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属性なしのハズレ精霊に選ばれて追放された僕――白い相棒と旅に出たら、消えた属性が蘇り始めました  作者: ハッピーミラクルエンジョイ
追放の旅と灰喰いの獣

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21話 巣を追われたものたち

北の森へ入ったのは、イレーネさんと話した翌朝だった。


Aランクのベルンさんと僕たち四人、Cランクの斥候サリナさんたち三人、Dランクの剣士ダグさんたち四人。合わせて十二人だ。


僕とエリクとミレアはEランク。ノエルはFランクで、全員がベルンさんの監督を受ける補助役だった。


最初は、魔獣が住みかを捨てた理由を調べる仕事だった。


けれど、森の奥から猪も兎も逃げてきた。ダグさんたちは盾を構えて僕たちを木の陰へ入れ、群れの通る道を空けた。


最後に倒れた青尾蜥蜴の尾は、一部が灰色になっていた。


アインが鼻を近づけ、耳を伏せた。


『奪われたものがある。だが、この近くには戻すものが見つからぬ』


井戸や石橋と同じようにはできないらしい。僕はベルンさんへ伝えた。


ミレアが普通の水を少し置いた。蜥蜴は自分で舐めたので、風を避けられる草地へ運び、近くに目印を立てた。


その先の窪地に、逃げ遅れた群れがいた。


ベルンさんは北の奥まで追うのをやめ、サリナさんと足元を確かめた。帰り道はまだ使える。持ってきた板と縄で何ができるか、エリクもしゃがんで考え始めた。


今日の依頼は、北東の窪地に取り残された魔獣を灰喰いから切り離すことだ。


味方は南側の高台。窪地はその北。さらに北の木々の奥から、灰色の筋が近づいている。帰り道はここまで印を残した南と、東の浅い川の二つ。


ベルンさん、サリナ班、ダグ班、僕たち。十二人全員が、窪地の手前で立ち止まった。


「討伐するのは、救助路へ入ってきた個体だけ」


ベルンさんが確認する。


「灰喰いへ精霊術を当てない。追わない。魔獣が自分で南へ逃げる道を作る」


ダグは剣を抜かずに頷いた。


窪地は、上から見ると底の浅い皿に似ていた。南側だけが緩い坂で、東西と北は土の壁になっている。底には川辺から続く穴が五つあり、黒い毛の魔獣が出入りしていた。


大人の猫ほどの身体。背中に硬い黒毛があり、前脚は土を掘るため太い。


「穴熊モグラだ」


サリナが教えた。


「普段は家族ごとに穴を分ける。あんなに集まらない」


大人が十一頭。子が九頭。


「数、合ってる?」


僕は二度数えた。一度目は十九頭だった。中央の穴から顔だけ出している子を、黒い石だと思って数え落としていた。


サリナは窪地を四つに分け、東、西、穴の前、南の坂という順に数えた。僕も同じ順でもう一度見る。


東に大人三、子二。西に大人二、子三。穴の前に大人六、子四。


十一と九。全部で二十。


「今の数を最初の数にする。動き始めたら、増えた減ったじゃなく、どこからどこへ移ったかを見る」


ベルンさんが言った。


窪地の外にも仲間がいるかもしれない。二十頭を群れの総数とは決めず、今ここで見える数として記録した。


穴熊モグラは南へ向かおうとしては、地面の下の音に驚いて戻っている。土が盛り上がるたび、親が子の上へ覆いかぶさった。


「襲ってくるように見えるけど、子どもの前へ出てるだけだね」


ノエルが言う。


ネロは耳を地面へ向け、尾を二本とも身体へ巻きつけた。


『下のものは腹を空かせているのではない。触れたものを散らしている』


アインの言葉を僕が伝えた。肉や木の実を欲しがる相手なら、食べ物で別の方向へ誘える。けれど灰喰いが寄ってくるのは精霊の力だ。誘うために使えば、今より大きくしてしまう。


