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属性なしのハズレ精霊に選ばれて追放された僕――白い相棒と旅に出たら、消えた属性が蘇り始めました  作者: ハッピーミラクルエンジョイ
六王巡礼と消える世界

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47話 王都からの召喚状

僕の名前は、今も家の記録に残っていた。


そのことを知ったのは、昇格の結果を受け取った翌朝だった。


ガルド支部へ来た女性騎士が、机の向こうで封書を開く。


「出生名、ルカ・エルフォード。現在の登録名、ルカ。白い精霊アインの契約者。間違いありませんか」


僕は、椅子の下で足をそろえた。


隣にはベルンさんがいた。エリクたちも、同じ机を囲んでいる。


「……間違いありません。でも、家名は使っていません」


「承知しています。出生記録と冒険者登録を照合するための確認です」


騎士は紙の片隅へ印を付け、僕の前へ封書を滑らせた。


白い封蝋には、王家の紋章。その下に、大神殿の印が並ぶ。


「私は王都の護送担当、アデラです。第一王女殿下の命により、あなたとアインを王都へお迎えに来ました」


迎えに。


そう聞こえたのに、紙に書かれているのは、召喚という言葉だった。


僕は膝の上のアインを見た。


彼も紙を見ている。いつもの一本の尾が、僕の手首へ触れていた。


*


ベルンさんは、書面を端から読んだ。


読めないところを僕が尋ねると、指で行を示しながら説明してくれた。


王都で、アインの属性と力の回復について話をすること。


それまでは、新たな精霊王との接続を試みないこと。


護送を受け、指定された日時までに出頭すること。


僕は、二つ目の行から目を離せなかった。


「どうして、精霊王のことを知っているんですか」


アデラさんは、机へ別の紙を置いた。


そこにあったのは、水都でまとめられた報告の写しだった。僕たちだけが書いたものではない。調査班と支部が、被害や救援の経過を確かめて送った記録だという。


「水都から王都へ、白い精霊が複数の属性を使う報告が届いています。私はその後に出発しました。こちらの土の力については、到着してから支部の記録を確認しました」


土の力を使ったことが、その晩に王都へ届いたのではない。


僕たちがガルドで働き、休んでいた間に、別の場所では話が進んでいた。


「精霊王に会うことが、悪いんですか」


ミレアが尋ねた。


「その判断を、私がここで下すことはできません。殿下は、属性を取り戻す過程を確認したいとお考えです」


『我に、尋ねるための紙であろうな』


アインの言葉は、僕たち四人とベルンさんへ届いた。


アデラさんは顔を動かさない。まだ、聞く相手に加わってはいない。


「アインは、話を聞くためなのかと聞いています」


僕が伝えると、彼女は僕ではなく、膝の上の白い相棒へ向き直った。


「お話を伺う席は用意されます。ただし、そこでどのような判断が下るかまでは、今、お約束できません」


机の下で、僕の指が毛を握った。


アインが小さく身じろぎしたので、慌てて手を開く。


紙には、帰る日が書いていなかった。


*


支部は、その場で僕たちを馬車へ乗せなかった。


支部の成人職員が封蝋と通達番号を、王都から事前に届いていた通知の控えと照合した。アデラさんも、身分と護送命令の原本を示す。


ベルンさんは、目的地と日程、同行者、途中で具合が悪くなったときの扱いを順に聞いた。


明朝出発し、街道の宿で夜を越しながら六日かけて王都へ。


途中の馬替えと宿は手配済み。予定日に間に合わせるために夜通し走ることはしない。


「この子は十二だ。私が成人責任者として同行する」


「同行を認める欄は、こちらです」


アデラさんが示した紙へ、ベルンさんは自分の名前を書いた。


エリクが、机へ身を寄せる。


「俺たちは?」


「救援と共鳴の様子を見た方々も、証言のために同行を求められています。契約の有無による区別は、この護送命令にはありません」


