ぶっ叩け!
~あらすじ~
復日真党へ竜崎を探しに行った王太郎たちは、人影のない事務所で竜崎を探していた。
その最中、思いもしなかったものを発見する。
一方、アケディアと戦闘をしている紗耶たちは押されていた。
紗耶たちを嘲笑うような態度のアケディアにストレスと疲労は溜まるだけ。
アケディアに渾身の一撃を当てられるのか!?
古びた雑居ビルの中、薄暗いエレベーターには俺と恵梨香は乗り込んだ。三階のボタンを押す。
カビ臭いエレベーターの中で息を飲む。すぐに三階に到着した。
「行くわよ太郎」
「太郎じゃねぇ王太郎だ。いい加減止めろチビ」
エレベーターから降りた俺と恵梨香は早速言い争いをする。
俺と恵梨香は二人で復日真党の事務所に入った。
「誰も……、いないな」
「そうね」
俺と恵梨香は少しの罪悪感を抱きながら閑散とした事務所を詮索する。だが、目当ての竜崎どころか事務所員一人もいない。
「やっぱりあんな騒動が近くで起こったから避難したんじゃないの? 来るのが少し遅かったかしら」
「そうかもしれんな……」
衝立の向こう側や給湯室を覗いても誰もいない。
「誰もいないようね。他を探しましょう」
恵梨香はさっさと引き上げようと急かしてくる。しかしどこか腑に落ちない。
「この奥の部屋は何だろうな……?」
事務所を詮索して部屋の奥に辿り着いた。木製の扉の上には『党首室』と書かれたプレートがある。
ドアノブを回し、押して扉を開く。鍵はかかっていなかった。
「ちょっと太郎! 何してるのよ、そこは見なくてもいいでしょ」
恵梨香は後ろから俺を引き留めるが少し遅かった。俺はすでに部屋に足を踏み入れていた。
「電気電気……」
手探りで扉から入ってすぐ左にある電源を入れる。恵梨香も続いて入室して扉を閉めた。
部屋の中には必要最低限のものしかない。応接用の机とソファー、党首のデスクとパソコン。
おかしなところは何もない。
「ほら、誰もいないでしょ。分かったら出るわよ」
「ちょっと待て、パソコンが点いている」
恵梨香の制止も及ばず、俺は党首のデスクの上にあるデスクトップの画面を覗いた。
画面にはよく分からない数式や言語の羅列。
……正直言って全く分からない。
「恵梨香、これ分かるか?」
「んーと……、これは英語じゃないわね? ドイツ語かな? 何かの論文のようね……。著者の名前は……、『テツヤ アケチ』。これって昼間の不審者じゃないの?」
「明知哲也か、何だか似てるな……」
「どうしてこの名前が? ……じゃなくて! もういいでしょ。行くわよ太郎」
恵梨香は俺を右手で強く掴んで部屋の外へ連れ出そうとする。
恵梨香は俺をずるずると引っ張り、扉近くのスイッチを左手で押した。
すると……、
――ガコン!
「えっ?」
明らかに不審な音がした。恵梨香が頓狂な声を上げる。
音がした方向を窺うと、党首机の下に大きな空洞が開いていた。
「何よこれ……」
「どうする恵梨香、他を探すか?」
「……あんたいい性格してるわね」
俺のしたり顔に睨み返す恵梨香。
「行くわよ太郎」
そして俺と恵梨香は狭い机の下へ、身を屈めて入っていく。
『ふふ、ふっはっは! 実に気味がいい!』
魔導隊員の二人を不意討ちにも近い形で打ち負かしたアケディアは高らかに笑い上げる。
一頻り笑い飛ばしたアケディアは、急に黙りこんだと思うとおもむろに両腕を広げた。
そして大砲を乱射する。
周囲の建物は無惨にも破壊される。
『どうした魔導隊員よ、お前らの誇りはその程度かな? ほら、僕を捕まえてご覧よ。できるものならな! はっはっは!』
火の海の中心でアケディアは暴挙に出た。無差別な攻撃は止まる気配を見せない。
「きゃーー!」
「逃げろ! アイツ、頭イッてやがる!」
人々の統率はなくなり、爆炎と崩れる瓦礫から逃げ惑う。
アケディアはその様子を見て楽しみ、そしめ砲撃を激しくする。
混乱の中、一つの大きな瓦礫が避難する市民の頭上へ迫った。瓦礫の影がその人を包み込む。
「きゃぁ! 助けてぇぇ!」
耳を突く悲鳴が木霊する。その場にいた誰もが目を逸らす。
誰もが救出を諦めたとき、彼女が力強く瓦礫を破壊した。
粉砕された瓦礫は辺りに飛び散る。
「早く逃げてください!」
両手で持った鉄槌を勇ましく振るった張本人、紗耶は腰が砕けた市民を背に庇った。
『……君はあのときの魔導学園の生徒か。君たちも僕の変革には不要だ。ここで死んでもらおう』
アケディアは青白い目を怪しく光らせ、背中の装備を展開する。
展開された八本のアームの先には銃口が構えられる。照準を合わせたマシンガンが発砲を開始しようとした瞬間、真っ赤な火炎がアケディアを襲った。
「変革、変革うるさいなぁ! あなたのやってることはただ人を傷付ける暴力よ!」
アケディアは盛る炎を振り払い火元を睨む。そこには凛と立ち、炎を操る七海がいた。
『暴力かどうかは世界が決めるのさ。評議会の圧政も僕の世界ではただの暴力さ。君たちには分からないだろうがね』
アケディアの銀の装甲には少しの焦げ跡が残る。しかし致命的な傷ではない。
