Pride ~意地~
~あらすじ~
大会も第二回戦、その対戦カードは畑v.s.浪岡。
一回戦の余熱残る中、始まった二回戦は意外な展開になる。
魔王は議長に不信感を募らせる。
おもむろに口を開いた零と議長の舌戦の末、飛び出た”原初“とは……?
二回戦の出場者である浪岡と畑がフィールドに出揃った。試合前の独特の空気が漂う。
二回戦を待ちに待った客席からは大歓声が響いた。
「すでに客席は温まってるな……。何だか乗ってきたぞ!」
割れんばかりの歓声を全身に受けた浪岡は身体を奮わせた。そして目の前にいる畑に吠える。
一方の畑はフィールドに立つこと自体に慣れないようで、とうにも居心地が悪そうに赤縁眼鏡をかけ直す。
「俺はこんな目立つ立ち回りは苦手なんだけどな……。まぁ、愚痴を溢すにしては遅いんだけども……」
そして畑はポリポリと天パ頭を掻いた。
しかし浪岡は畑の話などには耳を貸さず、準備運動を済ませた。
「よっしゃ! バッチコイ!!」
『ではでは、気合いを入れて行きましょう!
第二回戦は六組の浪岡 成久対九組の畑 彰斗!
いざ開戦んん!』
「行くぞぉぉぉ!」
ゴングが鳴ると同時に浪岡は突撃を仕掛けた。
青白い盾に身を預け、盾ごと押し出した突撃をする。
浪岡の魔術は“防壁”。魔力を造り出した壁を盾にしたり、それを使ったタックルが可能だ。魔術の制限はほとんどなく、使用する魔力によって大きさや展開位置なども自在である。
「喰らえぇぇ!」
浪岡はノーガードの畑に向かって体重を乗せたタックルをぶつける。
畑は壁が肉薄してもピクリとも動かず、魔術を使う気配もない。
だが畑に攻撃が当たることはなかった。
「……って、おいぃぃぃ!」
突如として浪岡は垂直に飛び上がり、空中で何回転も回った。
観客の誰一人と起きている出来事を理解出来ずに浪岡の謎回転を見守る。
「うわぁぁぁ! 何だこれぇぇぇ!」
浪岡はじたばたして対抗するが、宙に浮いてしまえばなす術がない。
それを下から見上げる畑は特に驚く様子もない。
そう、これが畑の魔術なのだ。
その名を“念力”、“念”ずる“力”なのだ。だからこそノーモーションで浪岡を浮かせてみせた。
「それから、こうだ」
「おわぁぁぁ!」
空中で回る浪岡は、畑の号令で吹き飛んだ。
勢いよく外壁にぶつかった浪岡は、咳き込みながらも立ち上がる。
「くそっ……! 何が起こった……?」
頑丈な浪岡はすでに思考を次の一手に回している。しかし畑の魔術に強い警戒心の抱いた浪岡は攻めあぐねていた。
畑の魔術の射程範囲や重量制限など、詳細が分からないのに飛び込むのは悪手だ。
浪岡はない頭を最大限に回して策を練る。が、簡単に浮かべば苦労はしない。
「あーーー! もういいや! 何とかなるだろ!」
「おいおい。ヤケ起こしたぞ」
浪岡は考えることを放棄し、再び壁を使ったタックルを仕掛けた。
畑は浪岡の打った策に戸惑いながらも、浪岡が射程範囲に入ったと同時に“念力”を使用した。
浪岡は呆気なく宙に舞い、紙くずのように吹き飛ばされた。
「くっ! ……っそぉぉぉ!」
今度は地面に落ちた浪岡は苦悶の声を上げた。が、それと同時に受け身を取り流れる動きで立ち上り、飽きもせずに突進する。
しかし浪岡は返り討ちに合うのが落ちである。
それでも浪岡の攻撃の手は止まない。
浪岡のタフさと諦めない姿勢は称賛に値するが、畑との相性が悪すぎた。
どうしても攻撃手段が近接になってしまう浪岡は、畑の魔術に対してはカモである。
畑は動かずとも浪岡が射程範囲に入るため、その足元をすくって投げ飛ばすだけ。