彼女はエリクの顔を見て答えた。


彼は一度、椅子へ座り直した。


昨日、昇格を止められたばかりだった。僕は、彼がまた外されるのではないかと思っていたことに気づき、膝の上の手を握った。


ミレアとノエルも、同じ馬車に乗ることになった。


ベルンさんは、出発の前にそれぞれが知らせを出せる時間を取った。僕たちは支部の便で、行き先と、ベルンさんが同行することを書いて送った。


ノエルは書き終えた紙を見直してから、控えを自分の袋へしまう。


僕も、家族へ宛てた文の最後に、アインと離れてはいない、と書き足した。


誰かから返事が届くより先に、出発する日程だった。


午後、僕たちはドルガラム様へ、王都に呼ばれたことを伝えに行った。


本殿へ下る通路は、今日も点検済みだった。外の封印室の扉には誰も近づかず、交代の見張りが立っている。


王様は、僕から聞いた命令を、黙って聞いた。


「わしがつないだ土の鍵については、わしの言葉を記録して持ってゆけ」


同行した書記が、板の上へ紙を留めた。


「奪われたのではない。わしが望み、白い精霊も受け入れた。わしは今も、ここを支えておる」


書記が読み上げ、王様が言い間違いを直す。


土の鍵を得たせいで、王様が消えたという報告にはならない。


僕は、それが少し嬉しかった。


「王様。ついて来てもらうことは、できませんよね」


聞かずにいられなかった。


大きな脚の下には、裂け目があった。


「行けぬ。だが、行けぬ者の言葉が、何もないことにはならぬ」


僕は書き終えた紙を、ベルンさんと一緒に確かめた。


『我も、聞かれたことには答える』


アインが台の前で言った。


『だが、知らぬことを知っておるとは申さぬ』


ドルガラム様は、ゆっくりうなずいた。


「それを、忘れるな」


*


翌朝、ガルドの支部前には、二台の馬車が止まっていた。


僕たち五人と精霊たちは一台目。アデラさんと護送の騎士たち、控えの荷物は二台目に分かれる。御者は、それぞれの御者台に座っていた。


荷物を積む前に、エリクが車輪と紐を見た。


「見るだけなら、いいですか」


御者がうなずき、車体の下へ入らないよう言った。


審査で受け取った紙は、エリクの袋に入っている。


それでも彼は、出発する車輪を確かめていた。


オルナさんが、僕たちへ包みを渡した。


中には、固く焼いたパンがあった。


「道の分。仕事の記録は、私たちも持ってる。あっちで何か違うことを言われたら、支部から問い合わせて」


エリクは包みを受け取り、頭を下げた。


彼の昇格についての返答は、まだ届いていない。ベルンさんは王都支部へ連絡先を引き継ぎ、保留のまま忘れられないよう、受付の控えを受け取っていた。


ガルドの坂では、職人たちが作業を続けていた。


僕たちが出ていっても、封印が解けるわけではない。戻らない精霊の捜索も、大人の調査班へ残る。


町を全部直したから出発するのではなかった。


僕は窓から坂を見上げ、アインの背へ手を置いた。


馬車が動きだす。


王様のいる地面は、揺れなかった。


*


三日目の昼、街道の先で馬車が止まった。


窓から顔を出しかけ、ベルンさんに袖を引かれる。


「まず、中で待て」


前方には、路肩へ車輪を落とした荷車があった。


道の端の浅い溝へ右の車輪が入り、荷台が斜めになっている。左側にはほかの馬車が通れる幅があり、騎士が後ろの車へ停止の合図を送っていた。


荷車の横で、小柄な老人が麻袋を抱えて立っている。


御者と騎士たちは、まず馬を外して安全な場所へ移した。荷台がひっくり返らないよう綱を掛け、袋を少しずつ下ろす。


僕たちが外へ出られたのは、空いた道の左側へ、待つ場所が決まってからだった。


老人が、荷台へ戻りかける。


「まだ乗らないでください。押している者がいます」


アデラさんが呼び止めた。


老人は謝って、荷台を見つめた。


「あの種袋だけは、泥につけたくないんだが」


彼が指したのは、まだ荷台に残っていた小さな袋だった。


