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学園の生活(休日)

~前回までのあらすじ~

オルガの襲撃受けた王太郎と紗耶は、その戦いの中で魔術に目覚める。

紗耶の魔術は、鉄を造り出す“錬金”の能力。

一方の王太郎の魔術は、魔力を放出するということ以外の詳細が不明の能力だった。

そして、忙しい喧騒の日々を駆け抜けた王太郎たちに学園で過ごす初めての休日が訪れるのであった。

「はぁぁぁ……、朝か」


 カーテンの隙間から射し込んだ日光に起こされる。低反発の高級ベッドで伸びをして起床する。

 ここは寮の自室だ。


「やっと起きたわね王太郎(おうたろう)。何時だと思ってるのよ」


 部屋の奥のデスクから女の声がする。


「何時って、朝なんじゃ……、うわ1時!?」

「私、お昼ご飯済ましたからね」


 椅子を返した紗耶(さや)が呆れた顔をする。

 自室だから紗耶はホットパンツにTシャツ、薄手のカーディガンを羽織ってラフな格好をしている。


「授業はどうしたんだよ」

「はぁ……。王太郎が馬鹿なのは知ってたけど、ここまでとは……」


 二段構えで呆れる紗耶。ペンの尻で額を押さえて「やれやれ」と呟く。

 ……あっ、今日土曜だ。


「なんだ休みかよ。だったらまだ寝れるじゃねぇか」


 掛け布団を掴んで再び横になる。と紗耶に布団を剥がれた。


「起きなさい馬鹿太郎!」

「誰が太郎だ!」

「やっぱりそっちに反応するのね……」


 “紗耶呆れるの巻・其の三”。俺は仕方なくベッドから降りた。

 備え付けのクローゼットから適当な私服を取り出して着替える。

 本来ルームメイトは男子なのだが、担任の二騎先生の大雑把な采配のため、このように男女が同室となっている。

 そして本来、普通の男女ならば異性の着替えには少なからず反応をするだろう。

 しかし幼馴染みの紗耶は俺の着替えを何とも思わない。でもって俺も紗耶の前で着替えることに何も感じない。


 ……幼馴染みのヒロインなんて都市伝説なのだ。


 寝巻きのスウェットズボンを行動用のスウェットズボンに履き替え、寝巻きのロンTを行動用のロンTに着替える。……要は見た目には色しか変わっていない。

 着替えが終わると、俺はあることに気が付いた。


「そういや学園に入学して初めての休日なんだな」

「そうね。あれだけ濃密な日を送ったら日の感覚が狂うよね」

「……思い出しただけでも疲れてきた」


 紗耶の隣の椅子に腰を下ろして、ここ数日の出来事を振り返る。


 入学初日、行方不明のクラスメイトを探していると魔獣の群れに遭遇。俺は死にかけた訳だが、何故か無傷だという不思議な事件が起きた。

 そして翌日、探していたクラスメイトが“世界最強の魔導師”と謳われる“大罪の魔王”の一人、“新見(にいみ) 零(れい)”だと判明した。しかも当の本人は悪びれる様子もなく、零の世話係に任命されてしまった。

 そして昨日、零がクラスに顔を出して話が拗れるわ、午後には二人目の“大罪の魔王”である“オルガ・ベロニカ”に襲撃されるわ。極めつけは“検査”だの言って俺の能力は不明のまま……。


 こんな濃い日々送ったら昼まで寝てしまうのもしょうがない。……しょうがなくないか。


「小説十話くらいにはなりそうだな」

「あんた何言ってんの?」

「うるせぇ、ほっとけ」


 隣の紗耶の侮蔑するような視線を避けて台所に向かう。

 台所でコップ一杯の水を飲むと、とうとう手持ち無沙汰になった。


「紗耶ー。いるー?」


 すると、女子の声が紗耶を呼び、部屋をノックした。この声は恵梨香(えりか)か。


「は~い。今行く~」


 トトトと小走りで扉へ向かう紗耶。その紗耶を呼び止める。


「恵梨香は何しに来たんだ?」

「そんなの遊びに来たに決まってるでしょ」

「遊ぶもんなんて何もないぞ」


 そして部屋をぐるっと見回す。

 部屋の装飾は一級品だらけだが娯楽品なんて皆無だ。俺たちの手荷物にも遊び道具はない。俺の携帯に入っているゲームも神経衰弱くらいしかないぞ?


