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奴の名は“acedia”

~あらすじ~

葉吹市でトラック暴走事故を防いだ王太郎たちは、魔導隊員の車で集合場所へと向かっていた。しかしその最中、魔導隊員が運転する車を襲撃する謎の男が現れる。

その男は自らを“acedia(アケディア)”と名乗り、変革を唱える。

魔導隊員とアケディアの戦いを背に王太郎たちは自分たちが“今”できることに歯痒さを感じるが……。

「えーと、聴取はこれで終わりだね。お疲れさま」


 そう言って用紙を整えるのは、魔導隊員の元木(もとき)さん。隣の春山(はるやま)さんも背中を反らせて伸びをする。

 俺たちは校外学習先の商店街近くで暴走したトラックを止め、後処理として聴取を受けていたわけだが……。


「本当にごめんなさい。あなた方の校外学習の時間を取ってしまいましたね」

「いえ、私たちも貴重な経験ができたので……」


 春山さんは改めて腰を折る。恵梨香(えりか)は困ったように春山さんをとりなす。


 そう。春山さんの言う通り、聴取はかなりの時間を要した。開始は昼頃だったのに、今や午後の二時三十分。集合時間まで残り三十分しかない。


「もう時間がないのだろう。よかったら送っていくよ」


 よほど険しい目付きで時計を睨み付けていたのだろう。元木さんが申し出てきてくれた。


「それじゃあ、お願いします」

「せっかくだしね」


 俺が答えるより早く、昴(すばる)と七海(ななみ)ががめつく回答した。


 魔導隊員の二人に案内され、俺たちは八人乗りのワゴンに乗る。

 元木さんが運転背に乗り、春山さんが助手席に座った。

 俺たちもぞろぞろと乗り込み、ワゴンは出発する。


「目的地は葉吹(はすい)駅でいいよね?」

「はい。お願いします」


 大人しく後部座席に座って揺られ、十分ほど経っただろうか。途中までは好調に進んでいたワゴンの動きは止まっていた。


「……これは、渋滞かな? 珍しいね」


 ハンドルを握る元木さんは訝しげに前方の車の、その前を眺める。信号は赤、変わる気配はない。


「おかしいですね……、信号機トラブルでしょうか?」


 フロントガラスに顔を近付けて様子を窺う春山さんは何かを見つけたらしい。


「あれは……、何でしょう?」


 目を細めた春山さんは不審な眼差しで“何か”を見つめる。そして急に声を上げた。


「何か来ます! 皆さん、衝撃に備えてください!」


 俺は突然の指示に狼狽え反応に遅れたが、紗耶(さや)が後ろから俺を抑え付けた。


 次の瞬間には爆音と同時に、下から突き上げる衝撃を受ける。爆撃を受けたワゴンは宙に舞い上がった。


「うわぁぁぁ!」

「なによこれ!」


 颯介(そうすけ)と恵梨香の絶叫が引っくり返る車内に響く。


「昴! 何とかしてくれ!」

「馬鹿言うなよ王太郎(おうたろう)、エアバックもなしに衝撃を受けるつもりかよ!」

「どうすんだよ!」


 空中で回る車内はさらに喧しくなる。


「皆さん大丈夫です。落ち着いてください」


 声を荒らげる車内に春山さんの凛々しい声が響き渡る。

 気付いたとき、吹き飛ばされたワゴンは宙に浮いていた。


「一度下ろします。あなた方は車外へ」


 フワフワと浮かぶワゴンは車道に静かに着地する。

 訳の分からぬまま車外へ出ると、そこでは爆発に驚いた人々が逃げ惑っていた。

 そして車群の前方上空。ちょうど葉吹駅を足元にできる場所で、“何か”は浮いていた。


「何だあれ……?」


 俺が目にしたのは銀色だった。空高く浮かぶ銀色は人のシルエットをしている。遠目からはそれくらいしか分からないが、その銀色が異質なものであることは分かった。


「ここからは僕たちの仕事らしいね。朝臣(あそん)くんたちは避難している人たちを誘導して」

「わ、分かりました」


 真剣な声音に変わった元木さんは“何か”を視界に捉えたまま指示をする。

 俺たち六人は魔導隊員にその場を任せることにした。俺たちが逃げ惑う人たちの誘導に当たろうとしたとき、“何か”が動き出す。


 空中を滑空する“何か”は真っ直ぐに魔導隊員二人の元へ飛び込む。


「元木先輩、お願いします」

「了解、春山バックアップ頼むよ」


 元木さんが瞬時に組み立て式の警棒を取り出す。

 身の丈を越える特大警棒を構える元木さんが“何か”と向き合う。そして、自動車ほどの速さで突撃する“何か”を正面で受け止めた。

 元木さんと“何か”の間で激しく火花が散る。

 一向に譲らないつばぜり合いに、宙を舞うワゴンが割って入った。


