学園の生活(平日)
今回、10話との連続投稿によりあらすじは割愛します。
「やあぁぁ!」
紗耶は手に持った二槍の鉄槍を勇ましく振り回す。
昴が猛々しい紗耶の相手をする。昴は“氷像”の能力で造り出した氷の刃で槍を受け流す。
そんな二人の立ち回りを、俺と颯介と恵梨香は端で観戦する。
今日の特訓は屋内の武闘場ではしていない。オルガによって破壊された校舎が修復中という事情があるのだが、今日はそれだけではない。
「ていっ! えいっ! やっ!」
紗耶はほんの数日でめっきり槍の扱いが上手くなった。槍以外にも槌や刀、棍などの武器の扱いが上達した。
一方の昴は相変わら涼しげな顔で攻撃をいなす。氷の刃だけではなく、ときには氷の盾で防ぐ。危なげない戦い方だ。
俺はどうしたか、といわれれば言葉を濁さざるを得ない。なにせ、俺の能力の詳細が分からないので実戦で使うな、と釘を刺されているのだ。
最初に検査を受けたときに、俺の能力は『ERROR』と判定された。その後も、香月先生が修理・改良した機械で検査を受けたが『ERROR』のままだった。
その結果と、初めて魔術を使ったときの状況を汲んだ二騎先生が使用禁止を下したのだ。
……どのみち、あの二人の戦いに割って入る度胸はない。
そして今回、屋外で特訓をしている理由はもう一つある。
その「もう一つの理由」とは、観戦していない七海に深く関連している。
「二人とも隙だらけだよ。もらい!」
火花を散らす紗耶と昴の間を、炎が一直線に駆け抜ける。二人は炎をかわして、炎が伸びてきた方向を睨む。
「惜しい! ……けど使い方分かってきた~」
そういって実感を得る七海。満足そうに腕を回す。
そう、これが屋外で訓練をしている理由だ。
この数日の間は紗耶と昴の魔術訓練を見て、それ以外は組み手の訓練をしていた。
しかし、ある日突然、突発的に七海が魔術を使えるようになったのだ。その能力は見ての通り“炎上”。炎を操るという王道魔術。
紗耶の“錬金”と昴の“氷像”なら屋内訓練でも問題ない。が、炎を使って火事になっては大問題だ。
そういうわけで屋外訓練をしている。それもグラウンドの真ん中という目立つ場所で……。
「そこまでですわ。わたくしの最低管轄時間をすぎましたわ。続けても構いませんが、怪我をしても知りませんわよ」
そして“魔術訓練特別顧問”であるオルガが訓練を止めた。
オルガは立場上、紗耶たちの訓練を監修していたが、いかんせんオルガのヤル気はない。「訓練を見ている」体でいたため、実際は全く見ていない。
どうもオルガは他人の魔術、というか他人に興味がないのだ。オルガが興味のある人間は、俺の知る限りは零しかいない。
「そうね、私たちもこれで終わりにしよっか」
「そうだね」
紗耶の提案で今日の訓練はお開きになった。
この数日で、紗耶が訓練を終わるときが俺たちの訓練の終わる時間になった。
そして女子たち三人はオルガを捕まえて更衣室へ向かう。これもここ数日の間でできた習慣で、どうやら女子たちはオルガを懐柔しようと試みているらしい。
オルガが同い年だと知るや否やオルガと仲良くしよう、と言い出したのは七海だ。すぐに同調した女子たちは、あの手この手でオルガとコミュニケーションを取っている。
最初は嫌がっていたオルガも、最近は態度を軟化させ始めている。オルガが心を開くのも時間の問題だろう。
「俺たちも着替えて帰るか」
「そうだね」
俺たち男子組三人も更衣室へ向かう。
つい先日まで咲いていた桜の花は散り、冷たい風はもう吹かない。夏を感じるには早すぎて、春と言うには遅い時期。
もう五月か……。
「女子更衣室」と書かれたプレートの下には、もちろん女子更衣室の扉がある。
渡 恵梨香はドアノブを回して扉を大きく開けた。その扉を通って、オルガを捕まえた紗耶と七海が入室した。
「どうしてわたくしまで更衣室に来ないといけませんの? わたくしは着替えませんわ」
