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いざ、学園のその外へ!

~あらすじ~

初めて”学校らしい”イベントを迎える王太郎たちは校外学習へ向かっていた。

着いた街は「葉吹市」。特に観光地もないこの街で王太郎たちはきな臭い陰謀に巻き込まれていく。

 ――校外学習。

 なんて学校らしい言葉だろうか!

 校外学習とは「どこへ行くか」「誰と回るか」「何をしようか」と、あれこれ想像を膨らませるものだ。

 特に1年次の校外学習は友人関係を築く絶好のチャンス。ここでクラスでの立ち位置、これからの振る舞い方などが決まる大切なイベント。


 しかし俺たち1年1組に、そんな胸弾む高揚はなかった。


『そういえば明日は校外学習だったな』


 そんなトンチンカンなことを言ったのは、事もあろうか担任の二騎(にき)先生。

 相変わらず担任としての仕事をおざなりにしていた二騎先生は、 前 日 に校外学習の存在を明らかにした。

 「あんなこと」や「こんなこと」を想像することもなく一大イベントは訪れた。

 走るバスの中、俺は窓の外の風景を眺める。

 見慣れた景色を流すと入学するときに見た学園の正門付近の風景。

 正門を抜けて公道を走っていると遠くに青い海が見える。


「校外学習楽しみだね。なんか『学校!』って感じ」

「ホントだよ! 私なんて、昨日楽しみで寝れなかったよ~」

「七海(ななみ)は私より早く、それもぐっすり寝てたじゃないの」

「あれ、そうだっけ」


 俺の隣に座る紗耶(さや)は、通路を挟んで七海と恵梨香(えりか)と元気に喋る。

 横の三人同様、バスの中は校外学習にテンションを上げる生徒の喧騒で満ちていた。


『お前ら喧しい。静かにしろ』


 車内放送で喧騒を沈める二騎先生はお怒りだ。

 その二騎先生はバスを運転していらっしゃる。なんでも大型バスの運転手が確保しきれなかったらしい。……それでも大型バスを運転できるとは、本当に何者だよ。

 二騎先生の一喝で静まる車内。しかし誰かがひそひそ話を始めると、それが伝播してまたうるさくなる。

 二騎先生のため息をマイクが拾った。スイッチ着いてますよー。


「皆さんお静かにしていただけますの!? 今零様が寝ていらっしゃいますのよ!!」


 喧しい車内を一喝したのはオルガだった。バスの一番後ろの座席に座すオルガの元には、やっぱり零がいた。……というよりは、零の隣にオルガが無理矢理座った。

 零ほ初めのうちはアイマスクをして座った姿勢のまま眠っていた。しかし零が爆睡に入った途端に、オルガが押し倒して膝枕をした。おかげでさっきから「あぁ、零様の寝顔ぉ」とかいう喘ぎ声が聞こえる。


「お前が一番うるさいんだよ。しかも勝手に膝枕してんじゃねーよ!」


 痺れを切らして叫んだオルガの顔面にアイアンクロー。眠っていた零が眼を覚ました。


「も、申し訳ありません零様! だからどうかこのままで!」


 何とか膝枕までこぎつけたオルガは、アイアンクローそのままで必死に零を制止する。しかしオルガの努力空しく、零は上体を起こして座り直した。


「まだ着かねーのかよ」


 零が開口一番不満を漏らすと車内の空気は凍り付いた。

 オルガはクラスに溶け込みつつあるのだが、零は全く馴染んでいない。

 零が“怠惰の魔王”だという話はすぐに広がり、その事実が生徒と零の間の溝を作った。

 零が気にするハズもなく、クラスメイトは零と距離を置くようにしている。


「それにしても、零が校外学習に着いてくるとはな。俺は面倒くさがって来ないと思ってたけどな」


 この車内の空気を払拭するために零に喋りかける。


「そりゃー、合法的に学外に行けるんだぜ。これを逃す手はないだろ」

「あぁ納得した」


 まさに“零らしい”理由だった。納得し過ぎて話が続かない。

 ヤバい、雰囲気がさらに気まずくなった……。


『そうだ。皆さんに伝えておかなければならないことがありました』


 どんよりした空気を、意図してなのか和やかな声が切り裂いた。

 副担任の香月(こうづき)先生がマイクを握っている。


『え~と、新見(にいみ)くんのことなんですけど、諸事情により校外学習中は“竜崎(りゅうざき) 零次(れいじ)”くんと読んでくださいね』


 香月先生は「諸事情」と言っているが、「諸事情」とやらは見え見えだ。

 そして零を偽名で呼ぶのなら、もちろんオルガも……。


「わたくしのことは、ぜひとも“竜崎 織嫁(おりか)”と読んでくださいな」

「おい待て、なんで竜崎なんだよ。お前どうみても竜崎じゃねーだろ」


 隣で零が眼を丸くした。これはさすがに予想外だったようだ。


「さぁ皆さん、わたくしを”竜崎 織嫁”とお呼びください! せーの!」


 オルガ……いや、織嫁はアイドルみたいにコール&レスポンスを促す。

 そんな都合よくレスポンスがある訳……、


「「「よろしくね、竜崎 織嫁!!」」」

「っておい!」


 女子全員が声を揃えて返した!?