「春山ナイス。ヤバかった」

「元木先輩無茶しないでください」


 肩で息をする元木さんに駆け寄る春山さん。正体不明な“何か”を二人は冷静に分析する。


 “何か”は銀色の装甲を身に纏った人。全身をメカメカしい装甲で固め、顔も銀色のフルフェイスの装甲で隠している。目元を不気味に青白く光らせる。

 先ほどの爆撃は腕に装着された大砲が放ったのだろう。腕の大砲以外にも、装甲の至るところを武装している。


「……しかしあれは何だろう」

「分かりません。しかし危険であることは確実、ここで倒す必要がありますね」

「だね。武装の度合いから見て、早急に倒した方がいいだろう」


 空中で静態する“何か”は沈黙したまま魔導隊員を見つめる。

 対した魔導隊員も身構え、春山さんが腕を大きく横に振った。その動きとリンクしてワゴンが飛び回る。


「くらえ!」


 ワゴンは勢いを増して“何か”に突撃する。

 “何か”はワゴンを片腕で受け止め、そのまま腕の大砲で爆撃する。

 爆煙の中で“何か”の青白い目が光った。それを目印にして元木さんが飛びかかる。

 特大警棒を“何か”の脳天に叩き込むが、“何か”は腕で受け止める。

 突撃するワゴンを受け止めたのだ。人力で警棒を叩き込んでも威力は知れて……。


「せいっ!」


 ドーーン!!


 元木さんが宙に浮く“何か”を叩き落とした。


「どんな馬鹿力だよ……」


 魔導隊員と“何か”の戦いを見ていて、ついつい本音が漏れる。

 魔導隊員の戦闘を目にして、逃げ惑う人たちの流れは穏やかになっていた。

 彼らの戦いが人々に安心感を与えたのだ。


 コンクリートに叩き落とされた“何か”は砂ぼこりの中で立ち上がる。その目の青白い光は不気味に光る。


「まだまだ!」


 懐から鎖を出した春山さんは鎖を蛇のように扱い、“何か”を捕縛した。

 鎖にぐるぐる巻きにされた“何か”は大人しく、

静かに首を上げる。


『さすが魔導隊員、と言ったところかな』


 空を仰ぐ“何か”は機械で加工された声でおもむろに喋り出す。

 “何か”の不穏な行動に、魔導隊員の二人は身構える。


「僕たちの車を撃ったのは君だね。何者だ?」


 警棒の切っ先を向けた元木さんが尋ねる。


『……僕の名前は“acedia(アケディア)”』

「“acedia(アケディア)”? ……ラテン語で“怠惰の罪”……、まさかあなたは自分が“怠惰の魔王”だとでも言いたいのですか?」


 警戒を強めた春山さんはアケディアを縛る鎖をさらに強める。


『その言い方には語弊がある。正しく言うなら『僕が“怠惰の魔王”になる』んだ。僕は確かに、今ここで英雄になる……』


 顔は見えないが、その声は愉悦に浸っていた。

 そしてアケディアは“怠惰の魔王”を「英雄」と言う。


『いいかい評議会の犬ども、君たちでは何もできない。横暴に力を奮う者の末端など知れている。君たちは僕の変革には不要だ』


 アケディアの口調は熱を帯びる。


『君たちが正義の味方のふりをしたって世界は平和かい? 違うだろう。君たち正義は無能なんだよ。もう用済みのごっこ遊びは止めたまえ。そして僕の変革に順応しろ』


 魔導隊員を煽る口調はさらに熱くなり、 元木さんの逆鱗に触れる。


「黙れテロリスト! 僕たちの誇りにかけて、お前の口を封じてやる!」

『来たまえ。変革のプロローグと行こうじゃないか』


 力ずくで鎖を引きちぎったアケディアは元木さんと衝突した。

 元木さんはパワフルに特大警棒を振り回し、アケディアは堅固な装甲で警棒を受け止める。


「どうする? 私たちも手を貸した方がいいんじゃないの!?」

「落ち着け米谷(よねや)、俺らは素人だ。今割り込んでも脚を引っ張る」

「でも昴くん、私たちだって十分戦えるよ!」


 紗耶と七海が昴に詰め寄る。

 昴は興奮した二人を宥めようとするが、二人は一向に耳を貸さない。


「落ち着け馬鹿共、冷静さを欠くな」


 すると、聞き慣れた叱責と同時に紗耶と七海の首根っこが捕まれた。そのまま後ろへ引かれた二人は拳骨を食らう。

 こんな荒行をする人は、思い当たるところでは一人しかいない……。


「二騎(にき)先生、どうしてここに?」

「こんな騒ぎが起きていてあたしが来ないと思ったのか」

「……納得できました」


 確かに二騎先生がこんな大騒動を見逃すはずがない。なんなら渦中にいそうな気がする……。


「状況は把握した。碧(みどり)によると交通ラインの全てがハッキングされて駄目になっている。車は使えん。宇佐美と向坂と米谷で駅構内の避難に送れた一般人の救出に向かえ。その他はこちらの避難を優先しろ」


