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禁忌と恋の相談室 ~ヒトにたずねる恋の種~  作者: 筆折作家No.8
第二章 付きまとう影に恋して
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第二章 ──8 高校生の主張

 伝言を聞き、あたしと真宵(まよい)は体育館へと急いだ。

 行き交う人々を避け続け、混み合う中庭をやや迂回して、やがて体育館のバルコニーへと続く階段までやってくる。

 そうして段に足を乗せたのだが。


「ぜぇ……か、階段がきつい」

「あ、あーしも脚が重い……かも」


 なんだか今日は走りっぱなしな気がする。

 そもそも文化祭でいろいろなクラスをめぐるのに足を使い、そのうえ真宵とのチェイスを経ての今の状況。

 いいかげん体は悲鳴を上げる。


「つーか、真宵先輩って体力あるんじゃなかったの……?」

「ふえ? 何それ。……よくわかんないけど、あ! ほら、始まってるよちせちん!」


 真宵が体育館の入り口からステージの奥を指さす。

 先ほどと変わらず煌々と輝くステージに、暗く照明の落とされた客席。

 舞台の上には何人かの生徒たちが並んでいる。

 その中には見知った姿もあった。


 筋肉質で、強面で、坊主頭の野球部主将。

 蟹藤(かにとう)煌青(こうせい)はそこにいた。


 ────体育館でのイベントに飛び入り参加する。

 これがひかりから受け取った彼の伝言だ。

 有言実行。かっこいいけれど、少々行動が早すぎるような。


「きゃああ♡ ステージの上の煌ちんもかっこよッ! 絵になる絵になる絵になる……! これは……これはカメラに収めなきゃ……はぁ、はぁ!」

「テンションよ」


 呆れるあたしをよそに、真宵は一眼レフカメラを構え、意中の相手に向けてシャッターを切りまくる。

 過呼吸になりそうな息遣いで、無我夢中の字のごとく。


「ぁ」


 不意に、壇上の彼と目が合った気がした。

 あたしは目立つからステージの上からでも見つけやすかったのだろう。

 そして彼の目線は、あたしの隣で尊死寸前になっている黒髪ギャルへと移される。


 そうか。

 彼にとっては今ようやく自分を追っていた者の正体がわかったというわけだ。


 はたして真宵は思っていた通りの人物だっただろうか。

 煌青は真宵の姿をまじまじと眺め、細い目をさらに細めてふっと笑う。

 どこか満足げに、腕を組んで頷きのポーズ。

 どうやらお眼鏡にかなったようである。やったね。


『それでは本日のメインコーナー、行ってみるっす! 会長、よろしくお願いっす!』

『了解、わかったわ。それじゃ、いくわよ』


 ステージの上の生徒会メンバー二人が、大きく息を吸う。


『『ドキドキ! 高校生のぉ、主張ぉぉぉ!』』


 会場から多くの拍手と歓声が上がる。

 響きの大きさに驚き、見ると、クイズ大会の時とは比べ物にならない人数がそこにいた。


「これって……」


 進行表によれば『ドキ★ドキ? 高校生の主張!』は本日のメインイベントという扱いらしい。

 時間的にもそろそろ各クラスの出し物が終わって暇を持て余す連中が出てきそうな頃合いでもある。

 混雑も納得だ。

 今だって、あたしたちの後に生徒たちが体育館へと足を踏み入れてくる。


 名前から推測するに、参加者がみんなに思い思いの内容を叫ぶという類の催しか。

 公衆の面前で告白したりするやつ。

 ……ん? てことは。


 なんとなく煌青の目的がわかった気がする。

 が、それってアリなの?

 まだ真宵を認知して間もないこのタイミングで、そんなことが────。


『それでは最初にエントリーした方から始めるっす……って、え? ちょ、蟹藤先輩!? 先輩の順番は最後────』


 なんと、煌青は司会進行の生徒から無理矢理マイクを奪い取った。

 もうめちゃくちゃだ。


『おおーい! そこのー、灰色の髪の子ーーーー!!』


 しかも、あろうことかあたしの身体的特徴を叫んだ。

 会場中の目が、ステージからあたしに向けられる。

 あの野郎、さてはあたしを『目印』にしやがったな!?


『おーーい! 琴宮ちゃーーん! 聞こえるかーー?』


 名前を呼ぶな、恥ずかしい。

 とりあえず両手でマルのジェスチャーをしてみたけど、なんだか全身の血液が沸騰して頬に集まっていくみたいだ。

 つーか、このままだと煌青があたしに告白するみたいな流れじゃないか?

 あたしの隣にはやばいストーカー屋さんがいるんだけど、大丈夫かよ。


「ちせちん……あなた……」

「ちがう、ちがうって真宵先輩! あたしはただの目印!」


 危惧した通り、隣から殺気のこもったジト目が飛んできたので、大慌てで弁明する。

 畜生、煌青め、この場を丸く収める気はあるんだろうな。


『琴宮ちゃーん! おれのアノ子はとなりにいるスタイル抜群のかわいい子で合ってるかーー!』

「ま、まるっ!」


 あたしは即座に両腕を掲げてマルを大きく示すとともに、首をカクカクと激しく上下させた。

 は、早く注目の的をあたしから本命に移してくれ!