「王太郎は分かってないわね。女子は女子だけで話すだけでも楽しいのよ」


 やれやれ、と今日何度目か分からない呆れ顔をする紗耶。暗に「男は出てけ」と言ってる。

 状況的にはアウェイだな。

 大人しく昴(すばる)たちの部屋に行こうと決心すると同時に、紗耶により部屋の扉が開かれる。


「どうぞ入ってよ恵梨……香?」


 恵梨香を迎えた紗耶が首をかしげた。

 何事かと思い窺うと、休日なのに恵梨香は制服を着ていた。丁寧にネクタイを第一ボタンまで締め、いつも通り真っ黒の長髪をお下げに結んでいる。


「お前はあれか。『私服ダサいから休日にも制服着る』タイプか」

「太郎うるさい。お座り!」

「テメェ太郎言うな!」


 朝っぱら……、違った昼っぱらから恵梨香と舌戦(?)を繰り広げる。紗耶は慣れた手付きで喧嘩を仲裁する。


「で、何しに来たの?」


 紗耶が本題を尋ねた。


「さっき私たちの部屋に二騎(にき)先生から連絡があったの。『朝臣(あそん)、宇佐見(うさみ)、向坂(さきさか)、篠崎(しのざき)、米谷(よねや)、渡(わたり)の六人揃って職員室に来い』だって」

「だから迎えに来たのね?」

「そう」

「じゃあさっさと行くか」


 早速部屋の鍵を閉めて職員室へ出発する。

 すると恵梨香が頓狂な声を出す。


「二人ともその格好で行くの?」


 言われて気付く。俺も紗耶もラフな部屋着だ。恵梨香のように制服で行くのが無難なのだろうが……。


「休日に呼び出されたんだし、何とかなるだろ」

「そうそう。いざとなったら『急いで来たので!』って言ったら許されそうじゃない?」

「……」


 俺たちの適当な返答に恵梨香は言葉を失う。


「どうなっても知らないわよ……」


 恵梨香が不気味な言葉を残して先に行った。高鳴る鼓動と共に後を行く。


「そういえば七海(ななみ)は一緒じゃないの?」

「七海は昼まで寝てたわ。私が部屋を出るときに起こして、向坂たちな部屋に行ってもらってる」

「七海が制服に着替えいるといいな」


 何の気なしに茶化すと、恵梨香が鋭い目線で睨み返してきた。

 俺は大人なので一応気付かないふりをした。一応……。後でもう一回だけ制服弄りしてやる。


 俺たち三人は昴たちと出くわすとことなく寮を後にする。寮前のバス停からバスに乗り、揺られること十数分。本校舎前のバス停で下車した。


「私服で登校するってむずがゆいね」

「ちょっと着替えに戻っていいか? 今さらになって悪寒が……」

「二人とも何ふざけてるのよ。ここまで来たら行くわよ」


 恵梨香は俺と紗耶の腕を強引に掴んで引っ張る。真面目そうな素振りをしていたが、目が完全に「ざまあみなさい馬鹿太郎」って言ってた。

 あれよあれよという内に、職員室前に辿り着く。

 そこには、すでに見慣れた人影が三つあった。


「おっ、恵梨香やっと来た。お~い、こっちだよ~」


 俺たちに気付いて手を振るのは、恵梨香のルームメイトの米谷 七海。その後ろには、同じく手を振る篠崎 颯介と、眠そうな目を擦る向坂 昴がいた。

 「おまたせ~」と六人が集合し、改めてメンツを見回すと……。


「昴と颯介も私服だな」

「制服じゃなくてよかったかな?」

「着替えるのが面倒だったし、休みくらい構わないだろ」


 俺と意見が一致した昴は眠そうだ。これは昼まで寝ていたに違いない。てか皆(俺も含めて)寝すぎだろ。


「王太郎くん、私も私服だよ~。どう? 似合う?」


 そう言って七海は無邪気に俺の視界を塞ぐ。

 薄ピンクのワンピースに短パン、いつも通りのポニーテールという格好はいかにも七海らしい。

 しかし気になるのはワンピースのUネック。七海の胸元が露になっており、ついつい視線が谷間に行ってしまう。


「どこ見てるのよ王太郎」


 そんな俺を諌めるのはもちろん紗耶だ。胸の話となると敏感になり、ついでに被害妄想を膨らませて勝手に凹む。


「まぁ何だ。七海もオルガも同い年だが気にするな。恵梨香も同い年だろ」


 俺的には最高のフォロー。同族を見つければ少しは気が楽……。


「「どういう意味よ!」」

「でかい声出すなよ、びっくりするだろうが」


 紗耶と恵梨香がいきなり怒鳴り付けてきた。二人ともお怒りのようだ。

 俺は突然の大きな声に驚きつつも、話を切り換えるために職員室を指差す。


「それより六人揃ったから先生のとこに行こうぜ」


 俺の提案で、やっと二人の追求は止んだ。が、なぜか俺が矢面に立たされた。

 背後からの威圧に押されて職員室の扉の前に立つ。

 三度ノックすると、中かろ二騎先生の返事があった。引き戸を開けて、入り口のすぐ近くにある二騎先生の元へ向かう。

 二騎先生は回転式の椅子を回して俺たちと向き合う。

 いつも通りの黒スーツとタイトスカートの二騎先生は、脚を組んで胸ポケットからタバコの箱を取り出した。


「来たか。昨日のことは碧(みどり)から聞いている。ご苦労だったな」


 タバコに火を着けると、俺たちの労をねぎらう二騎先生。副担任の香月(こうづき)先生のことを名前の“碧”と読んでいること辺り、今は“先生”としての“二騎・フォルオム・千里”ではないのだろう。