 織嫁はいつの間にここまで打ち解けてんだよ。


 俺がクラスの女子と織嫁の結束の強さという新発見をしたとき、バスが停車した。


『着いたぞ馬鹿共。さっさと降りろ』


 二騎先生の指示に従ってバスを降りる。

 真っ直ぐな日射しを浴びて凝り固まった身体を伸ばす。座り疲れた身体はポキポキと軽快な音を立てた。

 ストレッチも兼ねて腰を回して周囲を眺める。

 どうやらここは駅前のバスプール。生徒を下ろした後は別の場所に駐車をするのだろう。


『葉吹駅』


「ハフキ駅……?」


 目に写った駅名を読み上げる。ここは俺に馴染みのない街だということが分かった。


「『ハスイ駅』だよ。学園から一番近い駅だね」

「おぉ、そうか。サンキュー颯介(そうすけ)」


 駅名を教えてくれた颯介に礼を言って屈伸する。やっと身体がほぐれてきた。

 すると、運転席から降りてきた二騎先生が集合をかけた。


「これからは各自自由時間だ。五時間後の三時にここで集合。面倒事は起こすなよ」


 二騎先生はタバコに火をつけて指示を出す。特に最後の一言は零次と織嫁を見て注意する。


「それと集合時間に遅れた者は自力で帰ってもらう。解散」


 二騎先生は携帯灰皿に吸殻を落としてバスの運転席に戻る。

 担任・副担任を乗せたバスを見送ると、生徒たちは散り散りになった。


「王太郎くん、一緒に回ろ~」


 いつものように紗耶・七海・恵梨香の女子グループと合流する。いつものメンツ六人がそろう。


「この辺には何があるんだ?」

「大したものはないわね」

「……何でここで校外学習なんだよ」


 校外学習って普通は歴史情緒溢れる街並みを見たりするものじゃないですかね? 全部自由時間で観光地がないとか、ただの休日の一幕じゃねぇか。

 しかし担任である二騎先生の性質を鑑みると納得できてしまう。


「あ、そういえば」


 すると突然、颯介が声を上げた。


「どうした? 隠れ観光地でもあったか?」

「少し歩いたところに商店街があるよ」

「……そうか」


 結局は休日だった。


「悩んでてもしかたないよ。とりあえずどっか行こう!」

「七海の言う通りよ。別にぶらぶら歩きまわるだけでもいいじゃない」


 先頭を行く七海と紗耶が進行方向へ舵を切った。特に抗う理由もないので、二人の後に続く。と、駅前を占拠して大声を上げる集団に出くわした。


『よって一国の意思を捻じ曲げる世界評議会の支配は一方的で横暴なものでありまず! しかし幸運なことに、日本には世界評議会での強力な発言権を持つ”怠惰の魔王”がいます! 皆さんご存じの”新見 零”様をこの国の元首として、今こそ国としての威厳を回復しようじゃありませんか!』


 マイクを使って演説をする男性の横には「復日真党(ふくにちしんとう)」と書かれた旗が立っている。声を大にする男性の他にも、同じ文字の書かれたタスキをした人たちがチラシを配っていた。


