Warning ~乱入~
~あらすじ~
第二回戦の決着がつき次の試合を待つ時間、控え室は相変わらず騒がしい喧騒に包まれていた。
三回戦の対戦カードら速川光輝v.s.金村梓。
姿が見えない速川を探す金村だったが、そこに息を切らせた嵐がやってきて。
魔王会議は噛み合わない魔王と議長の論争は平行線のままだった。
そこに黒服がやってきて零に言伝を伝える。
「くっっっそぉ! 今回は負けたが、次こそは勝つ! 覚えてろよ畑ぁ!」
「あ、あぁ……。別に啖呵切るのは構わないけどお前うるさいな……」
熱い二回戦を戦った二人は控え室に戻るや否や、立ち上がった浪岡が畑に喧嘩を吹っ掛けていた。
負けた浪岡に何と声をかけるか考えていたが、それすら馬鹿馬鹿しく思えてきた。ラフな気持ちでいいや。どうせ浪岡だし。
「負けたから少しはしおらしくなったかと思えば、相も変わらず元気でなによりだ」
「あぁん! 朝臣王太郎か! もちろんお前との決着も忘れてないからな! 覚えてろよ!」
「分かったから少しな黙れよ!」
「ガルル……」と犬のように唸る浪岡は放っておこう。”触らぬ神の何とやら“だ。
「ふふふ。賑やかでいいじゃないの」
すると、控え室の端から女子生徒の笑い声が上がった。
椅子に座り、しなやかな脚を組んだ女子は美しくはにかんでいる。
スレンダーなスタイルに黒のショートカット、蠱惑的な笑み……。
確かに会ったことのある生徒なのだが、なんて名前だったか……。
「金村梓だな。お前は次の試合じゃないか?」
「ええ。一回戦のあなたのような試合に出来るように善処するつもりよ」
昴と金村梓という名の女子は穏やかでない雰囲気で談笑する。怖ぇ……。
昴と金村の会話をハラハラドキドキしながら見守っていると、ふと自然な疑問が沸き上がった。
「? そういえば金村の対戦相手は誰なんだよ?」
「速川くんよ。”速川光輝“くん。確か5組のクラス長よ」
「5組じゃなくて4組だ」
すると、昴が金村の間違いをすぐに訂正した。
金村は昴の指摘を特に気にすることもなく、黒髪を耳にかけて冷静に振る舞う。
「あら失礼。でも、その4組の彼の姿が見当たらないのだけれども……?」
そこで金村は表情を崩した。困ったように唇を尖らせて手を上げる。
「あの無口野郎か。俺はあいつのこと好かねえな。何考えてるか分かんね」
「誰も浪岡の好き嫌いは聞いてねぇよ。もう黙れよ」
「何だと朝臣王太郎!」
騒ぎ立てる浪岡は無視するのが一番。俺はシカトを極め込んだ。
「そういえば黒澤くんも見当たらないわね」
「まぁ、試合に負けたわけだ。どこかしらでクールダウンでもしているんだろ」
隣で浪岡が騒いでいるというのに、この二人は何を冷静に語らっているんだ。
「黒澤 嵐か……。あいつも好かねえな。速川光輝とは別の意味で!」
「だから聞いてねぇよ!
……でも嵐は負けたくらいで凹むタマには見えないけどな」
何の気なしに俺がぼやくと、示し会わせたかのように話題の嵐が部屋に駆け込んできた。
心なしか焦り気味の嵐は肩で呼吸をしている。
長い前髪のせいで瞳は見えないが、明らかに慌てた様子だ。
「ど、どうしたんだよ?」
「……ま」
「”ま“?」
「魔獣っす。闘技場の外に魔獣がわんさか現れたっす」
「「「っ!!?」」」
嵐の言葉に控え室の全員が息を飲んだ。
「今”魔獣“と言ったか!? どうやって学園内に!?」
「分からないっすけど、どこもかしこも魔獣だらけっす。中にも外にも魔獣だらけっすよ!」
嵐の続けた言葉を聞いてフィールドを写すモニターに振り向いた。
そこには嵐の言う通りの光景が広がっていた。
フィールドを埋め尽くす魔獣は客席まで這い上がり、すでに数体が客席を襲っていた。
「っ! 王太郎くん、二騎先生から連絡きたよ!」
この緊急事態に、七海が無線を渡してきた。スピーカーをつけて耳を傾ける。
『朝臣か、緊急事態だ。至急客席の避難に回れ。魔獣は魔導隊員が対処する』
「分かりました。今控え室にいるので、他の代表も連れて向かいます」
『あぁ。なぜそのにいるのか言及は後回しだ。すぐに応援を要請する。しばらく耐えてくれ』
二騎先生はそれだけ言って返答を待たずに無線を切った。
「……ということだ。俺たちは客席の避難誘導に回るぞ」
その場の全員が了承し、出口へ向かおうと足を向けた。
が、一向の足はすぐに止まった。
黒い外套を纏った男が出口を塞いでいた。
仮面で素顔を隠している男は俺たちの顔を見回して首を横に振った。
「ここ 目標 いない 別 探す」
外套の男は単語を発するだけ発して踵を返した。
あからさまに怪しい者を逃がすはずもなく、浪岡が攻撃をしかけた。
「待てこらぁ!」
盾を構えて突進。外套の男に肉薄し、当たったかと思われたところで男は姿を消した。
突進をかわされた浪岡は勢い余って倒れ込む。
「どこに消えた!?」