 二騎先生は腕を組み、いつもの体勢で指揮を執る。

 戦闘が行われている場所近くは魔術が使えるメンツが送り込まれる。そのメンツの中の紗耶が口を開いた。


「私たちは戦闘に参加しなくていいんですか? 今大人数で攻めれば倒せるはずです」

「駄目だ。お前らはあくまでも学生、要請も出ていないのに学生を危険に晒す訳にはいかん」


 二騎先生はすっぱり言い切った。紗耶は返す言葉を失う。


「それに魔導隊員の戦いに割り込んで連携を乱さない自信があるのか?」

「……すいません、失言でした」


 紗耶はしおらしく項垂れる。


「それより竜崎(りゅうざき)はどこだ? こういうときに働いて貰わんと困る」


 二騎先生が口にした「竜崎」というのは、正真正銘本物の“怠惰の魔王”である新見(にいみ)零(れい)のことだ。その素性を隠すための偽名が“竜崎”である。


「零次(れいじ)は確か……、興味本意で復日真党(ふくにちしんとう)の事務所について行きました」

「お前、その場所は分かるか?」

「はい、ここから遠くはありません」


 俺の報告を聞いて少し考えた二騎先生は恵梨香に向き直る。


「朝臣と渡(わたり)で竜崎を連れてこい。篠崎(しのざき)とあたしは避難した一般人の安全を確保する」

「「「はい!」」」


 全員に役割を割り振った二騎先生の目が行動の開始を指示していた。


 俺は恵梨香と駅近くにある復日真党の事務所が入るビルへ向かう。

 紗耶と昴と七海は戦闘場所を避けるように遠回りして駅での救助作業に当たった。

 颯介と二騎先生の二人で、一般人を安全を確保できる場所まで誘導する。


 それぞれが、今できる役割をこなす。俺たちには今はそれしかできない……。

 魔導隊員とアケディアの戦闘も熱を増していた。


「くそっ! この野郎!」


 頭に血が上った元木さんは特大警棒をパワフルに振り回すが、アケディアの装甲は傷一つつかない。


「元木先輩、一度下がってください。敵の火器に近接戦は危険です」

「構うものか! こいつは僕たちの誇りを愚弄した。春山は援護をしろ」

「ですが……!」


 どんどん前に攻め込む元木さんは冷静さを失っていた。春山さんは苦い顔をしながらも後方から迎撃の瓦礫を飛ばす。

 対したアケディアは機械で加工された声で元木さんを嘲笑う。


『悔しいか? お前らの正義など欺瞞なのだよ。僕が正しい世界へ変えてやろう!』


 アケディアは元木さんの一瞬の隙を突いて蹴りを入れた。

 後ろへ飛んだ元木さんは受け身をとって体勢をすぐに持ち直す。


『君たちに見せてあげよう。僕が産み出した“科学”と、僕が紡ぐ“魔術”、その二つが奏でる至高の“魔学”を!』


 アケディアは腕に装着された大砲の砲口を元木さんに向ける。


「なめるなよテロリストが。魔導隊員に当たると思っているのか」

『ならば試してみるといい……』


 アケディアは構えた大砲をやたらめったら撃ち放つ。

 初弾の一発は元木さんへ直行するが、元木さんは警棒で凪ぎ払った。

 残り四弾はまるで狙いを定めていない。元木さんは散乱された砲弾の間を容易く掻い潜ってアケディアに接近した。

 ……そのとき、


「先輩、後ろ!」

「っ!?」


 180°軌道を変えた四弾が、背後から元木さんを襲う。

 対応に遅れた元木さんは爆炎に包まれた。


「元木先輩!!」

『君も他人の心配をしている場合じゃないだろう』


 笑いを噛み殺しているアケディアは、春山さんに向けて砲弾を続けざまに放つ。

 春山さんは瓦礫を操って壁を築く。

 しかし生きているような動きをした砲弾は、壁をかわして春山さんに直撃した。

 爆発と同時に炎が上がる。


「いやぁぁぁ!」


 戦いを見ていた人が悲鳴を上げた。

 伝播した恐怖は悲鳴へ変わる。


『はっはっは! 評議会の犬もこの程度、やはり僕の変革が必要じゃないか!』


 謎のテロリスト“アケディア”はほぼ無傷。

 魔導隊員“元木”と“春山”は重症で戦闘不能。


 穏やかで平和な葉吹市は、たった一人の狂気により恐怖のどん底の地獄に一変した。

~キャラクター紹介~をしようと思いましたが、ネタ切れです。

というわけで、今までのキャラクターの魔術を纏めました。(p.s. 次回は魔導隊員の二人です!)

朝臣 王太郎

 能力“ERROR”

宇佐美 紗耶

 能力“錬金”

向坂 昴

 能力“氷像”

米谷 七海

 能力“炎上”

篠崎 颯介

 能力なし

渡 恵梨香

 能力なし

新見 零

 能力“速度”

オルガ・ベロニカ

 能力“屈折”

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