙手をした。それを見逃さなかったのは二騎(にき)先生で、よく通る声で指名する。

 全員の視線を受けたクロエは背筋を伸ばしてはきはき答える。


「私なら近付ける……、かも……」

「それだ!」


 零が立ち上がってまでクロエの発言に歓声を上げる。しかし他の魔王たちや二騎先生は苦い顔をして、避難にも近い眼差しを向けた。


「クロエちゃん、言っていることの意味を理解しているの?」


 言葉をかけたアイーダは、特に悲痛そうな表情をしていた。

 クロエは後ろめたさからか、スッと視線を背けてしまう。


「まだ他の手はあるはずですわ」

「その通りだ。最初から危ない橋を渡る必要はない」


 アイーダに続いてオルガも二騎先生も、不安に満ちた声をかけた。

 余計に肩身が狭くなったクロエは身体ごと捻り、背中を向けてしまう。

 クロエの作戦に乗った零は、調子のよいいつもの声音ではなかった。


「おめーら、仲良しこよしもそこまでにしとけよ。

 現実問題、“ホール”に近付いて活動できるメンツはクロエを置いて他にはいねー。それにこれは『時間との勝負だ』つったろ。

 「他の手」だぁ?

 あるなら三十秒やるから挙げてみな!」


 苛立ちを露にした零の語調は香里のように冷たくも、喉に突き立てられはような脅迫じみた絶対性を孕んでいる。

 その圧力と情を捨てた正論に、誰も答えることはできなかった。

 皆がみな、閉口して固まっていると、意外にもブレアが手を上げた。


「僕もクロエの策しかないと考えている」


「「「 っ !? 」」」


 今の今まで沈黙を守ってきたブレアの発言に、誰もが息を飲んだ。

 賛同を得たはずの零でさて疑問に満ちた眼でブレアを見つめ、その腹の奥を探らんと思考を走らせているのが容易に分かった。

 そんな意外も意外な人物の、超予想外な発言はまだ続く。


「僕が考えた作戦の軸は間違いなくクロエだ。彼女を基軸に戦力を割り当てることが得策だと思うが?」


 この状況下でもブレアは冷静に語り、整った顔立ちのポーカーフェイスは一向に崩れない。恐らく「作った表情」ではなく、本人は至って真面目に振る舞っているだけなのだろう。

 接点の一切ない俺でも分かるほどに、“ブレア・レッドウッド”という男は真面目で誠実で、どうしようもないほど愚直なのだろう。

 そんなブレアの偽りも誇張もない本音に、オルガが喰ってかかる。


「『僕が考えた作戦』なんて言ってますけれど、そもそもどうして貴方が何食わぬ顔をしてこの場に居りますの? 貴方は“原初(敵)”側ではなくて?

 評議会の犬として尻尾を振り撒いた挙げ句、本日零様に喰ってかかったのは! 何処の! 誰なのかしら!?

 この「新見零の正(・)妻(・)」である“新(・)見(・)オ(・)ル(・)ガ(・)”の前で言ってご覧なさい!?

 さぁ!

 さぁ(迫真)!!」

「盛るな妄想女」


 オルガは美麗な銀髪を振り回し、紅玉のような深紅の血走った相貌でブレアを捲し立てる。思わぬ口擊を受けたブレアは戸惑い、仲裁するべく零がオルガを小突いた(拳骨フルスイング)。


「まだ貴女は嫁には出しません。お姉ちゃんが許しませんよ」


 続いて姉(アイーダ)が妹(オルガ)ホールド、もとい熱い熱い包容をする。

 アイーダの力強い両腕をほどいたオルガは、抗議の眼差しで零に詰め寄る。


「どうして零様がお止めになられますの?


 …………まさか、「嫁に取るのではなく婿に入られる」と!? つまり“レイ・ベロニカ”にお成りになられると!?」

「誰かこいつに通じる言語を教えてくれ。もしくは開発してくれ」


 暴走するオルガの奇行に、遂に零が匙を投げた。オルガは興奮気味に一歩、また一歩と零に詰め寄り頬を寄せる。零が雪原のように真っ白な頬を押し退けながらオルガを抑え、めんどくさそうな口調で切り出す。


