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禁忌と恋の相談室 ~ヒトにたずねる恋の種~  作者: 筆折作家No.8
第一章 面食い王子と努力の姫
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第一章 ──1 新鮮な恋を求めて

 あたし────琴宮(ことみや)千星(ちせ)は授業時間に蓄積した疲労を、ぐぐっと背伸びして取り払った。


 新生活というのはどうしてこうも慌ただしいのだろう。

 例えるなら毎日がダイジェスト。

 一日一日をしっかり過ごしてはいるのだけれど、振り返ってみればあっという間、すでに五月の中旬だ。

 定期テストだって近づいている。


 まあ、どのみち今やるべきことをやるだけさ。


「さてと、はじめますか」


 周囲を見回す。


 暗幕が掛かった窓。

 人工的な明かりだけの空間。


 部屋の多くの面積を占めるのが黒い天板の実験台六基。

 奥の戸棚には顕微鏡などよく使う機材。

 窓際には大きさの違う水槽が五つあり、メダカやドジョウ、ザリガニが飼育されている。


 本館四階、生物室。

 大型連休明けから入り浸るようになった、いわばあたしの学校での拠点のようなものだ。


「生物部廃部のおかげ、ってね」


 ここにある水槽の管理は生物部の活動の一環だったが、かの部は部員不足により今年から廃止されたらしい。

 そこに付け込んだのがあたし。

 生物室の管理役をボランティアで買って出たのだ。


 なぜかって、理由は教室の後ろ側の『準備室』と示された扉の向こうにある。

 あたしはその扉を開いて中にいた人物に声をかけた。


「星兎センセイ、作業はじめちゃいますね」

 

 そこでは長身で色白の美しい男性、わが身体のパートナー、鷲見(わしみ)星兎(せいと)センセイが書類の束を繰っていた。

 ここは彼の根城なのだ。

 職員室はあるけれど、担当科目に準備室がある場合はそちらにデスクを置いても良いらしい。

 特にセンセイは人の多い場所を好まないので、こちらにいることがほとんどだ。


「……ああ。よろしく頼むよ、琴宮」


 彼は青みがかった長い黒髪を後頭部でまとめつつ、自分の業務を続ける。

 彼の邪魔にならないよう、それ以上の声はかけずにあたしは準備室の戸を閉めた。


 に、しても、『千星』じゃなく『琴宮』か。


「────絶対にもう一度、あたしを視界に入れさせてやるんだから。ね、おにーさん」


 あたしは心に誓う。


 あたしがこの学校に編入して以降、彼との肉体関係は無い。

 何度か誘惑してみたことはあるけれど、ついに一度も手を出されなかった。

 どうやら教師として一定の距離を置こうと気を張っているみたい。


 そっちがその気なら、今度は生徒としての親密さを上げるまで。

 生物部の後釜はセンセイとお近づきになるにはうってつけだった。


「よーし、済ませるぞ!」


 あたしはキャビネットから掃除用具を取り出し、準備を始める。

 仕事を終えれば、あとはセンセイとの特別な時間だ。


 あたしは彼の仕事を静かに見守りつつ、一言二言を交わしながらまったり過ごす。

 実際のところ、あたしはこの時間が嫌いじゃなかった。


 だけど。


・

・

・


「これじゃ、おにーさんとの関係が進まないんだよなぁ」


 掃除を終えて、金魚に餌を数粒落としてやりながら、あたしはぼやく。

 ものすごい勢いで水面ごと頬張る魚たちを眺めつつあたしはため息をつくのだった。


 ちゃんと恋を手に入れるには、こいつらみたいにがっついていかないとダメなんだろう。 

 鯉のように恋に貪欲に……ってこいつらは金魚か。


 すると良いタイミングで準備室の扉がかちゃりと音を立てた。


「……掃除助かるよ、琴宮。……何か飲むか」


 出入り口の壁のところに寄りかかった彼は静かに問う。

 彼の手にしたタンブラーの氷が揺れて、からりと冷たい金属音を立てた。

 どうやら彼も休憩タイムらしい。


「じゃ、センセイが飲んでるのと同じやつ」

「コーヒーだけど、良いか」

「うん。なんなら回し飲みでもいいよ。間接ちゅーになるけど♡」

「……新しく淹れる」


 まったく、つれないなぁ。

 元々クール系だったけど、最近はむしろドライだ。

 あまり良くない流れ。

 何とかしないといけないが、何も思い浮かばないのが現状だ。


 しばらくして彼からアイスコーヒーを受け取ったあたしは、センセイに尋ねた。


「ねえ。人を好きになるって、どうしたら良いと思う?」

「……藪から棒に。僕に聞かれても困るぞ」

「センセイは人に恋したことは無いの?」

「……前にも言ったろう。昔、一回だけだ」

「だよねぇ」


 彼は女性の目を見ることが苦手だ。

 どうも過去の失恋か何かが影響しているらしいのだけど、詳しくは教えてくれないんだよね。


「……そもそも君が高校に入った理由が恋を知るためだっただろ。一体どう行動するつもりだったんだ」

「同級生と過ごしてたら、そのうち絶対に身の回りの誰かが恋愛するでしょ。本物を間近で見て、勉強しようと思ったんだよ」


 映画でも小説でもない、生の感情を目の当たりにして、自分に反映させるのが当初の計画だった。

 『だった』、そう、過去形だ。


「みんな意外と恋とかしないんだよね。してても相手が他校の人だったりすると観測できないし」


 付き合った、別れたなどの事後報告はあるにはあった。

 けど、彼女らから聞く話はどこか新鮮味に欠けていて、こう……ドキドキしないのだ。


「おにーさんとの甘い夜の方が、よほどドキドキしたかなぁ♡」


 舌なめずりをして軽く挑発してみた。

 センセイは目を逸らした。

 だめだこりゃ。


「────で、あたしどうしたら良い?」

「うーん……」


 センセイはタンブラーを煽って空にすると、腕組みをして考え出す。

 なんだかんだ一緒に考えてくれるの、やっぱ優しいな。


 しばらく唸っていた彼だが、やがて一つの案を示してくれた。


「待ちに徹するんじゃなくて自分から聞いてみるのはどうだ。過去の話でも良いから、相談に乗る体で聞き出すんだ」

「恋愛相談、ね」


 果たして恋愛経験ゼロのあたしがそんなことをして役に立てるのだろうか。

 しかし、現状が停滞しているのも事実。


「ありがとう。ちょっと、考えてみるよ」

「……そうか」


 センセイはそう言うと、まもなく自分の仕事に戻った。

 あたしはコーヒーを飲みながら、彼の仕事っぷりを眺める。

 彼と出会ってから五か月あまりの、幸せな時間の延長線上。

 やっぱりこの時間があたしは好きだ。



 ◇ ◇ ◇



 翌日になってあたしは行動を開始する。


 そうだ、まずはあの子に話をしてみよう。

 昼休みになった瞬間、あたしはクラスメイトの少女に声をかける。


「ねね、遥果(はるか)」

「うんっ?」


 振り返った彼女は茶色のポニーテールが良く似合う超絶美少女だった。



[二人の新たな関係に美少女はどう絡む────!?]


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