「何だあれ?」

「政党のようね。私たちには無縁の話よ。行きましょう」

「そうだな」


 触らぬ神に祟りなしとはこのことだろう。厄介な話には首を突っ込まずに素通りする。


「何だよ、えらく面白そーな話してるじゃねーか」


 ……が、そんなことは簡単にはできなかった。

 俺の肩に腕を回して話しかけてくるのは復日真党の話の中にいた”怠惰の魔王”本人。新見零だ。……と言っても今は偽名の「竜崎零次」だったか。


「止めろ零次! 面倒なことに関わろうとするな!」


 ギラギラと眼を光らせる零次を引き留めるが、零次は一向に気にせずにズカズカと進む。


「おいオッサン、その話もっと聞かせろよ」


 やっちまったよ……。零次は演説をしていた男性に話しかける。

 話しかけられた男性は零次の物言いに機嫌を損ねたように見える。しかし零次の恰好を見るや否や表情を一変させた。


「おぉ! その恰好は魔導学園の制服ではありませんか!」


 男性は零次の両腕を掴んで喜び、演説そっちのけで零次を迎え入れた。


「何だ、あの態度は? まるでV.I.P.だな」

「魔導学園の生徒は魔導の未来を担うわけだ。ああいう政党にしたら取り込みたい相手だろうよ」


 要は上手いこと傀儡(かいらい)にしたい訳か。まぁ零次に関してはそんなことはあり得ないだろうが……。


「君たちも魔導学園の生徒だろう? 話を聞いて行かないか?」


 すると他の党員らしき男たちが傍にいた俺たちに話しかけてきた。参ったな、全く興味がねぇや。


「私たちは結構です。行きましょう」


 すると恵梨香が毅然とした態度で断った。恵梨香はそのまま男たちの間を抜けたので、その勢いに乗って俺も突破した。紗耶たちも後に続く。

 しかし零次はマイクを持った男について行く。そして当たり前のように織嫁も後を行く。

 しかし零次は制服なのだが、織嫁は不釣り合いなドレスだ。先導する男も戸惑いを隠せない。


「あの……、この方は?」

「気にしなくて結構ですわ。わたくしは零次様の正さi」

「正妻じゃねー」

「ならば愛じn」

「愛人じゃねー。ただのストーカーだ。放っておいていい」

「は、はあ……」


 夫婦漫才かのようなこなれたやり取りをして歩いて行く。

 零次と織嫁はすぐ近くにある政党事務所の中に消えていった。二人に続いて”復日真党”の人たちも撤収する。


「あの二人を放っておいて大丈夫かな?」

「あれでも”大罪の魔王”だ。心配ないだろう」


 どこか心配な気持ちのまま恵梨香に続く。


「恵梨香はどこに行こうとしてんだ?」

「特には考えていないけれど、商店街でいいかしら?」

「出たとこ勝負かよ。それでいいのか?」


 大人しくついてきている他のメンバーに問いかける。


「恵梨香のワガママだしね~。仕方ない、私ついて行っちゃう!」

「ちょ、七海くっつかないで!」


 仲のいい二人は道端でいちゃつき出す。と言っても七海が一方的に恵梨香にウザ絡みしているだけなんだが。


 何はともあれ、目的地を商店街に定めた俺たちは気の向くままにぶらぶらしていた。……実に不毛だ。


「見て恵梨香、たこ焼きだよ!」

「うるさい七海。珍しいものじゃないでしょ」

「ちょっと! このたこ焼き美味しい!」

「紗耶はいつの間に買い食いしてるのよ!」


 女子三人はひたすらに楽しんでいる。

 はしゃぐようなキャラじゃない昴(すばる)はベンチに腰掛けコーヒーを啜り、俺と颯介は店頭の食品サンプルを見て腹を空かせている。……もう一度言おう、実に不毛だ。


「おや? もしかして朝臣(あそん)くん」


 蕎麦屋の食品サンプルを見ていると誰かが俺の肩を叩いた。

 振り返ると、そこには若い顔立ちのいい男の顔があった。隣には同じく若い女性を連れ、二人とも白を基調とした服を着ている。この服は、確か魔導隊の制服だ。


「覚えていないかい? 四月に水木(みずき)さんと訪問したときに同席していた者だよ」


 男は「ほら」と言って念を押す。

 四月の始め、魔獣の襲撃をするために”水木”と名乗る初老の魔導隊隊長と面会した。確かにその両脇には若い男の隊員がいたような……。


「あぁ! 思い出しました。あのときの」

「僕は元木(もとき)、こっちの女性隊員が春山(はるやま)だ」

「どうも、春山です」


 紹介を受けた春山さんは肩にかかるほどの髪を垂らしてお辞儀をした。真っ直ぐ伸びる背筋や、凛とした声音からしっかりした印象を受ける。


「朝臣くんたちはどうしてこんなところに? 授業はないのかい?」

「あぁ、今日は校外学習なんですよ」

「ああ、そういうことか。最近物騒だから気を付けるんだよ。僕らも巡回しているしね」


 軽い挨拶を交わして元木さんと春山さんと別れる。


「知り合いか?」

「ちょっと顔を合わせたことがあるだけだ」


 昴から缶コーヒーを受け取り、栓を開けて口をつける。

 俺と昴が商店街のアーケードを抜けると、後ろから四人がついてくる。


「そろそろお昼ご飯の場所を決めないとね」

「何が食べたい?」


 颯介と恵梨香が昼食の相談を交わす。

 ……まぁ、こんな校外学習もありかもな。なんて思えるほど、のどかな昼前。特に深い思案もなく、何の気なしに信号待ちをする。


「危ない!!」


 通りがかりの人が張り裂けんばかりの叫び声を上げた。

 声につられて首を動かすと、制御を失ったトラックが暴走しているのが分かった。

~キャラクター紹介~

新見 零

身長181cm、体重76kg、体脂肪率7%、視力左右1,5、瞳の色はグレー、髪色赤色で目と耳にかかりそうなほどの長さ、左の鎖骨にほくろがある、右の肩には大きな古傷を持つ、好きな食べ物はカニカマ、嫌いな食べ物は蟹……以下割愛(オルガ情報)

世界最強の魔導師”大罪の魔王”の一人。”怠惰の魔王”の異名を持つ。

異名の通り、興味のないことには関わらず、常にダルそうに寝ている。そのためにアイマスクを常備している。

しかし自分の興味のあることは徹底的に干渉・解明する。このときの零は”怠惰”からは程遠い。

能力”速度”、自信を加速・減速させる能力。一見単純に見える能力だが、加速の限界は本人でも知らない。自身を加速させることで力学エネルギーを高め、高い攻撃力を出し、高い機動力で翻弄もできる。

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