「ブレア(こいつ)は俺(・)が(・)連(・)れ(・)て(・)来(・)た(・)」


「「「――――へっ?」」」


 そのとき、全員の素っ頓狂な声が重なる。

 聞き間違いでなければ、

 「犬猿の仲であった“怠惰の魔王(新見 零)”と“憤怒(ブレア・)の魔王(レッドウッド)”が手を組んだ」

 と言うことになる。


「僕から話そう」


 ブレアが一身に注目を受けながら、凛と背筋を伸ばして話を始める。


「オルガが言ったように、僕は確かに「評議会の犬」だった。何も考えなくていい。正義のための“一装置”であることで、考えることも責任も放棄したんだ」


 一切気負うことのないブレアの物言いに、俺たちは思わず聞き入ってしまう。オルガは一人厳しい眼差しを向けているが、ブレアは構わず話を続ける。


「僕は十年前、自分の弱さから“道”というものを踏み外した。先の見えない暗がりで、眼を閉じて歩くことをした大馬鹿者だ。


 だが、君がそんな僕の闇を照らす光だったんだよ。王太郎くん」


 不意に名前を呼ばれ、俺は勢いよく顔をあげた。視線がブレアの金眼とぶつかり、確固たる意思を感じとる。


「俺が……?」

「そうさ。君は最愛の人を僕と同じように、いいや、もっと悲惨な形で失ったと聞く。

 だけど君は「諦めない」と、そう言ったらしいじゃないか」


 ブレアはどこか羨ましそうに微笑み、遠い眼をして青紫の地平線を見つめる。


「『あぁ、そんな単純なことだったんだ』って、衝撃が走ったよ。

 そんな簡単なことに気付けないんだが、僕は本当に大馬鹿者だ」


 そこでブレアは照れを見せながら頭を掻いた。今まで張り詰めていた意地がほどけて、馴染みやすい紳士の表情で笑みを浮かべる。


「それを、大嫌いな零(やつ)に気が付かされたのも癪だ。僕は零の高慢で不遜で、何もかも見透かしているような態度が相変わらず好まない」


 零が小さく鼻で笑う。きっと侮蔑ではなく、零なりの照れ隠し。ブレアは見抜いているだろうが、互いが距離を掴めずに流れは進む。


「だから僕は間違った道を行く。無理矢理でも先に辿り着き、後悔のない答えを得れると信じて、諦めないことにした。

 だから僕に」


 ――――世界を救う一助を担わせてくれないか。


 ブレアが頭を下げる。稲穂のような金髪は、背後から射す茜の夕陽に照らされ燦然と輝く。それ以上に、ブレアの意志が籠った金の瞳の訴えが頭を、心を掴んで離れない。


 誰がこの頼みを是とするのか。

 答えあぐねていると、零が不承不承に口を開く。


「信頼するかは置いといて、“一装置”として迎え入れてやらんでもない。てめーは俺らの“兵器”として動け」


 何とも零らしい、皮肉と嫌味とアイロニーをミキサーした返答だった。聞く人が聞けば、不誠実な対応に憤慨しているだろう。しかしこの場の全員が真意を知り、野次を飛ばすことはなかった。


「それに、裏切るようからま(・)た(・)俺が下してやるからよ。安心しときな」

「まて! 僕は一度も敗けてはいない!」

「あー? さっきのは俺の完勝だったろ」

「あれは痛み分けだ。君が言ったんだろう」

「きーおーくーにーねぇなー!」

「本当に、君と言うやつは……!」


 ブレアが速効で長剣の柄を握る。鞘が粉砕しなくなってしまった分、抜刀術は使えないが、そんなことで引けを取る男でもない。

 またまたまたまた一触即発の喧嘩かと身を構えたが、割り込んだ声に全員が振り向き動きを止めた。

 声の先には魔導師の制服に身を包んだ、老健な男がいた。淀みのない白髪をオールバックにし、同じく真っ白の髭を口の回りに蓄えた男は、日本語で話を続ける。


「ちょっと待っていただけますかな?」


 外見から歳をとっているように見えるが、実のところ年寄でもなさそうだ。落ち着きのある声を溌剌と躊躇いなく発し、魔王に睨まれても臆することはない。

 一連の観察から分かるように、この男は魔王会議につき世界中から召集された魔導師の一人だ。先の“原初”の暴挙を見て混乱していた魔導師たちの内の一人として、何か思うところがあるのか。少なくともただ者ではない風格を放つ老健な男を、俺は知っている。

 その男の姿を見て返事をしたのは二騎先生だった。


「いかがなさいましたか、水木殿?」

「そう! あなたは水木(みずき) 勝利(かつとし)さんだ。どうしてここに?」


 忘れることはない。俺が入学し初めて零と会ったあの日、水木勝利(この男)は同席をした。確か支部長だったか責任者だったかで訪れた水木さんが、ここにいることは偶然ではないのだろう。


「お久しぶりです二騎殿。そして王太郎くんも、立派になったね」


 心の底から嬉しそうに笑う水木さんからは、さっきまで放っていた風格が消えた。この人柄と滲み出ていた圧こそが、一流魔導師たる由縁なのだと再認識する。

 零は相変わらず人物に興味がないようで、片眉を上げながら問い詰める。


「そんで、何の用だ?」

「はい。

 先程の皆様のお話、失礼かとは存じていましたが拝聴させていただいておりました」


 水木さんは魔導師として、最大の礼を尽くして頭を垂れる。膝を着いて、一言一句を丁寧に紡ぎ上げた。


「そしてこの場にいる世界評議会所属の魔導師、計二六〇名の総意でございます。


 私達を戦いの場にお連れしていただきたい」

「「「 っ ! 」」」


 と、なると、世界最高峰の魔導師たちが味方になると言うことだ。これ以上心強いことはない。

 零だけでなく、この場の全員が高揚していた。

 この申し入れを断る理由などなく、ブレアが膝を折って水木さんの手を取った。


「その申し入れ、こちらからも是非お願いしたい。

 十年前よりも力を付けた我々なら、次こそ世界の守護者として勝利の勝鬨を上げられるでしょう」

「ま、申し入れなくても力付くで従わせてたけどなー」


 ビシィッ。


 不遜な零にアイーダが手刀を入れた。脳天を突き刺す一撃は快音を上げる。


「ま、最悪はベロニカ姉に“支配”させて着いてこさせていたが、これはこれで結束できるから問題あるまい」


 パシッ。


 腕組みをして、心底真面目な顔でボケ倒す二騎先生にアイーダが平手を入れる。先生のボケが稀少なのだろう、ツッコミ方が分からずに、最終的には遠慮がちに肩を平手打ちした。


「何はともあれ、戦力は十分に揃ったわけだね!」


 意気込んだクロエはボケることなく、両手に気合いを入れて喜色漂わせて飛び跳ねる。

 日が暮れた世界樹の袂、これ以上ない勝利への気合いが高まる。


「あとは時間との勝負だ。作戦を決定後、明朝に決行する」


 二騎先生が、大佐としての顔を覗かせた。

 その様子に魔王の全員が気持ちを引き締め、俺たち学生も士気を高める。




 最後の戦いが始まる。

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