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ファーストインパクト

~あらすじ~

魔獣とReKindleの襲撃の中でも連携をとる王太郎たち。それぞれの思惑が交わるが、それでも王太郎たちは奔走する。

そんな最中、王太郎たちの前に危険人物が現れる。


会議室に残った孔明は議長と言葉をかわす。

裏で巡る思惑が動き出し、孔明が世界樹を経つ。

「どうして”ReKindleリキンドル“がここに……?」


 俺は確かに目にした”ReKindle“の紋章を思い出しながら首を捻る。

 他のメンバーも怪しくなった雲行きに口を閉ざし、言い様のない雰囲気に包まれていた。


「考えていても進展はしないな。二騎にき先生の指示の通りに動こう」


 重苦しい空気の中、すばるが先んじて陣頭指揮を執る。

 他のメンバーたちもさすがクラスを代表しているだけあって、次の行動への移行が迅速だった。

 しかしその中で、あらしは怪訝な顔をしていた。


「どうかしたか嵐。浮かない顔だが……?」

「少し引っ掛かることがありましてね……」

「引っ掛かること?」


 俺と嵐のやり取りに他のメンバーたちも耳を傾ける。


「さっきの敵だったり魔獣の侵入経路が全く分からないっす。あれだけの大群が警備をすり抜けることは不可能っすよ」

「……確かにそうだな」


 嵐の意見に一同が頷く。

 今考えても栓のないことかもしれないが、考えずにはいられない事柄であることも事実である。

 そこで嵐は声のトーンを低くして、何やら秘め事のように話を続ける。


「これは個人的な見解っすけど、この場にいないやつを疑ってるっす」

「それって、まさか……?」

「えぇ、そのまさかっす」


 嵐の言葉に息を飲む。

 動き出した状況が再び凍り付き、不穏な空気が流れる。

 この場にいない速川はやかわが敵を招き入れたとするなら、速川も”ReKindleリキンドル“の一員であるということだ。

 状況はさらに悪化する一方だ。疑心暗鬼は俺たちの信頼を脆くする。


「それ以上根拠のないことを言うな」


 この状況で昴は嵐を一刀両断した。


「確かに裏切り者がいないと侵入は出来ないが、その裏切り者がこの中にいるとは断言出来ないだろ。速川を疑うのは早計だ」

「た、確かに……。嵐の言い分も昴の言い分も筋が通っている」


 筋が通っているが故にどちらが正しいのか……。それでも状況を鑑みると、速川を疑わない方が動きやすい。

 それに昴は信用出来る。確かな経験がそうさせる。


「俺は昴を信じる」

「私も」


 俺と七海ななみが手を上げる。

 他のメンバーも皆まで言うことはなく昴の意見に乗った。


「そうっすね。俺が早とちりしてたっす。今は避難対応に急ぎましょう」


 嵐もすんなりと昴の意見を受け入れた。何のわだかまりもなく事態が進行していることは、数少ない心の支えだ


「そうと決まれば早速動くっす。俺は効率から考えて二手に別れることを提案するっす」

「えぇ、恐らくそれが無難でしょうね。別れるなら……」

はたさんと諸渕もろぶち姉妹は俺と行きましょう。そちらは手負いの浪岡なみおかさんがいるので大人数で行動して欲しいっす」

「え、えぇ……、そうね」


 人数を割り振った嵐は、やや戸惑いを見せる金村かねむらを尻目に畑と諸渕姉妹を率いた。

 俺たちが返事をする間もなかった。


「何だか名の通り”嵐“のような一幕だったね」

「俺も嵐があんなにアグレッシブなんて驚きだ」


 嵐たちの背中を見送った俺と七海は一頻りに感想を述べる。

 しかし浪岡のリアクションは少し違った。


「くそっ! 俺をお荷物扱いしやがって……、見とけよ俺の方が活躍してやる!」

「そこ張り合うとこ違う」


 呆れた七海がツッコミを入れた。が、浪岡は鼻息を荒くしてやる気を見せる。


「ほら! 私らも負けてらんない! 早く行くよ!」

「いや、競争じゃないからな」


 他にも鼻息を荒くするツインテールの女子と、それを嗜める坊主の生徒。確か10組の宇多田うただと8組の伴場ばんばだったか、面識はあまりない。

 すると、昴が声を絞って喋りかけてきた。