「オーちゃん、そんな固いこと言わないよ~」
「誰が『オーちゃん』ですの!? ちょっと貴女離れなさい!」
紗耶や恵梨香にやることと同じ要領で、七海はオルガに抱き着く。当のオルガは慣れていないためか手を出しあぐねている。
「こら七海、あんたも早く着替えないと遅れるわよ」
「は~い。私は恵梨香と違って着替えに時間がかかるもんね~。引っかかるから」
「それはどういう意味で言っているのかしら!?」
「七海、むやみやたらに人を傷付けないで……」
そして紗耶が勝手に傷付く。
この掛け合いも見慣れたものとなりつつある。七海は恵梨香は恵梨香の、紗耶は紗耶のいじり方を心得ている。もちろんそれは男子やオルガにも当てはまる。
「いちいち胸で騒げるなんて幸せですわね」
オルガはいつでも逃亡できるが、逃亡はせずに手近の丸椅子に座った。
「オルガはね……、胸の小さい人の気持ちが分からないのよ……」
「まな板さんは気にしすぎですわ。実際、零様はわたくしに何の恋愛感情も下心も持っておりませんもの」
「『まな板さん』は止めて……!」
グサグサとトゲが刺さる紗耶は着替えの途中で心を折られた。姿見を見て自分の貧乳を気に病む。
「紗耶はスタイルいいし、きっと大丈夫だよ」
七海が姿見の前で固まった紗耶を励ます。
「そうよ。紗耶は背も高いんだし気に病むことないわ。対して私は……、はぁ……」
今度は恵梨香が自爆した。隣で着替え終わった七海は面倒くさそうにため息を吐く。
「恵梨香はいっつもそれ言うよね。でも大丈夫、きっと需要はあるから」
「何だろう、このどうしようもないやるせなさは……」
複雑な心持ちのまま恵梨香は着替えを終えた。残るは紗耶だけ。
「早くしていただけます? わたくしは暇ではありませんの」
「とか言って、零を追いかけるんでしょ?」
「当たり前ですわ!」
どうしようもないことに胸を張るオルガ。紗耶たちは言葉も出ない。
「でもオルガは零にその気がないのは知ってるのよね」
「えぇ、零様のことはわたくしが一番知っていると自負しておりますわ」
オルガはどこから湧き出るのか分からない自信を持って答える。
紗耶たちはオルガのそこはかとない自信を、何だか羨ましく感じていた。
「オーちゃんって一途だね~。とても“色欲の魔王”だなんて信じられないよ」
「全くその通りですわ。わたくしが肌を見せるのは零様ですのよ。零様に処女を捧げる覚悟ですの」
「しょっ!? なんてカミングアウトしてるのよ!」
耳まで赤くする恵梨香を見て微笑むオルガ。その笑みには、最初に出会ったときの不敵さはない。穏やかな年相応の少女の笑い顔だった。
「ところでさ……。オルガは零のどこがいいの?」
やっと着替えを終えた紗耶がオルガに詰め寄る。七海も同調してオルガを取り囲む。
「そ、そんなこと貴女たちに言う義理はありませんわ」
急に詰め寄られたオルガは、その勢いに狼狽する。
「そんなこと言わずに、ほらほら~」
「恋バナしちゃいなよ~。言っちゃいなよ~」
勢いづいた紗耶と七海は、さらに顔を押し付けるように問い詰める。
「も、もういいですわ! わたくしはこれで失礼しますわ!」
二人の包囲を押し破ってオルガは、自身の能力“屈折”を応用した“疑似瞬間移動”で更衣室から消える。
残った三人の女子は、オルガあまりの面白さと純情さに笑い合った。
~キャラクター紹介~
香月 碧
150cm、44kg。
魔導物理、魔導科学の先駆者であり権威。
バリバリの科学者時代は、食事も摂らずに研究室に籠るなど研究の虫だった。だがその度に二騎に食事や風呂、着替えなどを押し付けられた。
今では研究者の血は身を潜めているが、時々変態的に騒ぎ出す。
いつも着ている白のニットセーターは、自分に似合う服だと自覚しているためローテーションで着回している。
プライベートでは、二騎を名前で呼ぶなど仲がいい、