額から汗を流す浪岡に対し、畑に開始地点からほとんど動いていない。
歓声が鳴り響いていたはずの客席からも覇気は消え去り、一方的な試合を見守るしかなかった。
「そろそろ諦めたらどうだ? 俺が言うのもおかしいが、こんな一方的な試合をするのもさすがに胸が痛む」
畑が暗に降参を促す。
膝に手を着いて、やっとの思いで立つ浪岡だが、降参を飲む気は全くない。
「降参だと? そんなことしたやクラスのやつらに会わせる顔がなくなるだろ」
「退き時だって大切だ。ここまで粘ったお前を責めるやつはいないだろう」
「分からないな……。俺は馬鹿だからよ、損得だとかで物事考えるくらいなら身体動かすんだわ」
浪岡は汗を拭いながらも、意地で笑ってみせた。
浪岡の心意気を受けた畑は、もう降参を促すことはなかった。
「……だったら立てなくなるまで戦おう。それでお前が納得して負けてくれることを祈るよ」
「そうこなくっちゃな!!」
そして浪岡は笑う脚に鞭を打ち、猪突猛進する。
畑は気を引き締めて構える。そして、今度の突進が今までと違うことに気が付いた。
(壁を展開して攻めてこない? 何か企んでいるのか?)
今までは壁を展開して突進してきた浪岡が、今度に限って無防備の突進だ。
畑は浪岡の狙いを探るが、答えが出るより早く浪岡が射程範囲に入った。
「喰らえ浪岡!」
畑は今まで通り、最初に浪岡を浮かせにかかった。
足をすくわれた浪岡は宙に浮いたが、空高く上がりはしない。
「何だ? 何かに ぶ つ か っ た ?」
畑は起こった出来事が分からず、攻撃の手が緩んだ。
地に落ちた浪岡はすぐに突進を再開して畑に接近する。
(だったら横に動かすのみ!)
戸惑いを隠し、思考を切り替えた畑は浪岡を思い切り横に吹き飛ばす。
しかし今度も浪岡の身体は何かにぶつかり念力が途切れる。
畑が戸惑う内にも浪岡は距離を縮める。
「そうか……、そういうことか……!」
そして畑は浪岡の使った小ネタを暴いた。
「壁を使って吹き飛ぶ身体を受け止めていたのか! 俺が“念力”を使うタイミングで壁を展開、解除をしていたんだな!」
「おう、もうバレたか! ……そうだよ。俺は馬鹿だから、頭じゃなく身体の反応で対応することにしたんだよ!」
「嘘だろ、考えもしなかった……。野性動物でもやりゃしないよそんなこと!」
感嘆の声を上げた畑は完全に焦っていた。
初めて見えた浪岡の勝機に客席は熱を帯び始める。
浪岡が畑を拳の範疇に捉えた。
強く握った拳に青白い魔力のメリケンサックを纏う。
「もらった!!」
浪岡が吠えた。
会場が歓声で揺れた。
ただ一人、畑は冷静だった。
畑彰斗はいつだって目立たない存在だった。
クラスの中心に畑はおらず、また畑も中心に入ろうなどとは考えなかった。
自分は遠巻きから中心を眺め、ケースバイケースで輪に入る存在だった。実際畑もそれで満足していた。
しかしヤマト魔導学園に入学して状況は一変した。
クラスの中で畑はいち早く魔術を習得した。そして選ばれたクラス長。
目立たなかった畑が大舞台を託された。
ならば、答えたいというわがままだって言っていいはずだ。
畑も浪岡同様、このまま負ける訳にはいかなかった。
突如として芽生えた意地が、畑を進化させた。
(浪岡の渾身のパンチ。近付かれ過ぎた。身体の反射だけじゃかわせない。……だったら)
「っ!!」
「浪岡、お前が自身の身体能力で勝負を仕掛けたなら、俺は魔術で勝負だ!」
畑は自分自身に“念力”を発動した。“念力“で自分を後ろに引っ張り、浪岡のパンチを顔面スレスレでかわした。
「そして決着だ!」