尻もちを着いた浪岡は辺りを見回して吠えるが外套の男の姿はない。
緊張した静けさの中、男の行方を探るが男は足跡なくして消えた。
「……っ。下よ!」
警戒した空気の中で金村が声を荒らげた。
金村の警告とほぼ同時に地面から腕が生える。
「何だこれ!?」
腕は浪岡の脚を鷲掴みにした。
浪岡の抵抗は虚しく、腕は脚を放す気配もなく地面に沈みいく。
「その脚を離しなさーーーい!」
隣にいた七海が咄嗟に火焔弾を打ち出した。
浪岡の脚に当たるか当たらない、くらいのギリギリを通り抜けて着弾する。が、地面に潜った男にダメージは与えられない。
しかし七海は次々と火焔弾を連射し続ける。
潜った男には当たらなくとも、男が潜る”地面そのもの“に当てているのだ。炎がレンガ造りの地面を熱する。
そうすれば……。
「うぉっ! やっと離れた! 熱ぅ!」
男はその場に留まれなくなって浪岡の脚を離す可能性がある。
そして狙いは的中した。
慌てふためいた浪岡はその場を離れて辺りを警戒する。
その視線の先には外套の男が姿を現していた。
「ここ もういい。目標 探す」
「待て! ”目標“って何だ!?」
しかし外套の男は俺の呼び止めを聞き入れずに地面に潜っていった。
男の第二撃はなく一時は事なきを得た、ということになる。
だが俺は男の外套に記された紋章を見逃さなかった。
それは俺だけじゃなく、この場の全員が目にした。
反転したアルファベットの”R“とアルファベットの”K“の文字。その二つの文字が蝶の形を作っている。
俺の記憶にある恵梨香が走らせた文字と一致した。
「どうして”ReKindle“がここに……?」
浮かんだ謎と目の前の現象がどうにも一致しない。
──”原初“。
それは七人の”大罪の魔王“が取り逃がした唯一の魔獣。
原初は現在確認された中でも最も数の少ない人型の魔獣のNo.1でもある。”原初“は人型の魔獣の性質である魔術の使用の他に人語の理解も可能とする。
「人類の天敵」ともいえる原初は”世変の勝鬨“にて取り逃がして以来、一〇年間姿を現していない。
”大罪の魔王“にとって”原初“とはまさに積年の敵。
特にブレアにとっては特別な因縁のある相手でもある。
「俺は帰らせてもらう。議長とは話にもならん」
声を荒らげたブレアは椅子が倒れる勢いで立ち上がった。
「ちょっとブレア、もう少し座っておけないの?」
「時間の無駄だと言っている。魔王を集める価値もない不毛な時間だった」
ブレアはアイーダの制止を振り切って扉へ向かう。
その口調には怒りが滲み出ており、何一つ躊躇うことはない。
『困ったね……。これじゃあ魔王たちの協調性を高めるなんて出来ないな……』
スクリーンの向こうで議長は困ったような台詞を宣うが、声音は何一つ困惑などしていない。
”魔王会議“などという体裁はどこへやら。会議の体はみる影もなく混沌とし始めている。
その様子を見かねた孔明がおもむろに口を開く。
「議長、この際会議を休止したらいかがでしょう。後日改めて会議を開いた方が良いかと。……それにそろそろ」
「そろそろ何ですの?」
「……いえ、何でもありません」
孔明のぼやきにオルガが問いかけるが、孔明は話を煙に巻いた。
ガンッ!
会議室の扉が勢いよく開かれた。
開けたのはブレアではなく、黒服を着た世界評議会の職員だった。
酷く息を切らせた黒服は無理に姿勢を正して畏まる。
「ミ、ミスター新見へ、ミス二騎より緊急事態出動要請が出ています」
黒服は会議室全体に声が響き渡るほどの大声で叫んだ。
名を呼ばれた零は首を動かさずに耳を傾けた。
黒服は構わずに話を続ける。
「『校内に多数の魔獣が出現。そして所属不明の魔導師数名を確認。殲滅のために力を貸されたし』とのこと。
それと……」
黒服は手元の紙を読み上げる途中で言い淀んだ。
「んだよ。いーからさっさと言えよ」
黒服からの言伝を伝え聞いた零は椅子から少しだけ腰を浮かせていた。非常にめんどくさそうに遅い動きとダルそうな声には威圧感はない。
零に急かされた黒服は意を決したように唾を飲んで続きを読み上げる。
「『確認された魔導師は”ReKindle“の紋章を掲げている』とのこと。これが生き残りか模倣犯かは分かりかねますが、すでに数名の魔導隊員を殺害しているようです……」
零は伝言の途中から動きが変わった。
突然機敏になった動きで円卓の上席を睨み付けた。
「おい孔明、粋なことしてくれるじゃねーか。どういう腹積もりだ」
「おや、何のことやらさっぱりですね」
ギラギラと眼を光らせる零と笑顔で返す孔明。
これ以上孔明に詰め寄っても無駄と察した零は踵を返した。
「おいお前、『すぐに行く』と千里に返しとけ」
零は黒服に言伝を預けて会議室を後にする。
その零の背中を呼び止める声が一つ。
「わたくしも行きますわ」
オルガが強い眼差しで零を見詰めていた。