アケディアはさらに背中の装甲を展開して、さらに大きな大砲を展開する。
アケディアは七海を視界に捉えると、大砲を乱れ撃ちした。
『まぁ、君たちには僕の変革のスパイスになってもらうだけさ』
放たれた砲弾はでたらめな軌道で宙を駆ける。
警戒した七海は身構えながら砲弾の行方を追う。
「あいつ、どこを狙って……!?」
そして七海は気付いた。砲弾はでたらめな軌道を描きながらも、確実に七海へ向かってきている。
「生きてるみたいな動き……何よこれ!?」
焦った七海は炎で迎撃を仕掛けるが、砲弾は器用に炎をよける。
いくら迎撃しても砲弾は炎の間をすり抜ける。
「ちょっ、ヤバいって!」
七海は慌てて防御に転じる、行動に出るのが遅かった。防御よりも早く砲弾が七海に迫る。
そして砲弾は派手に爆発した。橙の炎が燃え上がる。
盛んに燃える橙色の炎の向こうには、白い蒸気と無傷の七海がいた。
「米谷は血走りすぎなんだよ、冷静になれ」
「う、うぅ……。助かったよ昴くん……」
腰を抜かした七海に昴が手をかす。七海は昴の手を借りて立ち上がった。
『まだいたね、そういえば』
地に足着けたアケディアは、強く踏ん張ると背中から一発のミサイルを発射する。
「昴くん、壁!」
「衝撃に備えろ、防げばすぐに反撃だ」
昴は氷の壁でミサイルを正面から受け止めようと試みる。
しかしミサイルは壁と直角に曲がった。
「おい!? 何だよ今の動き! 兵器の動きじゃねぇぞ、おい!」
昴は大声で不満を叫んだ。
ミサイルは一向に構うわけもなく二人を狙う。
しかし今度の七海は冷静だった。策ありの顔で昴をつつく。
「昴くん、あれの周りを囲んで」
「一体何を……、そういうことか」
昴は七海の言いたいことを解してはにかんだ。
昴は駆けるミサイルの他の進路を塞ぐように氷のトンネルを造った。
「おらよ。米谷、後は任せたぞ」
「オッケー、任された」
七海は正面から最大火力の火炎を撃ち込む。
ミサイルは攻撃をかわそうと動くが、道の制限を受けているため自由に避けれない。
そしてミサイルはド派手に爆発した。
「きゃあああ!」
「うぉっ!」
昴と七海は爆風に吹き飛ばされた。地面に落ちる寸前で昴の能力“氷像”で造られた壁に受け止められる。
「あの曲り方は何だよ。あり得るのか?」
氷に体を打った昴は愚痴を溢してアケディアを睨み付ける。当のアケディアは爆発にも何ともない様子だ。
『学生諸君よ、これが僕が生み出した“魔学”だよ』
「“魔学”……? 何だよ、それ。聞いたことねぇぞ」
昴は土埃を払いながらアケディアを睨み付ける。その隣に立つ七海の表情も険しい。
『なに、君たちも目の当たりにしているだろう。この兵器の動き一つ一つが魔学なのだよ』
「今の追いかけてくるやつのこと?」
『そう。あれは既存の兵器の威力そのままで小型化する科学と、僕の“追跡”の能力を組み合わせたものだ。それこそが“魔学”の真髄』
自慢気に語るアケディアに、昴が大きな舌打ちをした。
「めんどくせぇこと極まりないな。……だがその程度のネタなら恐れるほどじゃねぇ」
「そうだよね。今でも十分防げてるし、油断しなければいいよね!」
昴と七海は気合いを入れ直す。アケディアは二人の反応を見て軽快に笑い飛ばす。
『この程度で魔学を知った気にならないでほしいな。魔学の最高傑作を学生風情に披露するわけないだろう!』
「だったら見せる前にやられるなよ」
「行くよ昴くん!」
昴は氷の刃を飛ばして先制攻撃を仕掛ける。七海はその後ろで追撃の構えを取った。
『遅い! 弱い! 単純すぎる! 君たちでは敵わないんだよ!』
嘲るようにアケディアは氷刃を凪ぎ払う。そして即座に大砲を放って反撃した。
「えいっ!」
七海が撃ち放たれた砲弾を迎撃する。一点狙いで迎撃してもかわされるのが分かっているので、広範囲の炎で返り討つ。
作戦が吉と出て、砲弾は炎に包まれ爆発した。
砲弾を逃さずに迎撃した七海はすぐに攻撃に転じる。
炎の槍がアケディアに突き立てられるが、そう簡単には当たらない。
『どうした? 当てないと痛くも痒くもないぞ? はははは!』
アケディアは地面を滑るように走り、笑いながら炎をかわす。
七海は意地になり攻撃するが、やはり当たらない。
「そこだ!」
アケディアが炎に気を取られた油断を突いて、昴が氷で攻撃した。だがアケディアは、昴の攻撃すら容易く避けた。
『残念だったね、遅いんだよぉ!』
二人で遊びながら避けるアケディアは高笑いを止めない。
「うぅ~、当たらない、腹立つ!」
「落ち着け米谷、粘り強く狙え」
昴と七海はアケディアを追いかけながら攻撃の手も緩めない。
『はっはっは! 当ててごらんよ、できるならだけど!』
「油断するのも今の内だからね……、そこだっ!」
七海が攻め手を変えた。一点狙いの炎から、アケディアを捕まえるような広い炎を放つ。
命中したか、と思われるがアケディアはスピードを上げて寸前でかわした。
『狙いが甘かったね、詰めが甘いよ』
後退するアケディアは余裕を崩さない。……その背中がビルにぶつかるまでは。
(今までの攻撃は、僕をここまで追い詰める布石か……!?)
