表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/82

”acedia”の鼓動

~あらすじ~

校外学習で特に観光地もない「葉吹はすい市」にやってきた王太郎たち。

王太郎は観光中に、魔導隊員の元木もときに出会い、「復日真党ふくにちしんとう」なる政党と遭遇する。

騒がしくも穏やかな校外学習……かと思われたが、トラックが王太郎たち目掛けて暴走して!?

葉吹市で動き出す“acedia”とは!?

「危ない!!」


 通りがかりの通行人が叫んだ。

 声に釣られて咄嗟に首を動かすと、視線の先には暴走するトラックがあった。

 運選手は必死にハンドルを切りブレーキを踏みこむが、停まるどころか減速する気配はない。


「このままじゃ歩道に突っ込むぞ」

王太郎おうたろう下がれ、俺と宇佐美うさみで何とかする」


 トラックを睨み付ける昴は前に出て指揮を執る。


「宇佐美、お前は前輪をパンクさせろ。減速したところを俺が止める」

「オッケー、任せて!」


 紗耶は昴の指示に瞬時に反応し、能力”錬金”で作り出した鉄串を投擲とうてきする。

 真っ直ぐ飛んだ串はトラックの前輪に命中した、タイヤの空気があっという間に抜ける。

 前方に傾いたトラックはバンパーを道路に擦り合わせ、火花を散らしながら減速する。


「よし、来い!」


 減速するトラックを歩道ギリギリまで引き付けると、昴が氷の壁で受け止めた。

 轟音を鳴らし、壁に衝突したトラックは停止した。運転手はエアバッグに顔を埋めて気を失っている。


「なんとか止まったな」

「さすが昴だ。機転がよく利く」


 止まったトラックを眺めて一息を吐く。昴の背中を叩いて労をねぎらっていると、周囲から歓声が鳴り出した。


「おぉ……!」

「……凄い!」

「ブラボー!」


 いきなり拍手と歓声に包まれた。

 どうしていいのか分からずに戸惑っていると、観衆を掻き分けて魔導隊の元木もときさんが現れた。隣には、状況を飲み込み切れていない春山はるやまさんもいる。


「一体何事だい!? 大きな音が聞こえたが……、ってこれは!?」


 元木さんは氷の壁に受け止められたトラックを見るや否や、驚きの声を上げた。

 俺がさっき起こった出来事をかいつまんで説明する。

 話を聞き終えた元木さんは興奮気味に肩を掴んできた。


「凄いじゃないか! 僕からもお礼を言うよ。ありがとう!」

「いや、やったのは俺じゃないんですけど」


 肩を掴んだ手を放し、昴と紗耶を前へ出す。


「被害者もなく、最小限の被害で済んだのも君たちのおかげだよ。本当にありがとう」


 ひとしきり礼を述べた元木さんはトラックへ駆け寄り、検証を始めていた春山さんと合流する。気を失った運転手を外へ引きずり出す。

 ここは元木さんたちに任せていいだろう。と思って場を離れようと思ったとき、群衆の中にいた男に呼び止められた。


「君たちは魔導学園の生徒だよね。少し話いいかい?」


 俺たちを呼び止めた男は、周りに聞かれないように声を絞る。

 一見して「不健康」と印象を受けるほどの細身で顔色が悪い男。くたくたのカッターシャツを着崩し、黒縁眼鏡の男の雰囲気はきな臭い。


「えっと、あなたは?」


 恵梨香えりかが訝しげな視線で問いかける。


「僕かい。僕は明知あけち哲也てつや、仕事の都合で君たちの話を聞かせていただきたい」


 男は明知と名乗ったが、肝心の「仕事」の内容をはぐらかした。余計に不信感が増す。


「王太郎、どうしよう」


 颯介が小声で俺に尋ねてくる。だが、どうするかなんて俺の知ったこっちゃない。


「俺に聞くなよ。こういうのは恵梨香の方が得意だろう」


 俺も匙を投げて恵梨香を見守る。

 ところが、頼みの綱の恵梨香もしつこい誘いに手こずっている。

 状況が芳しくない中、元木さんがやってきた。


「朝臣くん、悪いけど聴取に付き合ってもらえるかな」


 これは明知に迷惑している俺たちへの救いの手なのか? 元木さんが気を利かせてくれたのだろう。


「分かりました。みんな行くぞ」


 好機に乗り、明知から離れる。ひとまず安心だ。

 後は助け船を出してくれた元木さんにお礼を言って……。


「校外学習中ごめんね。時間をとるけど協力お願いね」

「……え?」


 助け船じゃなくて、マジの聴取なんですか?