 彼は軽く咳払いしてから叫ぶ。


『琴宮ちゃんの隣にいる、ちょーーーー可愛い子! 名前を教えてくれーー!!』


 マイクなんか意味無いくらいの声量を持って叫ぶ煌青。

 なんならマイクがハウリングして邪魔になっているくらいだ。

 何人か耳を押さえているしね。


「えっ……あーし……無理無理、恥ずかしい!」

「ええ……」

「だってだってだってぇ、ふぇえ、あーしを見ないでぇえ」

「チッ」


 なんと、ここにきて日和(ひよ)る。

 これまでの恥知らずな言動をからは信じられないくらいに注目を嫌がった。

 どうしてこう、面倒くさいんだよ。


 こうなりゃ、あたしのやるべきことは一つ。


「この人は三年の宍喰(ししくい)真宵ちゃーーん!! いったれ煌青ーー!」


 真宵の代わりにステージに向かって叫び返した。

 会場を煽るべく一言添えて。


 おおおっ、とどよめく声が体育館に響いた。


 真宵は逃げようとしたのか、渡り廊下方面に背を向けかけた。

 が、そうはさせるか。

 あたしはとっさの動きで真宵の両肩を掴み、ステージへと向きなおらせる。


「逃げない逃げない。ほぉら、愛しの『カレシ』があんたを見てるぞぉ?」

「はわわわわ!? あ、あーし、あーしは……」


 どうだストーカー女。

 陰に潜む恋しかできなかった貴様が、こうして衆目に晒される。

 一体どんな気分だい。

 真っ当な恋から逃げて歪な伝え方しかできなかったあんたが、こうやって正面切って真っ向勝負を挑まれるんだ。

 ここはあんたも前を向いて向き合う勇気を持つべきだ。


「んきゅぅ」


 真宵は観念したのかオドオドしたまま舞台を見つめた。

 真宵と煌青の目が合ったのだろう、彼女はびくんと身を竦ませ、彼は舞台上で優しげな顔をした。


「これ、頼むわ」

「わ、ちょっ────」


 煌青はもはやマイクなどいらないと生徒会の子に向かってそれを放り投げる。

 次の瞬間、演劇部もびっくりの大声量で叫んだ。


「シシクイマヨイさーーん!!」


 ああ、今までの叫びは全力じゃなかったんだな、と、わかるくらいに空気をビリビリ振るわせる。

 皆は空気に呑まれて静まり返り、続く告白を固唾を飲んで見守る。

 野球部主将から繰り出される、腹からの本気の叫び。


「めっちゃエロくて大好きだーー!! 付き合ってくださーーーーい!!」


 直球どストレート。

 ひかりと八木の時みたいな、儀式めいた掛け合いなんて一切無い。

 ただ、相手の心を打ち抜かんと真っ直ぐに球を投げた。

 ストライクゾーンのど真ん中を目掛けて放った渾身の告白は、はたして真宵の心のミットに収まるのか。


 真宵は口元を手で押さえている。

 肩を震わせている。

 集まる視線。


 あたしは彼女肩から手を離し、少し前に出て彼女の表情を確かめた。

 感極まった泣き出しそうな顔。

 もう、心は決まっているみたいだ。

 あとは返事を返す勇気を捻り出すだけ。


 あたしが真宵に軽く頷いて見せると、彼女は少し目を閉じてから大きく息を吸った。

 そして瞼が開く。


「よろしくおねがいしまぁぁあああす!!」


 うおおおおおおおっ!


 刹那。歓声で空気が揺れた。

 振動が足元からも骨伝導で伝わり、心臓に響くほどに激しく。

 驚きと祝福のビート。


 ストライク、バッターアウト。

 ゲームセット。

 会場中が熱気に包まれ、もらい泣きまでする生徒もいる中、勝負は決着した。


 おめでとう、真宵。

 おめでとう、煌青。


 これにてあたしの恋愛相談は────。



 ……あれ。

 恋愛相談は?

 これで終わりでいいの??


 いろいろ腑に落ちないが、ひとまずは一件落着ということで。

 よかったよかった!



 ────その後。


 ステージから飛び降りた煌青はまっすぐに愛しの彼女の下へ。

 熱狂した観衆からもみくちゃにされる煌青と真宵。

 煌青なんて、同じ野球部の人たちに胴上げされる始末だ。

 真宵のロングヘアだって、みんなから撫でられまくってもうくしゃくしゃだ。


 ひぃひぃ言いながら手櫛で髪を整える真宵。

 そんな彼女の首元は艶めかしく、エロティックで。




 そして────ホクロひとつ無い、透き通るような白さだった。

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