アケディアは瞬間的に、自分が誘導されていたことに気付いた。だが気付くのが遅かった。
「本当の詰めはこっからだ!」
昴がアケディアの行く手を氷で妨害する。アケディアの四方は囲まれた。逃げ場は上へ飛ぶしかないが、あからさまな罠である。
「やっと捕まえたぞ、決めろ!」
昴は気を緩めずに激を飛ばす。
『だーかーらー、それすら甘いって言ってんの!』
アケディアは躊躇することなく判断を下した。膝を曲げ、足裏の噴射口から炎を吐き出して上へ脱出する。
『……ん!?』
しかしアケディアは昴と七海の追撃を警戒する余り、上への注意が散漫だった。
アケディアの頭上には剥がれたビルの外壁が迫っている。
『おぉ、いい連携だ。けど惜しいね……』
アケディアは頭上の瓦礫を見つめ呟く。
アケディアの能力は攻撃だけで有能なのではない。
だらんとぶら下がったアケディアの腕の大砲が火を吹いた。砲弾は通常ではあり得ないカーブを描いて上へ向かう。
そして瓦礫は衝突する前に破壊された。
『思い知ったか学生諸君。君たちの策も全てが無d……』
「チェストォォ!」
『……っ!?』
アケディアの頭の上で粉々になった瓦礫の合間から銀色の刃が顔を覗かせる。
落ちる瓦礫の影に隠れていた紗耶が本当の詰めを詰める。
『ぬぉぉ!!』
紗耶が全力で振り下ろした斧はアケディアの頭に直撃した。
攻撃がクリーンヒットしたアケディアは垂直に地面に叩き落とされた。砂埃が高く舞い上がる。
「ゲホッゲホッ! 砂が口の中に……!?」
「やった紗耶! 最高にスカッとするやつありがと!」
喜んだ七海は、ストレス発散を代行してくれた紗耶に抱き着いた。紗耶もしたり顔だ。
「これでやられてくれたならありがたいが……、そう簡単には行かないらしい……」
昴は腰を落として構えを取る。その眼差しはアケディアの落下地点をしっかり見据えている。
「まさか瓦礫と一緒に人が落ちてくるなんて……。よくも思い付いたものだね……、脱帽だよ」
未だ舞い上がる砂埃の中でアケディアは立ち上がる。頭部装甲は砕かれ、その声は機械で加工されていない肉声だった。
「気が変わったよ。僕の魔学の最高傑作、君たちで試してみたくなった……!」
アケディアは砕けた頭部装甲をひっぺがした。そして投げ捨てる。
「その顔……、お前は……」「
「あの人って確か……」
「うん。昴や紗耶の思ってること、多分正しい」
露になった素顔。黒縁眼鏡の奥の瞳は笑っている。そしてアケディアはボサボサの髪を掻いた。
「久しぶり……とでも言うべきかな? お昼ぶりか。どうも、僕がアケディアだ」
~キャラクター紹介~
元木順平
177cm、59kg
正義感が強く、魔導隊員という仕事に誇りを感じている。一見緩そうに見えるものの意外に感情に流されやすいタイプ。
ペアを組んでいる春山の二年先輩。
能力“衝撃”、物理攻撃をするときの威力を底上げする能力。常に持ち歩く組み立て式の特大警棒と組み合わせて戦う。
春山葉子
154cm、49kg
物事を冷静に考えるリアリスト。魔導隊員になったのも適性があったからである。
しかし元木とペアを組むうちに仕事にやりがいを感じていた。
能力“浮遊”、触れたものを浮かせることのできる能力。浮かせられる物体の重量制限はあるが、人でも何でも浮かせられることが可能。