「それで二騎先生、俺たちを呼んだ理由は……?」


 背中を恵梨香につつかれて、恐る恐る質問をする。二騎先生はタバコを灰皿に押し付けて答える。


「お前らも知っているだろうが、ベロニカの学園滞在は立場上許されない。のだが、今回、特別にその許可を中枢から取ってきた」


 そう語る二騎先生は二本目のタバコに火を着けながらも、どこかしたり顔をしている。


「本題に入ろう。オルガ・ベロニカはこれから当分、あたしら1組専属の“魔術訓練特別顧問”として学園内にいる。新見も含めて、あいつらのフォローをお前ら六人に任せる」

「フォローって、あの二人が“大罪の魔王”だってことを隠せばいいんですか?」

「そうじゃない。そんなことは噂ですぐに広まる。お前らに任せるのは『二人から野次馬を守り、問題を起こさせるな』ということだ」

「了解しました。……ん? 『二人から野次馬を守る』?」


 逆じゃないのか? 普通逆じゃないのか?


 しかし細かいことは誰も指摘せず、話がまとまってしまう。


「先生、オルガが“1組専属”っていうのは、他の組との兼ね合いは大丈夫なのでしょうか?」


 恵梨香が二騎先生に尋ねた。俺の背中に隠れるように尋ねるのは、少なからず二騎先生を恐れているのだろうか?

 ……だが恵梨香、そこよりも大事な突っ込みどころがあるだろ。


「お前は……、渡か。他の組に文句を言われる筋合いはない。あたしが中枢に出向いて直接取ってきた許可だ。欲しいなら自分で行けばいい」


 いつの間にか吸い終えた三本目のタバコを掻き消しながら、堂々と答えた二騎先生。

 そして少しずつ生徒の名前も覚えているようだ。名簿が最後の恵梨香を覚えているなら、俺の名前も覚えているだろう。

 そんな打算を宛にして、俺は二騎先生に質問してみる。


「俺たちは野次馬を守ればいいんですか?」

「何度も言わせるな生徒A。あたしが言ったことは一回で理解しろ馬鹿者」


 返ってきたのは厳しいお叱りと鋭い視線。そして俺は相変わらず「生徒A」のままだ。


「あの……、さっきから先生が言っている『中枢』って、まさか“世界評議会”のことですか?」


 俺の二個斜め右隣の颯介が控え目に質問をした。

 二騎先生は四本目のタバコに火を着けて首肯する。


「そうだが、それがどうした」

「……いいえ、何でもありません」


 先生は何でもないように自然に肯定した。颯介はそれを聞いて退いたが、二騎先生の言ったことは衝撃的だった。


 颯介が言った“世界評議会”とは、十年前の“世変の勝鬨”の直後に設立された越境政治機関だ。統治は各国に任せているが、世界評議会の決定は、国の決定を覆せる権力を持つ。世の中には、この実態を“国の飼い主”だなんて揶揄する人もいる。

 そして零やオルガたち“大罪の魔王”は世界評議会に属するらしい。その他、名のある魔導師はほとんどが世界評議会に属する。逆にいえば、名のある魔導師しか世界評議会には属せない、ということでもある。


 そんなところに行って、さらに直接交渉をするなんてただ者じゃない。

 二騎先生の素性に謎が深まるが、二騎先生の眼がそれ以上の言及を封殺している。


「それじゃあ、俺たちはこれで……」


 そのままなし崩しで退室する。

 俺が職員室の扉を開けたとき、二騎先生が「そういえば……」と言ったのを背中で聞いた。

 せれは他の五人も聞いたようで、一斉に振り返る。

 六人の視線が二騎先生に集まる。


「どうして渡は制服なんだ? 今日は土曜だぞ」


 俺のすぐ前にいる恵梨香の顔が、後ろからでも解るくらいに真っ赤になったのが見えた。

~キャラクター紹介~

二騎・フォルオム・千里

161cm、50kg。イギリス人と日本人のハーフで、王太郎たち1組の担任を務める女教師。ヘビースモーカー。

鋭い吊り目と近付き難い雰囲気を放つため、大抵の人から恐れられている暴くn……。

また副担任の香月 碧とは旧知の仲で、プライベートでは互いに名前で呼び会う。

教師をするまでは生粋の軍人で、“世変の勝鬨”後の数年間は魔導師として活躍していた。とある事情により戦線を退いてからは教官・指揮官を務めていた。

また、軍人である父親は10年前から行方不明。

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