親たちは子を中央の穴の手前へ寄せながら、北側を向いて唸っている。


穴の奥へ逃げたいのではない。


奥から来る何かを怖がり、出口へ近づけないのだ。


『地下にも欠けた匂いがある』


アインの耳が伏せられた。


「灰喰いは森の奥だけじゃない。穴の下にもいるって」


ベルンさんは救助計画を変えた。


南へ追い立てるだけでは、子が穴へ戻れば地下の灰喰いへ近づく。五つの入口を一度に塞ぎ、南の坂だけを出口にする必要がある。


「一度に五つは無理だ」


ダグが言う。


「人が近づけば親が襲う。精霊術で土を固めれば、下のやつへ餌をやる」


エリクは窪地を見たまま、運搬補助用に持ってきた板を地面へ並べた。


長い板が六枚。短い丸太が十本。縄が三束。木の枠が二つ。


「人が穴まで行かなくても、板を倒せたらいい」


「どうやって?」


「上から縄を引く」


エリクは枝で仕組みを描いた。


穴の手前へ板を立て、後ろを二本の支え棒で止める。左右の支え棒を短い縄でつなぎ、その中ほどから引き縄を一本、南の高台まで伸ばす。五枚分の引き縄を一本の横棒へ結び、横棒を引けば十本の支えが同時に外れる。板は自分の重さで穴の前へ倒れる。


「全部、本当に同時に倒れる?」


僕が聞く。


「分からない。だから先に試す」


窪地から離れた場所で、一つだけ小さく組んだ。


僕が横棒を引く。左の支えは外れたが、右が縄へ引っかかり、板は斜めに止まった。


「失敗」


エリクがしゃがみ込む。


ダグが笑いかけたが、すぐに口を閉じた。


「右の縄が左より短い」


僕が並んだ結び目を見る。


「同じ場所で結んだのに?」


「支え棒の太さが違うよ」


エリクは十本の支えを地面へ並べた。木の太さを指二本分に削り、縄をかける溝の高さもそろえる。


二度目は、左右が一緒に外れた。板が地面へ倒れ、大きな音を立てる。


穴熊モグラが驚かないよう、本番では板の下へ枯れ草を敷くことにした。


「五つの穴へ誰が置く」


サリナが尋ねた。


「俺たちが親を南側へ引きつける」


ダグが答えた。


「斬らずに?」


「盾を見せて音を出す。さっきやった」


ベルンさんは、成功した場合だけでなく失敗した場合も決めさせた。


一本でも縄が切れたら、横棒は引かない。板を置く三人は北へ逃げず、窪地の東側を通って浅瀬へ退く。穴から灰喰いの身体が半分以上出たら、魔獣の救助を中止して全員退避する。