 後ろを振り向くと、五人が一斉に鋭い視線を向ける。

 さっきまでいたところに、明知の姿はなかった。






竜崎りゅうざき零次れいじ竜崎りゅうざき織嫁おりか復日真党ふくにちしんとうの政党事務所に招待されていた。

 魔導学園の生徒二人を目の前に興奮気味に弁を振るう小太りの男は、連れてきた二人に椅子を勧めた。


「……というわけで、私どもは”怠惰の魔王”である新見にいみれい様を日本の国家元首に迎えようと考えております」


 零次と織嫁が席に着いてもなお、男は汗ばみながら党の方針を語り続ける。

 しかし零次も織嫁も全く聞いていない。

 元々零次が党員の話を聞きたいと思ったのは、「新見零」についていい話・面白い話を聞けると思ったからだ。党としての方針を聞きに来た訳ではない。


「そんなクソつまんねー話はいいんだよ。おっさん面白くないな」


 机に脚を投げ出して零次は一刀両断する。

 小太りの男は零次の悪態に青筋を浮かべながらも、機嫌を損ねないように「面白い話」を考える。


「もーいいよ。おっさんは他のやつと変われ。党首とかいねーのかよ」

「そうですわ。零次様の言う通りとっとと変わりなさい」


 男は生意気な零次と織嫁に気を悪くしたが、やはりニコニコしている。


「申し訳ないですが、党首は今不在です。お忙しいようで」

「じゃー呼んでくれよ。どれくらいで来る?」

「分かりません。党首は”怠惰の魔王”様なので暇がないのです」


 男の言った言葉に、零次は眉を動かした。


「貴方もう一度言ってごらんなさい。わたくしがにじり殺して……」

「黙れオル……、織嫁。俺がいいと言うまで喋るな」


 怒りを露わにした織嫁を零次が諫める。零次の瞳には興味の火が灯っていた。


「その話、詳しく聞かせてもらおうか」


 机から脚を下して小太りの男を見据える。


「復日真党は”怠惰の魔王”の新見零によって、日本を世界評議会の圧政から脱する目的で三年前に設立されました。いつか復日真党が日本の第一党となり、新見零様を国家元首にして、世界評議会憲章改訂が最終目標です」

「ほほう……、新見零をね……」


 新見零その本人である零次は不適に笑った。本心では腹が捩れるほど笑いたい。

 隣に座る織嫁は固く口を結びながらも怒りで震えている。誰かが愛する零を名乗ることが不愉快この上ないのだ。

 そのとき、事務所の扉が開く音がした。


「あ……、新見さん」


 扉の方を見た男の口から言葉が漏れた。

 入ってきたのは復日真党の設立者であり党首であり、そして”大罪の魔王”である新見零。

 くたくたのカッターシャツにボサボサの髪の毛を掻きむしる新見零は、魔導学園の制服を着た竜崎零次を一瞥すると微笑んだ。


「やぁ、君は魔導学園の生徒だね。僕もついさっき、他の生徒と会ってきたよ」


 やつれた顔で微笑む零は零次に握手を求めた。

 椅子から立ち上がった零次も微笑み、ポケットに入れた手を出した。

 そして持ち上げた腕は、零の肩へ回る。


「おめーが何を企んでんのか知らねーが、せいぜい頑張れや。……偽者」


 零次は零の耳元で、誰にも聞こえないような小声で嘲った。

 一瞬、零は眼を見開き怒りの炎を灯したが、それはすぐに消える。もう一度微笑みを湛えて言った。


「君は面白いね」


 零の言葉を背中で受けた零次は事務所を後にした。織嫁は言いつけ通り黙っているが、その眼は零を鋭く睨んだ。

 零次と織嫁が去った事務所は静寂に包まれていた。

 そんな雰囲気の中、小太りの男は零の表情に違和を感じて恐る恐る口を開く。


「新見さん……、どうかしたか?」

「何でもない。君たちも今日はもういいよ。帰って結構」


 事務員に指示をした零は奥の自室へ向かう。

 事務員たちは戸惑ったが、二の句を続けない零に圧倒されて全員が事務所から去った。


「ふふふふふ……、本当に面白い。変革を目にしても、まだ僕を『偽者』と言えるかな」


 一人自室で笑う零は、部屋の隠し通路の扉を開けた。


 地下へ続くその道は、変革への光射す道。男は一歩一歩を踏みしめる。


「僕こそが”怠惰の魔王”になるんだ。評議会の無能共に裁きを、僕に喝采を……」


 男が手にしたのは、この三年間の集大成。

 男の”魔学”の結晶だった。

~キャラクター紹介~

オルガ・ベロニカ

160cm、51kg

絹のようにキメ細やかな肌に長いカールのかかった銀髪、ルビーのような紅色の瞳が目を引く美女。しかしその実態は、“大罪の魔王”の一人、“色欲の魔王”である。

「わたくしを乱してよいのは零様だけですわ」

と自称するほど零にゾッコン。その理由は過去に何かしらあったとか……。

能力“屈折”、何でも“屈折させる”能力。折り曲げるのは人でも光でも空間でも何でもござれ。その汎用性の高さもオルガの魔術センスの高さゆえになせる妙技。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