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禁忌と恋の相談室 ~ヒトにたずねる恋の種~  作者: 筆折作家No.8
第二章 付きまとう影に恋して
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第二章 ──7 エッチしたいかー!

「あ、はい。……わかりました。すぐに向かいます」


 突然の内線。

 受話器を置いたセンセイは、座って話し合いをしていたあたしたちに告げた。


「……恋の作戦会議中に悪いんだが、一緒に保健室に来てもらうぞ」

「何があったの?」


 声のトーンから若干の緊急性を感じ取り、あたしは立ち上がった。


「……八木(やぎ)と椎布(しいぶ)がぶつかって、椎布が転倒した。天馬(てんま)先生が保健室に連れていってくれていたんだ」


 頭の中で、つい十五分前の出来事を思い出す。

 迫る真宵(まよい)から逃げる途中、背後で聞こえてきた遥果(はるか)の叫びと謝る八木の声。

 そうして八木の追跡を振り切った真宵……なるほど、状況が見えてきたな。


「はあ、またあたしのせいだ」


 直接の原因は真宵のストーカー行為なのかもしれないが、彼女を嫉妬させる作戦も、みんなに協力してもらったのも、あたしが考えて実行したものだ。

 真宵が現れたとき、その場で話し合いを持つという選択肢もあったはずだ。

 冷静じゃなかった、じゃ済まされないな。


「ちゃんとみんなに謝らなきゃ」

「……そうだな。これは琴宮(ことみや)の見通しの甘さが招いたことだ」


 センセイはあたしを庇いはしない。

 正しいことは正しい、誤りは誤り、公正な評価を心がけてくれているんだろう。


「……そして僕にも監督責任というものはあるだろう。一緒に謝りに行ってくれるか?」


 ────うん、センセイはこういう人だ。

 恋愛相談室なんてあたしが勝手に始めたことなのに、自分にも責任があるって、本気で思ってる。

 本当に頭が上がらないな。


 日に日に感謝すべきことが増えていく。

 『センセイ』への感情は『おにーさん』への情愛よりも、むしろ敬愛に近いものになっていく。


 これって恋にたどり着けるのかな。

 自分で決めたこととはいえ、なんだか遠回りしている気分だ。


 ────いや、今はそんなことを考えている場合じゃない。

 あたしは短く肺の息を押し出して、気持ちを切り替え、自らを鼓舞した。


「さ、行きますよ、真宵先輩」

「あ、あーしも?」

「……あんたが元凶だろーが!」


 ポカンと惚けている真宵の手を引いて椅子から引き離す。

 まるで他人事みたいにしやがって。

 敬語になりかけたのを悔やむレベルだ。


 立ち上がった彼女は「んッ……」と妙に艶かしい声を出すと、あたしが掴んでいるのと反対の腕を天に掲げ、背を反らせて伸びをした。

 目の前に飛び出してくるは遥果よりも立派な二つの果実。

 これをさっきはセンセイに押し当てて誘惑まがいのことをしていたのか……なんて考えたらだんだんむかついてきたな。

 ちょっとその媚肉を寄越せ。


「んん? どしたん、ちせちん。顔つきこわーい」

「ちせちん……」


 あっけらかんと。

 ああもう、こいつはあれだ。

 深く考えないほうが正解なんだろうな。


「こうせ……蟹藤(かにとう)先輩も向こうにいるのかな」

「……おそらくな。僕が体育館を出る時に騒ぎには気づいていたみたいだったから」


 そういえば、センセイはなんであたしを助けに来てくれたんだろう。

 『ドコイルリンク』で知らせてもいないし、だいいち、あの時のセンセイは女教師との会話に勤しんでいたはずだ。

 そのあたりは、帰ってから家で聞こうかな。


 なんて考えていたら、真宵が突如反応を示した。


「ちょッ、か、カレがいるの? 保健室に? 無理無理、顔合わせちゃうじゃん!」

「えぇ、いまさら?」


 人としての好意(ライク)を持っている相手に対してはベタベタと必要以上にくっつくくせに、肝心の本命(ラヴ)相手に自分を全く出せないのは致命的だ。

 感情と行動があべこべ。

 まともな恋愛が難しいわけだ。


「ちゃんと向き合わなきゃいつまで経ってもストーカー扱いだよ。デートとか、したくないの?」


 あたしは彼女に意思を問う。

 やや伏せ目がちに、しかしはっきりと彼女は答えた。


「……したい」


 重ねて問う。


「手を繋いだりしてみたくはない?」

「……したい!」


 返事に真宵の迷いが消えた気がした。


「キスをしたり、くっついて甘えたり?」

「したいよ」

「ベッドの上で抱き合ったり、愛を囁き合ったりはしたくないかー!」

「したい、したいよ」


 回りくどいのはいい。

 ぶっちゃけ────。


「エッチしたいかー!」

「したい! めっちゃ、抱かれたい!」

「……教師の前で不純異性交遊の話をしないでほしいんだが!?」


 ドン引きする生物教師をよそに、女子二人は気合を入れ直すのだった。



 ◇ ◇ ◇



 結果を言えば、保健室には煌青(こうせい)はいなかった。

 あの場にいたのは足を捻ったらしい遥果と、付き添いの八木、ひかり。

 それからあたしと遥果の担任教師────つまり、直前までセンセイと一緒にいた女教師だ。

 もっとも、担任教師はセンセイに引き継ぎをすると見回りの方にすぐ戻ってしまったのだけれど。


 そうしてあたしと真宵がみんなに謝り倒したあと、ひかりは言った。


「か、蟹藤先輩から、つ、伝えておいてくれって頼まれたんだけど……」



[煌青からの伝言……?]

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