「王太郎、お前は残りのやつらを連れてわたりと合流しろ」

「昴はどうするんだよ?」

「俺は一つ確かめたいことがある」

「だったら俺も行く」

「お前は来るな……!」


 突然、昴が声を荒らげた。

 険しい面持ちの昴はすぐに冷静を取り戻す。


「いいからお前は渡と合流しろ。渡の魔術ならあの巣潜り野郎の相手も出来るはずだ」

「そうだな……。

 いいか昴、俺はお前に全幅の信頼を置いている。だからこそ無茶をするな、分かったな」


 俺はいつになく真剣に昴に語りかけ、そして拳を突き出した。

 昴はいつものように静かに微笑み、拳を突き出す。


 コツン──。


 骨と骨がぶつかる軽快な音とともに俺は走り出した。


「皆行こう!」

「うん!」


 七海を皮切りに皆が俺についてくる。

 昴は俺たちの背中を見届けるまで控え室に留まっていた。

 昴がどこで何をしたのかを知るのは、もう少し後のことだった。




 俺たちが通路を走る間も魔獣が唸る音が聞こえていた。

 耳にへばりついた唸り声だが、やはり何度聞いても耳障りな不協和音である。


「Uuuu!」

「Guruuaaa!」

「Gyaaa!」


 あちらこちらからの叫びを潜り抜け、俺たちは客席に出た。


「太郎!」

「ぬ……、この人の言うことを一切聞かない呼び方は……、恵梨香えりかか!?」


 客席の誘導を終わらせたところなのか、恵梨香と紗耶さやは額に汗を浮かべている。そして隣には颯介そうすけもいた。


篠崎しのざきくんには手伝ってもらったの。人が多くて損をすることもないし」


 俺の視線の先に気付いたのか、恵梨香が補足をした。


「それより私たちも早くここを離れよう。魔獣が寄って来るぞ」


 避難誘導が終わっているのならここに用はない。長居は危険度が増すだけだ。

 だが、恵梨香のリアクションは渋いものだった。


「もう……、遅いかも……。大きな魔力が近付いてきている」

「……え?」


 恵梨香の一言で全員が身構えた。

 どこからどんな魔獣が現れるのかと辺りを窺う。が、姿を現したのは一人の人間だった。


「やっと人間みーっけ!」


 ボサボサの髪を掻き上げ、三日月はように口を歪ませる。覗いた犬歯は鋭く尖り、男の眼は飛んでいた。


「あいつ……、ヤバい……」


 俺たちが感じたことを恵梨香が代弁した。

 男の肩には”R“と”K“で形作られた蝶が刻まれている。

 男の足下には滴る血液が溜まり、波紋を生み出している。






 静かな会議室には孔明こうめいとアイリスだけが残されていた。

 孔明は落ち着いた心で紅茶を啜り、アイリスは黙々とパンを口に運んでいる。

 れいとオルガは日本の魔導学園に向かい、ブレアは「不毛だ」と一蹴して去った。ならばとアイーダも会議室を去り、評議会との通信はとうに切断されている。

 カチャリと陶器のぶつかる音が際立つ。

 そんな静かな会議室で突然、途切れた通信が回復した。


『予定通り、かい?』

「そうですね、想定外があるとするならお嬢が零と動向したことでしょうか。わざわざ帰りにくいようにしたというのに」


 その通信は議長からだった。

 パンに必死に食らい付くアイリスはさておき、孔明は取り乱すことなく返答した。


『ならば失敗かな?』

「いいえ、第一陣は戻しましょう。本命は第二陣。そこで邪魔者を消します」

『出来るのかい?』

「えぇ、零を殺せる者を育てました。確率は五分五分でしょうが」

『君はどうするんだい?』

「もちろん出張りますとも。わたしの見込み通りの魔導師のお迎えをしないと」

『そうかい。健闘を祈るよ……』


 そこで議長からの通信は途切れた。

 アイリスはただの一言も挟まずにパンを食べきった。孔明の手を引いて次の食料を求める。

 だが孔明はアイリスに応えることなく、いつになく険しい顔をした。


「お任せを主よ。貴方の世界に似合う者のみを導く。それが”ReKindleリキンドル“の目的」


 孔明はアイリスを世界樹に残し、姿を消した。

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