「子が穴に残っていても?」


僕が聞くと、喉が詰まった。


「残っていてもだ。人まで穴へ残れば、助けを呼ぶ者がいなくなる」


嫌な答えだった。でも、できないことを決めないまま始めれば、怖くなったときに全員が別の動きをする。


僕は記録板へ〈灰喰いが半身を出したら中止〉と書いた。


エリクは予備の縄を一本、横棒とは別に東の退路へ伸ばした。煙や影で道が見えなくなっても、縄を触れば浅瀬へ戻れる。


ノエルがネロの影で退路を隠す案を出したが、ベルンさんは使わないと決めた。


「灰喰いが影の属性へ反応するか分からない。今日は普通の縄を信じろ」


ネロは不満を示さず、縄の端へ前脚を置いた。力を使わなくても、一緒に退路を確かめられる。


討伐班は窪地の南へ下りた。盾を横に並べ、剣は鞘へ入れたまま、鞘で盾の裏を叩く。


親のうち六頭が南へ向く。


サリナ班が西から回り込み、残る親の視線を布で遮った。その間にベルンさんとテト、エリクが北側へ板を運ぶ。


僕は高台に残った。


五本の縄が絡まず、同じ横棒へつながっているかを見る役目だからだ。


「一番左が木の根に触れてる!」


僕が言うと、エリクが縄を根の上へ通し直す。


「真ん中の板、穴から右にずれてる!」


ベルンさんが板を半歩動かした。


一つずつなら、僕にも分かった。


五つ全部を同時に見るのは難しい。ノエルが隣に座り、ネロへ北側の音を聞かせた。


「穴の下で動いてる。ゆっくり。でも近づいてる」


「あとどのくらい?」


「分からない。さっきより石を擦る音が大きい」


分からない時間を、勝手な数字にはしない。


「急いで。でも、置き方は確かめて!」


僕の声が裏返った。


エリクが高台へ戻る。五本の縄を一本ずつ引き、たるみを確かめた。


「左から一、二、三、四、五。全部つながってる」


「子どもは?」


ミレアとポロが窪地を見下ろす。


穴から出ている子は七頭。二頭が中央の穴に残る。


このまま板を倒せば、二頭を灰喰いのいる地下へ閉じ込めてしまう。


「まだ引けない」


ダグ班の盾へ、親が一頭ぶつかった。盾役の足が土へ沈む。


「長くは持たないぞ!」


エリクが歯を食いしばる。


「子どもだけ出す音があれば」


『あの親が、先ほど子を呼んだ声だ』


アインが言った。


「アイン、話せるの?」


『言葉ではない。まねをしてみる』


アインは窪地の縁へ立ち、短く三度鳴いた。


高い狐の声ではなかった。小さく震え、土の中へ沈むような音だ。


親たちが一斉に中央の穴を見る。


一頭がアインへ鼻を向け、それから自分でも短く鳴いた。アインの声に気づいて、子を呼び直したのだ。


穴の中から、子ども二頭が転がるように出てきた。


「全部出た!」


僕が叫ぶ。


「引くぞ!」


エリクと僕は横棒を一緒に引いた。


五本の縄が張る。


支え棒が外れ、板が左から順に倒れた。


一枚目。二枚目。三枚目。


四枚目が途中で止まる。


穴から突き出た石に角が乗っていた。


五枚目は閉じた。


「四番だけ開いてる!」


穴の下で、灰色のものが動いた。


長い前脚が隙間から出て、板の端へ触れる。木の色が薄くなり、角が崩れ始めた。


「俺が押す!」


エリクが坂を下りようとする。


「一人で行くな!」


僕は腕をつかみ、ベルンさんを呼んだ。僕一人で引き止めようとしても、二人とも坂を転がってしまう。


ダグが盾を別の人へ渡し、エリクの横へ走った。


「場所を言え。俺が持つ」


二人で四番の板へ近づく。ダグさんが班員から借りた長い槍の柄で板を持ち上げ、エリクが石へ縄をかける。


灰色の前脚がもう一度伸びた。


「右へ一歩!」


僕が叫ぶ。


二人が同時にずれる。前脚は空を掻いた。


エリクが高台の僕へ縄の端を投げた。


「引いて!」


僕だけでは重い。


ノエルが一緒に縄をつかむ。ミレアも加わる。三人で引くと、石が穴の外へ転がった。


ダグが板を押し倒す。


四番の穴も閉じた。


地下の灰喰いは板を削り始めた。長くは持たない。


中央の板が内側から一度持ち上がった。


隙間から灰色の頭が現れる。目も口も見えない。泥を丸めたような表面から細い腕が三本伸び、板と土の境を撫でた。


触れた場所は砕けなかった。木目と土の粒が薄くなり、最初から何も組み合わさっていなかったように、さらさらとほどけた。


「半分は出てない!」


僕は自分にも聞かせるよう叫んだ。中止の条件までは、まだ届いていない。でも、助ける時間は短い。


ダグ班が盾の間隔を広げる。サリナ班は南の坂へ白い布を二列に置き、穴熊モグラが灰色の筋を踏まない道を見せた。


一頭の親が板へ向かって戻ろうとする。子の鳴き声が穴から聞こえたと思ったのだ。


ノエルが首を振る。


「穴じゃない。東の茂みにいる子が鳴いてる」


ネロが音の向きを確かめたのだ。


僕は東を指した。


「子どもはそっち! 穴にはいない!」


人の言葉は親に通じない。アインが東へ走り、茂みの手前で立ち止まって鳴いた。親はようやくその動きを追って東へ鼻を向けた。茂みから子が一頭飛び出し、親の足元へ走る。


数が動いた。東にいた子が南の坂へ移っただけで、増えたわけではない。