車輪を上げるための板はあった。でも溝から道へ出る段差が高く、板の下が空いていた。


エリクが、板の端を見る。


「下に詰めるものがないと、真ん中で折れませんか」


御者が押す手を止めた。長い棒で底を確かめ、首を横へ振る。


『あそこへ土を置くなら、道から取るでないぞ』


アインが僕を見上げた。


庭の木箱で、反対側の土が薄くなったことを思い出す。


「足す土があれば、できますか」


僕はベルンさんへ尋ねた。


騎士たちが袋を空け、道から離れた崩れのない土手の下で、すでに落ちている土を集めた。御者が溝へ入れ、板の下へ詰める。


アインは待つ場所から、僕と一緒に、成人が確かめた位置まで進んだ。荷車の前や車輪の下へは入らない。


白い尾が五本に分かれる。


足した土の山が低く広がり、板の下の隙間を埋めた。


僕の靴の下まで、地面が動いたわけではない。


湿った土を押すような抵抗が、手のひらに伝わってくる。硬い石のようにはできない。板を支える小さな坂に形を整えるだけで、額へ汗が浮いた。


「ここまでです。押したら、確かめてください」


御者が棒で沈み具合を見て、綱を持つ騎士へ合図した。


車輪が、板へ載る。


土が少し沈んだ。大人たちは止め、脇へ土を足してから、もう一度押した。


車輪が道へ戻る。


僕は、アインと一緒に息を吐いた。


老人は種袋を抱き、何度も礼を言った。


アデラさんは、白い尾が一本へ戻るまで、僕たちを見ていた。


「新しい接続を試みたのではありませんね」


僕の背中が硬くなる。


「持っていた土の力です。使う前に、ベルンさんにも……」


「はい。そのとおり記録します」


彼女の板には、時刻と、荷車と、土を運んだ人のことまで書かれた。


助けたことも、使った力も、同じ紙に載った。


*


その夜、宿の部屋で、僕は昼の記録の控えを読んだ。


アデラさんへ見せてほしいと頼むと、ベルンさんの前で、僕の担当部分を読ませてくれたのだ。


土の力を使った。


荷車を戻した。


地面を広く崩してはいない。


書かれていることに、嘘はなかった。


でも、あの紙が王都へ着いたとき、誰がどこを読むのだろう。


僕は、手の中の紙を折りかけてやめた。


「助けたことは、ちゃんと書いてあるよね」


エリクは、自分の靴の泥を布で落としていた。


「書いてある」


一度手を止め、彼は僕を見た。


「でも、同じことが書いてあっても、読む人で結果が変わるのは、嫌だ」


僕はうなずいた。


エリクの記録にも、綱を扱ったことは書いてあった。


ミレアが水筒を床の安定したところへ置き、僕の隣へ座った。


「だから、私たちも話すんでしょう。ルカだけに説明させないで」


ノエルは、窓の留め金を確かめてから振り返った。


「聞かれたことと、言いたいこと、書き分けておこう。緊張したら、忘れちゃうから」


僕たちは紙を一枚ずつ出した。


エリクは、板の下が空いていたことを書く。ミレアは、僕とアインが休んでから馬車へ戻ったことを。ノエルは、荷車の周りに人がいないかを騎士が確かめたことを書いた。


僕は、アインが道の土を取るなと言った、と書いた。


『それもよいが、我が何と呼ばれたいかも書け』


アインが机の下から言う。


「名前?」


『未分類、ではない。我にはアインという名がある』


僕は新しい行へ、相棒の名前を大きく書いた。


その下へ、自分の名前も、ルカ、とだけ書いた。


*


六日目の夕方、王都の城壁が見えた。


街道の両側に畑が続き、その先で石の壁が空を区切っていた。門の上には、何人もの見張りが立っている。


馬車はほかの旅人の列を追い越さず、手前の確認場へ曲がった。


僕は紙を握り直した。


アデラさんが先に降り、門番へ命令書を示す。ベルンさんも登録証を出し、僕たちの名前と人数を一緒に確かめた。


エリクが呼ばれたとき、僕は門番の顔を見た。


門番は名簿へ印を付け、次にミレアを呼んだ。


誰も、契約がないから列を出ろとは言わなかった。


それだけでほっとした自分に、少し腹が立った。


その日は王城へ入らず、護送中の滞在先として指定された宿へ入った。