畑はノーガードの浪岡の腹部に掌底を打ち込んだ。
”念力“により浪岡は派手に吹き飛び、外壁に衝突して止まった。
浪岡はもう立ち上がれない。
『しょ、勝者……、畑彰斗ぉぉぉ!!!』
決着のアナウンスと同時に客席が沸き立った。先ほどまで一方的な試合に意気消沈していた客席とは打って変わり、喝采が溢れている。
畑は喝采に答え腰を折り、静かに退場した。
一方の浪岡は仰向けに倒れ、無言で空を拝んでいる。
「クラスのやつらにも、朝臣王太郎にも会わす顔がないな」
浪岡が退場するまで、客席からは喝采が鳴り止まなかった。
『君には思い当たる節があるのではないか?』
議長の口にした言葉は図星を突いていた。
ブレアは反駁することもなく押し黙る。
もちろん言い返す言葉はいくらでもあるのだが、零の前でそうすることはブレアのプライドが許さなかった。
ブレアが口を閉ざしたことにより、部屋には再び静寂が訪れた。
議長は自ずから喋り出すことはなく、魔王たちも口をつぐんで喋ろうとはしない。
部屋にはアイリスがパンを食む咀嚼音が木霊し始める。
しかし衣擦れの音が沈黙の和音を乱す。
ずっと眠りこけていた零が椅子に掛け直し、面倒くさそうに口を開く。
「てめーは『信頼と連携』が云々言ってたな」
『えぇ、今までにない危険な作戦だも予想されるからね。一〇年前のような戦いをして欲しい訳だよ』
「だったら、てめーが来いよ。いつまで顔も声も隠してんじゃねーぞ」
喧嘩腰の零は議長に噛み付くように言葉を吐き捨てる。
零の刺々しい物言いを議長は諌めることなく、落ち着いた口振りで返答する。
『私よりも、戦線に立つ君たちが信頼を構築することの方が』
「御託はいいつってんだろ。大本営に引き籠って終わり、なんて漁夫の利は俺が許さねー」
零は議長に一切の弁解も許さない。
他の魔王たちは口を出すことなく、論争の行方を見守る。
議長はすぐに弁解をすることはない。しばしの間黙り込んだ。
『君は本当に純情だね』
そして議長は慎重に口を開く。言葉のチョイスとは裏腹に声音には険しさがあった。
「あ? てめー俺と戦争したいのか?」
『まさか。
ただ君の棘のある言葉の裏には、とある疑惑があるのだろう? それは確信ではなく可能性程度の疑惑。君はそれを晴らすために博打を打っている、というところかな』
「……何が言いたい?」
議長と零の間に険悪な雰囲気が漂う。
見兼ねたアイーダが割って入った。
「零、止めておきなさい。そいつのきな臭ささは今に始まった話じゃないでしょ」
「だからこそ、この辺りで白黒付けるって話だよ。アイーダは口を挟むんじゃねー」
「……ほんとに頑固なんだから」
しかし零はアイーダの言葉に耳を貸す気はない。
アイーダは匙を投げた。
これで、二人を止める者はいなくなった。
「素顔を晒せないなら、それ相応の理由があるって受けとるがいいんだよな?」
零は噛み付くような語調のままスクリーンに写る議長に投げ掛けた。
『君が言う”それ相応の理由“とは、私が”原初“だということかい?』
「……」
議長の口から”原初“という言葉が飛び出ると、魔王たちは漏れなく全員が顔を歪めた。
零は答えを返さず、静謐な眼差しでスクリーンを睨み付ける。
『私だって知っているんだよ。
一〇年前のいわゆる”世変の勝鬨“で君たちが逃した唯一の魔獣。最初に観測された人型の魔獣、コード”原初“。
違ったかな?』
議長の声は勝ち誇ったように跳ねていた。
零があえて避けていたワードを躊躇なく口にした議長は、それ以上の追撃を許さない。
「……チッ!」
部屋に舌打ちの音が木霊する。