僕は最後尾を目で追った。


「二十頭、全部います!」


「南へ流す!」


盾が左右へ開き、窪地の坂に一本の道ができる。


親たちは子を囲み、南へ走った。


けれど最後の三頭は、灰色化した脚を引きずって遅れている。


エリクが用意した二つの木枠を坂へ置いた。枠の底には短い丸太が並び、前へ縄がついている。


荷物を運ぶ橇ではない。


自分で走れない子を、親の近くまで滑らせるための台だ。


ミレアが一頭ずつ布で包み、台へ乗せる。小さい二頭を一方へ、残る一頭をもう一方へ。ポロの力は使わない。サリナ班が縄を引き、坂の上まで運ぶ。


親が振り返り、子の匂いを確かめる。


三頭とも、親の腹の下へ潜り込んだ。


穴の板が一枚、灰色に崩れた。


「全員、南へ!」


ベルンさんの声で人も退く。


僕たちは高台から印を残した帰路を通り、東の浅瀬まで下がった。穴熊モグラの群れは川沿いを南へ進み、途中で森の中へ消えた。


追わない。


行き先を決めるのは、あの群れだ。


すぐに追跡せず、川岸に残った足跡だけを確かめた。


大人の幅広い跡に、小さな跡が九組混じっている。途中で一組だけ跡が途切れたが、その場所から親の腹の下へ泥が続いていた。疲れた子を親が咥えたらしい。


南へ二百歩進んだところで、足跡は西の森へ曲がった。そこは灰色の筋から離れ、水と低い茂みがある場所だ。


サリナは目印の木杭を一本だけ川岸へ立てた。


「明日の朝、ここまで来る。森へは入らない。人里へ向かった跡がなければ、移動先はあの群れに任せる」


捕まえて檻へ入れれば、居場所は分かりやすい。でも、分かりやすさのために自由を奪うことが、いつも保護になるとは限らない。


ノエルがネロの背を撫でた。神殿から逃げた二人を、ギルドがすぐ別の部屋へ閉じ込めなかったことを思い出しているようだった。


灰喰いは窪地から出てこなかった。五つの穴のうち二つで板が崩れ、灰色の腕が見えたが、魔獣の匂いが遠ざかると地下へ戻った。


「倒してない。また出るぞ」


ダグが言う。


「だから位置を残して、調査班へ渡す」


ベルンさんは窪地から十分離れた三本の木へ警戒布を結んだ。南の街道側には立入禁止の札を置き、灰喰いがいる穴と魔獣の移動先を別々に記す。


エリクは壊れた仕掛けを見て、唇を噛んだ。


「四番が最初から閉じてたら、危なくなかった」


「一度の試しで、五つ全部うまくいくと思うな」


ダグが言った。


責める声ではなかった。


「でも、お前の横棒がなければ、五つへ人を置いてた。誰かが穴の前に残った」


サリナも、壊れた四番の板を遠くから見た。


「石の位置を上から確かめる方法が要る。長い棒へ鏡を付ければ、穴の前へ顔を出さず見られる」


「鏡は高い」


エリクが困った顔をする。


「磨いた銅板なら?」


「少し曲がって見えるけど、石があるかくらいは分かる」


ダグは盾の内側を叩いた。


「古い盾の金具なら支部にある。討伐証明にならない物ばかりだが、役には立つらしい」


朝までなら嫌味に聞こえたかもしれない。今日は、ダグ自身が次の装置へ材料を出そうとしていた。


エリクは嬉しそうに線を増やし、すぐに消した。


「現物を測ってからだった」


「覚えたな」


ベルンさんが言った。


エリクは照れたように鼻をこすった。


エリクは驚いた顔でダグを見る。


「次は板の下も測る。支え棒だけじゃ足りない」


「次があるなら、盾で押せる取っ手も付けろ」


二人は地面へ次の形を描き始めた。


僕は記録板へ人数を書いた。


出発十二人。帰還十二人。穴熊モグラ二十頭を南へ分離。負傷者なし。討伐数ゼロ。


救助した、と書こうとして手を止める。


あの群れが安全な場所へ着いたかは、まだ分からない。


〈窪地から二十頭の離脱を確認。翌日、南側で痕跡を確認する〉


そう書いた。


昼過ぎに戻った支部では、ベルンさんが僕たちのしたことを一つずつ報告した。


穴熊モグラの子を出したのは、アインだ。


紙にその名前が書かれるところを、僕は相棒と一緒に見た。


『親が呼んだから出たのだ。我だけの手柄ではない』


「うん。でも、最初に気づいたのはアインだよ」


翌朝、同じ班で目印まで戻った。


青尾蜥蜴はいなかった。引きずった尾の跡が草地へ続き、その先には四本の足跡が残っている。見つけた一枚の脱けた鱗には青が残っていたが、それだけで全部治ったとは決めなかった。


穴熊モグラも人里へは向かわず、川の南から森へ入っていた。今日の確認はそこまでだ。


ハルデンへ戻る途中、アインが僕の肩で北を見た。


『穴の奥のものは、森へ来たのではない』


「どういうこと?」


『下から上がってきた。もっと深い場所からだ』


僕には、それ以上の意味は分からなかった。


支部へ戻ると、領都ラグナから早馬が着いていた。


騎手は泥だらけで、鞍から降りる前に叫んだ。


「エルフォード侯爵領で、炎が消えています!」


イレーネさんは、昨日領都へ戻ったばかりだ。


僕の故郷で、古橋と同じことが始まっていた。

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