アデラさんが、翌朝の時間を告げる。


「大神殿の対面室へ参ります。ベルンさんと証言者の方々も同行できます」


僕は、泊まる部屋の扉が開くのを待った。


扉には鍵があり、内側からも回せた。


その夜、アインは僕の寝台の足元で眠った。離されなかったことを喜んでよいのか、それとも明日のためなのか、僕には分からなかった。


*


翌朝、大神殿の入口で、僕たちは荷物の中身を書き留められた。


刃物と大きな作業道具は、対面室へ入る間だけ、番号の付いた保管棚へ預ける。ベルンさんは受取札と一覧を確かめた。


エリクの道具だけが取り上げられたのではない。


僕の胸元の護符も確認されたが、その場では預けるよう言われなかった。紐を引かれたわけでもないのに、僕は上着の上から押さえた。


対面室は、長い机を挟んだ部屋だった。


入口に近い側へ僕たちの椅子が並び、奥には大きな窓がある。その窓の前に、若い女性が立っていた。


彼女の隣で、六枚の光の翼がゆっくり開く。


鳥の羽のような細かな毛はない。薄い板を重ねたような翼の縁から、白い光が床へ落ちていた。


光の中にいるのは、大人ほどの背丈の、人の姿をした精霊だった。


目を向けられた瞬間、僕は背筋を伸ばした。


「第一王女殿下。そして、白耀王アウレシア様です」


アデラさんが紹介した。


僕は、教わったとおりに頭を下げた。


自分の名前を言うとき、家名を足すべきか迷ったけれど、ルカとだけ名乗った。


アウレシア様は、僕の足元を見た。


「その精霊が、アインか」


『我を呼んだのは、お前であるか』


声は、僕たちにだけ届いた。


僕はアウレシア様へ伝えた。アインの言葉が、目の前の相手へも届いているとは、まだ確かめていない。


「そうだ。これまでの報告を聞きたい」


最初に話したのは、ベルンさんだった。


水都とガルドの記録、ドルガラム様の言葉、僕たちの活動記録の控えを机へ置く。


僕も、自分で見たことを話した。


奪われた力を、元の場所へ戻したこと。


全部を助けられたわけではないこと。


精霊王は、鍵を渡しても消えず、それぞれの場所にいること。


途中で言葉が詰まると、アインが僕の靴へ前足を置いた。


記憶の中に見えた顔のない影については、誰だったのか分からないと答えた。


王女殿下は、僕が話し終えるまで待った。


それから、記録の一枚をアウレシア様の前へ置いた。


「同じ結論ですか」


「今のまま、次を待つことはできない」


二人の声は静かだった。


僕は、机の端に置いた自分の指を見た。震えが、まだ止まらなかった。


王女殿下がこちらへ向き直る。


「ルカ。あなたたちが人を救った記録は、ここにあります。その功績を否定するために呼んだのではありません」


僕は顔を上げた。


「ですが、複数の属性が一体へ集まることについて、危険がないとは判断できません」


「集まったら、何が起こるんですか」


「まだ、確かめなければならないことがあります」


僕には、その答えが、分からないと言われたのと同じに聞こえた。


アウレシア様の翼が、窓の光を遮る。


「失ってからでは、確かめる場所さえなくなる場合がある」


僕はアインを見た。


彼は逃げずに立っていた。


王女殿下が、机の中央へ新しい書面を置いた。


「審理と検証が終わるまで、アインの力を封印します。王契者として、白耀王とともに、その措置を命じます」


「待ってください」


僕は椅子から立ち上がった。


アデラさんの手が動いたが、剣には触れなかった。ベルンさんは僕の前を塞がず、隣に立つ。


「封印って、アインはどうなるんですか。眠るんですか。僕と、話せなくなるんですか」


返事を待つ間に、僕は足元へ手を下ろした。


アインの額が、手のひらへ押しつけられる。


『ルカ。我は、まだ答えておらぬ』


僕はうなずき、机の向こうを見た。


「アイン自身の返事を、先に聞いてください」

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